106 腹が減っては
集落大樹"ラグレシア"。
街へと入ると同時に仲間と合流を果たした詠は、そのまま近くの店へと連行された。通された店はオープンカフェのような場所で、近くを見れば席について何かを食べているプレイヤーの姿も確認出来た。
店の中に入ると同時に、皆の先導で空いている席へと誘導された。何故此処に連れてこられたかという理由は、のんびり出来そうな場所という事なのだろう。合流前に見つけていたらしい。
「で、あの後何してたのさ!」
早々にAkariにそう問われた。
"あの後"となると恐らく霧の中での戦闘後という事だろう。爆破テロをしてはぐれる原因となったあの時のこと。あの時となると……
「爆破の衝撃で木に刺さってた」
その答えると数人が噴き出したのは何故だろう。
間違ったことは言っていない。木の葉の中に埋まって少しの間動けなかったのは事実なのだから。
「其れなら連絡ぐらいしてよ!何度掛けても反応が無かったし!」
「そうなの?」
他のメンバーに訊いても確かに何度も掛けていたらしい。
だけど妙である。Akariたちは何度も掛けたと言っているが、詠側からすれば出ないどころか、一人で居る間一度も掛かってきた覚えは無かった。メニューを確認しても履歴の一つも付いてはいない。
考えられる事と言えば、あのノイズの時だろう。見る分にだけ影響が出ていると思っていたけれど機能面でも妨害が発生していたらしい。
「まぁまぁ、取り敢えず何か食べません?」
連絡の件からさらに追求されるよりも前に、宥めるかのようにわんたんが横槍を入れた。もとい、話題を変えた。その変更先の話題がこの店にも関わってくる内容である。
「此処ってそういうお店なの?」
詠のそういう疑問を気にせずに、わんたんは自分たちのテーブルの中心部分に触れた。すると其処にずらっと文字が並べられたウインドウが表示された。書かれているのはこの店で取り扱われている商品。要はメニューであった。
その中からわんたんは一つを選んだ。すると少ししてから店の奥の方から「お待たせしました」と言って料理を持ったNPCがやって来た。そのNPCは詠たちのテーブルに先程注文したと思われる料理を置くと奥へと戻っていた。
テーブルに置かれた料理は一言で言うとハンバーガーだった。見た目が少し違う気もするけれど、其れは素材の違いだろう……異様な気がする。
「あ、案外イケる」
わんたんは運ばれてきたハンバーガーを躊躇いなく頬張っていた。
そういえばこの世界でも食事は出来るが、システムの関係上その味や食感は其程良くは無かった筈なのだが、わんたんの食べっぷりを見ているとそんな感じはしない。気が付けば隣のAkariも何かを注文しては食べ始めていた。此方も不味そうな感じはしない。
「何でも、食事面でも改良があったらしいですよ?」
疑問に思っているとるる。がそう教えてくれた。
何でも今回からある程度の味や食感を再現されるようになって美味しくはなったようだ。と言うのも、リアルさを重視した為か食事の重要度が従来よりも上がったらしいのだ。その理由が空腹度の追加らしい。
空腹度は現実と同じように時間が経つにつれてお腹が減ったりするのだが、弱って免疫力が下がるように、此のシステムでは減れば減る程、被状態異常確率の上昇等のデメリットが付いてくるというのだ。それ故に食事を意識するようになったプレイヤーも増えている。ちなみに此方での食事によって現実に影響が出ないように調整はされているようである。
詠もステータスを確認して見たところ、確かに見覚えの無い空腹度のゲージが追加されており、しかも其れがかなり減っていて危険信号のように点滅していた。今日ログインしてから減り始めていたのなら此処まで減っていても不思議では無いか。
「じゃあ私も…」
詠は先程の動きを参考にテーブルの中央部分に触れた。すると同じようにメニューが表示された。其処に記された料理名は、前に付いている素材名を除けば有り難いことに見知った名前ばかりだった。内容はカフェな雰囲気の店の割に、如何にもジャンクフードと言った物が中心となっていた。カフェであってカフェで無いという事なのか。
