120 渦中
作中、何日だろうね?←
「良い行き先あった?」
「何をもって良いと判断するのか分からないけれど、とりあえず、中央行きの船は無さそうね」
プレイを再開した一行は、その足で乗船券売り場までやって来た。
早速中央へ向かおうとばかりに、現在の出港予定を確認していたのだが、提示された行き先の中には中央行きのものは無いようだった。船旅は当分続くようである。
「前回通ってきた航路も無いんですね?」
「航路は日によるみたいだからね」
前の街に戻る予定は今の所は無いのでその点に関しては其処まで気にならない。とはいえ、変動し続ける航路は進むも戻るもどちらにしろ影響を与える。もしかしたら此処から真っ直ぐ中央に進む航路があったとしたなら、少しは面倒だとは思う。
「まぁ思っても仕方ない。取り敢えず中央に近付く航路を取りましょうか」
目的地に少しでも近付く為、表示されている行き先の中でもっとも中央に近付くであろう地点を選択する。
其処は海にぽつんと存在する場所だった。現在地と比べると終着点以外の場所は無い上に、島にしても小さい。だけど他の行き先よりは中央に近い。
「お、もうすぐ出港みたいだね」
「じゃあ急ぎましょう!」
ギリギリ迄受け付けられていたせいか(お陰か?)、余裕は無かったものの、チケットを買ってから直ぐに船は町から出港した。
詠たちが乗った船にはそこそこの数の人が乗っていた。乗っていたのだが、乗っている人が船員であったり冒険者であったりするが、其の殆どがNPCであった。プレイヤーの姿は自分たち以外に見当たらなかった。
「まあスタート地点を考えれば不思議でもないんじゃない?」
意外と酷い事をAkariが言っている。
要は先程の島がプレイヤーに関しては過疎っていると言うことになる。否定はしない。詠たちがログインした頃には町中には殆ど残っていなかったのだから。…乗船券を買うときはちらほら居たけど違う船のようだったし。
――――ぅ。
「今誰か鳴った?」
「いや、アンタから聞こえてきたけど」
「確かにAkariさんから聞こえましたね」
Akariの方から、正確にはお腹付近から音が鳴った気がした。Akariは「此処はゲームだよ?」と言っているが確かに聞こえた。すると、他にも鳴っている者が居た。
「そういえば、前の大陸を出てからあまり食べてなかったような…」
空腹度は減るとデメリットが発生するが、戦闘をあまり行っていないのであまり関係は無いのだが、気にはなる。一応回復ポーションでも気休め程度には回復するようなので、今更気付くのもそのせいだろう。おまけに戦闘など激しい動きはしていないのでなおのこと。
「一応携帯食なら買ってるよ?ほら」
そう言ったのはわんたんだったが、たんぽぽも同じようにウインドウからアイテムを実体化させていた。
「何時の間に…」
「いやぁ、隙あらば食べようかと」
取り敢えずツッコミはよそう。
二人が皆にも分けてくれるようなので、有り難く携帯食料を受け取って食べる。
此れからは何処かで買って持ち歩くという事も必要なのか。
「エネミーも空腹度ってあるの?」
「…あるんじゃない?」
頭の上で変わらず控えているゼピュロスフェザーにも少し分けてあげると迷い無く喰らい付いた。食べてから気持ち動きが良くなったように思える。
「そういえば、此れ買ってる時に思ったけど、鍛冶みたいに料理もプレイヤーで作れるのかな?」
「…どうなんだろう?」
「鍛冶よりも家事の方が現実寄りな気もするけどね」
考えてみれば、より現実味を増したこの世界なら、料理ぐらい出来てしまいそうではある。其れこそ一般的に鍛冶よりも家事の方が身近にあるし、反映されていても不思議では無い。どうせなら今度試してみようかな?
