102 DISCOVERY FAIRY
お使いになっている機材は正常です。機種依存文字などは使っていません。
森の中を進んでいく妖精ことアリーフェを追うように、森の奥へ奥へと進んでいく詠。アリーフェの様子から迷い無く進んでいるように見えるが、恐らく目的地は決まっていない。地形情報を所持している訳では無さそうだからだ。
時偶、木々の隙間から中央に聳え立っている大樹が垣間見える時があるが、見え方が大して変わらない事から中央に近付いている訳では無い事だけは分かった。
「一体何処に向かっているのかしら…」
自由気ままと言った感じに行動しているらしいアリーフェには行きたい場所がある訳でも、やるべき事がある訳でもない。彷徨っているだけなのは分かっているが、其れなら何故こんな所に出てきているのかが未だに謎である。
見ていた限り、アリーフェはどちらかというとプレイヤーよりNPC寄りな存在だ。とは言っても、明らかに冒険者NPCではない。冒険者では無いNPCは基本的には決まった場所に居る筈だけども、アリーフェはこうして理由も無く彷徨っている。その点が相変わらず分からない。
「それにしても…」
アリーフェを見ていて思うが、相変わらずエネミーはアリーフェに気付かない。先程から何度か近くに湧いては認識されている筈なのに、少し近付くとまた離れていくのだ。一時、その後ろに居た詠に反応しそうになったことがあったが、アリーフェの影響が近くに居た詠にも作用したのか、詠さえもエネミーに襲われる事は無かった。
「もう、歩くエネミー除けよね…」
安全に移動する分には大変便利だった。
そんなこんなでアリーフェと詠は森の中を進んでいく。マップが見れないので詳細な位置迄は分からないが、中央には一切近付いていない。何時まで経っても町や集落の一つや二つ見当たらないのがその証拠だ。其れでも歩みは止まらない。
― ―――― ―――。
まただ。ノイズの耳鳴りを一瞬だけど感じた。二度目なら気のせいという訳はない。やはり何かがあるのだろうか。近くに、もしくはこの世界自体に。だけどノイズを感じた以外に妙な点は見つからない。
「発見」
突然のアリーフェのその言葉に釣られ、前方を見てみると、其処には地下から突き出るように存在しているトンネルがあった。正確には地下への入り口。明らかにダンジョンだ。
その存在に詠は疑問符を浮かべた。なにせ先程詠が前方を見た際にはそのような存在は影一つ無かった気がするからだ。
「でも、やっぱり止まらないのね…」
詠は以前にも覚えがあった故に其れがダンジョンだと一目で分かったが、アリーフェは当然知っているわけは無く、ふらふらとその入り口へと進んでいった。
止めても無駄っぽいと思う反面、歩くエネミー除けなら危険も無いかと判断した詠は見守る程度にその後を追っていく。
――――ダ??ョン "忘???た黒?" ――――
二人が進入したダンジョンは地下に存在するという割には壁がしっかりと固められているだけでなく、何処か落ち着いた印象を与えるダンジョンだった。
造りとしては、例えるならば何処か外国の王宮の廊下とも思えてしまいそう。陽の光が差すこと無く、明かりが少ない事も、かえって非日常な雰囲気を醸し出している。
「ダンジョンの割には静かね…」
ダンジョンと言うのだから外のフィールドよりエネミーの出現率が高くても不思議では無いのだが、今の所は一体として出現しない。付け加えれば、二人以外の存在を一切感じない。アリーフェがエネミーを近寄らせないことが影響してそもそも湧かせないという状況を生んでいるのだろうか?それはそれでどうかとも思うけども何故か納得出来てしまう。
エネミーが多々湧くダンジョンは危なく思うが、一体も出てこないのも此れは此れで不気味だ。進んではいけない所に迷い込んでいる感じがして歩みに躊躇が生まれる。そんな中でもアリーフェは相変わらずといった調子で進み続ける。この先に何があってもお構いなしである。
「ほんと、この先に何があるのかしら…」
ダンジョンとしてはとっくに機能していない上に、道は迷うことの無い一本道である。一向に変わり映えのない景色にダンジョンかどうかも怪しくなってくる中、その通路の遙か彼方に光が見えた。どうやらこの長い道も終わりのようだった。本当に通り抜けるまでエネミーは出なかった。
そして通路を歩ききり、ようやく次の場所へと辿り着いた。
「何此れ…此処に来て行き止まり?」
そう。長い通路を渡りきった先にあったのは単なる広いだけの部屋だった。自然も人工物も一切無ければ、生物も生物が居た痕跡すらも、何一つ無い。ただ広いだけの空間。
「これ以上の道は見当たらない…。ダンジョンですら無かったの?」
部屋を見渡しても、自分たちが通ってきた道以外に道は見当たらず、隠し通路があると言う訳でも無さそう。天井はやけに高いけれど、何かが上に居たりという心配も無いようである。
一応位置情報を見ようとメニューを呼び出してみたが、相変わらず画面にノイズが乗っていて読めない。それどころか先程よりも酷くなっているような?
その時、部屋の中に妙な音が響いた。
その音は小さなものだった。だけども甲高く、聞き逃す事はない音。
出所を探るように部屋を見渡すと、アリーフェの居る部屋の中心部分の景色が乱れていた。次第に其処にはホログラムのように何かが映し出されていく。そして、映し出されて形を現した其れは、次の瞬間、この空間に顕現した。
『GAAAAAAAAAA!!』
建物のように大きな獣の雄叫びで、部屋中が震えた。