そんなメニューの中から詠は無難そうな『ボアハムと葉野菜のサンドイッチ』を選択した。注文すると同時に支払いが勝手になされ、奥から注文の品が運ばれてきた。見た目としてはやはり普通だ。
気が付けばメンバー全員がそれぞれに注文をして場は食事会に変わっていた。
詠もそんな中でサンドイッチを口にした。
確かに現実に近い食感はある。少し薄い気もするけれど味も以前よりは良くなっていて美味しく感じる。もきゅもきゅと食しながらそんな事を考えていた。
「…此れからどうする?」
食べながらそんな言葉が出た。
「まぁ、色々あったけど合流は出来たからね…」
「ならそろそろ動いてみる?」
「動くって何処に?」
「そりゃあ…次の大陸でしょ!」
わんたんがそう宣言した。
確かにパーティのレベルとしてはこの大陸でも余裕が出来てきたので、そろそろ活動拠点を次の大陸に移しても良いのかも知れない。前回の経験からレベル差も其れなりに縮んでいるのは分かっている。スキルに関しても詠は兎も角として、皆も少しは増えているようである。止める必要は無さそうだ。
この提案に反対する意見は出なかった。なので次の目的地は先の大陸になる事だろう。だけど直ぐには動かない。今は揃って食事中なので。
サンドイッチを食べ終えると気持ち身体が楽になったように感じた。ステータスで確認して見ると空腹度のゲージがそこそこ回復していた。だけど流石にこれだけでは全快と迄はいかないようだ。ちなみに全快はしなかったが料理効果なのか、別で微量ながら効果が付加されていた。これだけでも充分な気がしてきた。
「さて、それじ――」
それじゃあ、と立ち上がろうとした時、詠の身体が地味に光った気がした。そして其れが気のせいでは無いと証明するように、光が独りでにテーブルの上へと出てきた。
「え」
突然出てきたものに皆が驚いていた。
唐突に現れた事にも驚けば、詠から《《タマゴ》》が出てきた事にも驚いていた。只一人詠だけは驚くというよりは何故?といった様子でタマゴに触れていた。
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【状況】
もうすぐ生まれそう?
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いや、訊かれましても知りませんが。
タマゴの状況を見た限り、つい先程貰ったばかりなのに思っていたよりも孵化が早そうである。だから飛び出したのだろうか?
「何これ、茹で卵?」
「動いてますがな」
「此れは何ですか?」
「何って…タマゴ?」
何と言われてもタマゴとしか言い様がない。生まれてくるものは此の世界基準だけど。
「何かのアイテムでしょうか?」
「私は知らない」
そういえばあまりタマゴについて触れてはいなかったが、先輩が知らないとなると此れも新しく実装された要素なのだろう。其れなら情報もあまり出回ってはいないと思って間違いは無いだろう。生まれるモノについて調べるのは無理そうだ。
そんな事を考えていると、流石に皆から説明を要求された。なので一応簡単にではあるけれど説明をしてみた。"偶然手に入れてしまった"と。
「へぇー。新要素ならそういうのもあり得るのかぁ」
なんか納得されてしまった。
まぁ、此処までに体験した事を説明する気は無かったから追求されないのは良いけれど。《《向こう》》にしても予想外な出来事だっただろうから流石に証明も出来ないし。
そんなこんなで一先ず生まれる気配の無いタマゴを仕舞うと同時に話題を切り上げた。
「良い時間だし今日は此処までにしない?」
いざ行かんと張り切った所にそんな言葉が飛び込んできた。確かに時間も其れなりになっていた。其れならと続きは次回にして今日は此処まででログインすることにした。普段ならもう少し居てもおかしくないが、霞ヶ丘邸に置いてきた荷物を取りに行かないといけない。
其れで今回のオフ会は終わり。
あー、この日に投稿するのなら注文をチョコ関係にすれば良かったと思わなくは無い。
(後悔にもならない)