「それを言ったら、食料も直で食べれたりするのかな?」
言いながらAkariはウインドウからリンゴ(食材)を一つ実体化させると齧り付いた。その様子から食べれる事は食べれるようである。もぐもぐと口を動かした後、飲み込んだ。
「…あ、一応回復してる。ミリ程度だけど」
どうやら食べられはするが、空腹度の回復量は料理した方が高いらしい。とはいえ、食材を直で食べられるのならその場しのぎにはなるのでは。
などとそんな会話をしながら空腹度を回復させていると、一行を乗せた船が強い振動を受ける。
「うぉぉぃ!?」
「何?襲撃?」
『現在、船は渦の近くを通っております!流れを抜けるまでもう暫くお待ち下さい!』
船員からそのような報告がなされた。
其れに促されたように一行は船の外の海を見た。すると船が向かう先に渦潮が見えた。その渦潮はまるで口のように海に穴を開けていた。
「渦潮まであるんだこの海!」
「…此れって沈んだりする?」
「何とも物騒な事を…」
今更変えられないばかりに船は渦へと突っ込んでいく。少しでも速く海域を抜けようとして速度を上げる。
そんな船に対して、渦は変わらず絡め取ろうと海水を手繰り寄せている。捉えた者を飲み込まんとしているように海面よりも深い位置に存在する穴に落ちればどうなるか分からない。
そんな渦を見て、大人しかったゼピュロスフェザーが何かに反応するように動き出した。そして――
「え、まさか!?」
船が渦の真横に差し掛かったと同時にゼピュロスフェザーが船から飛び立った。渦の上へと飛んでいったゼピュロスフェザーは中心の真上に来ると、其処から穴に向かって飛び込んでいった。
「「嘘ぉぉ!?」」
「また!?」
「行っちゃいましたけど!?どうしますか?」
「どうするって言われても!?」
「取り敢えず飛び込むしか無いでしょ!」
先の事など考えず、Akariが言い終わるや否や、ゼピュロスフェザーを追って渦の中心目がけて飛び込んだ。微妙に距離が足りておらず渦に巻かれながらもAkariは中心部分に落ちていく。
「…仕方ない!」
放っておく訳にはいかず、何が起こるか分からないながらも続々と詠たちも渦に目がけて飛び込んでいく。中心に飛び込み、渦の先にある水に巻かれながらも、その身は海中へと沈んでいった。
「けほっ…ごほっ…」
全身に掛かる水圧が感じられなくなり、空気を吐き出してみると、問題なく空気の入れ替えが出来た。
次に辺りを確認してみれば、水に呑まれた筈の詠たちは気付かぬ内に洞窟の中に投げ出されていた。
自分たちの背後には上から水が流れ落ちてきている。恐らく此処から流れて来たという事なんだろう。まさか渦の先がこんな洞窟だとは…
「…全員居る?」
確認してみたが、先に飛び込んだAkariも含めて全員水柱の近くに揃っていた。ゼピュロスフェザーですら周辺で飛んでいた。今回はまだ行動が控えめだったようだ……渦に飛び込んだ時点で控えめと言うのは変だけど。
「…なんと言うか、まるで案内されたみたいね」
ゼピュロスフェザーが渦に飛び込まなければ、渦潮の下にこのような場所があるとは思いもしなかっただろう。あの行動が此処に案内させる為の行動だったと思えなくも無い。
「結構広そうですね」
「…敵の気配はありそう」
さて、この洞窟の方はというと、現在地はスタート地点的な扱いなのか比較的平和ではあるが、洞窟の奥の方から声のような音が響いてきている。先に進めば間違いなくエネミーに遭遇する事であろう。
「まるでダンジョンね」
「…まるでも何も、ダンジョンだと思うよ」
兎に角、此処がどんな場所であれ、進むことしか選択肢が無かったりする。
なので、一行は探索の意味でも帰る方法を探す意味でも、ダンジョンと思しき洞窟の中を進んでいくのであった。




