115 ぱっと行くぅ?
ダンジョン内のショートカットとなると、とあるスキットを思い出す。
タマゴから鳥型エネミーのゼピュロスフェザーが孵り、従者として迎えた後、詠たち一行は未だに従者に対する視線を集めつつも、いよいよ大樹に登るべく受付へと向かった。
受付の隣の道の先に見える二つの階段、上に登る為のものと、下に降る為のものの二つがある。今回の目的は他によってクリア済みである大樹を登る事である為、何も必要とせずに通路へと通される。
「此処からは未開だね」
「先輩以外はね」
そう雑談しながら上への階段を上っていく。
階段を上がった先にはいきなり広い空間が広がっていた。広いと言ってもギルドよりはという話でありボス部屋等にしては狭い気がする。その空間には敵エネミーの気配はなく、それどころか此れと言って仕掛けなどがある訳でも無さそう。其処にはプレイヤーたちと二つのものが有るだけ。その二つのものとは、一つが更に上へと向かう為の階段。そしてもう一つが植物が合わさった枠の中心に渦が見えるゲートのようなもの。
「何あれ?」
「ゲートみたいだけど、大陸移動のゲートにしては小さいよね?」
今もプレイヤーが一人ずつそのゲートに入っていってはいるが、大陸を移動するものにしては少々小さい。そのデザインも場所としては合っているが、以前使った事の有る別大陸のゲートとは根底から違うような印象を受けた。
其処で、わんたんがゲートに向かっている一人を止めて話を聞いた。
「あのオブジェ?アレは単なるショートカットよ?」
「ショートカット?何処への?」
「上にあるゲート手前へのショートカットよ。レベル上げなら兎も角、素直に登っても其れなりに時間が掛かるからね此処」
「そういえばアプデで移動し易くなったって聞いたなあ…」
どうやらそのショートカットこそが、移動し易くする為の要素なようだ。確かに一々ダンジョンに挑むよりは途中の道を省略した方が移動はし易い。移動より経験値やドロップを意識する人は、今も向かっている者のように使わなければ良いだけの事だからね。
話を訊いたプレイヤーとは別れて一行もショートカットを使おうとゲートへと近付く。今回は体験希望では無いからね。
「此れで上の階に向かうんですよね」
「うん。ゲート前まで飛ぶ……筈」
「其処は確信では無いのですか!?」
「まぁ、経験談では無いからね」
教えてくれた先程のプレイヤーを疑う訳では無いが、やはり自分の目で見ていないと少々信用し辛いというもの。とはいえプレイヤーたちが躊躇いなく入っているので危険では無い事は分かっている。
「兎も角、そろそろ行きますか」
ショートカット用のゲートは大陸移動のものに比べて小さく、一度に入れる人数は精々二人までが限度だろう。そんな小さなゲートに此れから順番に入ろうかという頃――
「あ、ちょっと!」
ゲートを前にした途端、何を思ったのか詠の頭の上に控えていたゼピュロスフェザーが先程まで大人しかったにも関わらずに動き出した。そして大きく翼を広げては危なげながらも飛び始め、ゲートの中へと突入していった。
生まれたばかりで飛べるのは良いことだけども、元気が過ぎるのでは無いだろうか!
「ゲートに入って行きましたが!?」
「勝手に動き回れるの!?」
「とにかく追いかけよう!」
従者とはいえエネミーを一体で先に行かせては何かしら問題が起こりかねない為に詠たちは躊躇いなど捨てて急いで、それでいて順番に、ゲートへと突入した。
ゲートの中に入ると、瞬く間に景色は切り替わった。
先程までゲートと階段が有るだけで広いだけの場所だったのが、ゲートに入った瞬間、大きな階段が隣に位置している狭い場所に出た。部屋と言うよりは通路の途中だ。
「移動したけれど…どの辺り?」
「多分ボスの居た最上階手前」
そんな詠の疑問に答えたのはせんなだった。その片手は気怠げに上がっており、階段の先を指さしていた。
階段の先には木の内面では無い、鮮やかな景色が見える。
邪魔するものの無い青空が。
「此処は最上階迄の階段の中継地点のよう。この階段を上がれば一番上に出る」
「ほんとにショートカットだったね」
「アレは何でしょうか?」
皆が出てきたゲートの反対、通路を挟んだ向かい側には扉が一つ存在した。その扉の表面には何かの文字が記されており、触ってみたが扉が動く様子は無い。
「以前はこんな扉は無かった」
「と言うことは此れも追加要素? にしては入れないけど…」
「…何か条件があるのかも」
「まぁ目的は上の階だから別に良いけどさ」
その先で無いのなら扉を無理して開く必要は無い。
其れよりも、先にゲートに入ったゼピュロスフェザーの姿がこの空間の何処にも見えない。あまり間隔を空けずに追ってきたから其程遠くへは行っていない筈なのだが。現在地は階段の途中であるので、行ったとすれば上階か下階か。
「どうする?一応下を探してみる?」
どうしたものかと少し考えていると、決断するよりも先に上の階が突然騒がしくなった。
「…何?」
「どうしたのでしょうか?」
周りが疑問に思う中、せんなが誰よりも先に階段を上がり始めた。詠も何かを察してその後を追うように階段を上り始めた。そして最上階が近付くにつれて聞こえてくる声は大きくなっていく。
そして最上階に辿り着く。
其処は何処よりも高い場所であり、其処まで強くない風も吹いており、大空が近くに感じられる場所だった。
「どっから湧いてきたんだ?ボスか?」
「ボスは違うでしょ。あんまり強く無さそうね」
「見たこと無いタイプだがレアエネミーか?狩ったら何か出るかもな」
大樹の頂上である葉の上は、元の大樹の幅からも分かっていた以上にかなりの広さがあった。恐らくボス戦の事も踏まえての広さなのだろう。
そんな頂上の中心には大きなゲートが佇んでおり、その手前にはプレイヤーたちが集まっていた。そのプレイヤーたちの視線の先には飛んでいったゼピュロスフェザーの姿があった。
「「「居た!」」」
「うおっ、急になんだ!?」
一行が発見のあまり、声を上げると、プレイヤーたちが何事かと一斉に詠たちの方を見た。そしてその隙にゼピュロスフェザーは再び飛翔し、詠の頭の上へと戻ってきた。
詠が自分の頭の上のゼピュロスフェザーの頭を何気なく撫でると、其れを見て呆気にとられたようになっていたプレイヤーたちは敵では無いと察したようだ。と言っても、状況を理解したのはほんの僅かで、残りはイマイチ理解出来ていないようだった。
「どうなってるの?」
「もしかして従者って奴か?」
「従者?そういえばそんなの聞いたな。ペットに出来るんだっけか」
「従者?」
理解しようがしまいが此方に視線を向けているが、倒されずに済んだのでそれ以上は気にしないでおこう。
そんな周りを放っておいて、一行は頂上の中心で存在感を放っている開かれた状態のゲートに近付く。ゲートは中央に存在するため後ろには遮る物が何も無いが、後ろから入れないようにされており、一方向からでのみ中を潜る事が出来る。(裏に回っても只の壁があるのみである)
「飛んだ先って前に戻ってくる際に使ったところかな?」
「あー、あの決闘が行われてたところ?」
「そうかもしれないし、変更されてるかも知れない」
「まあ実際に入ってみれば分かるよね」
見知った所に出るのが一番良いけれど、変更の可能性もあって、実際に入ってみなければ大陸の何処に出るのかは分からない。
「いざ行かん!」
其れでも一行は恐れること無くゲートの中へと飛び込み、大樹の頂上から飛び立っていった。




