11 初めてのクエスト*
私を含め、直に接したことのある人は知っているが、霞ヶ丘閃奈という女性は普段はミステリアス等と言われたりするが少々天然が入っている。それと結構小動物なども好きである。そのためなのか生徒会室で居る時は決まって膝の上に何故か猫か兎がいる。ぬいぐるみではなく限りなく本物。毛の感じがいいとかなんとか。
…それに該当したとでも言うのだろうか…
「……」
決闘の後と言う事もあって、このままだとかなり視線が刺さるので、ジャンキーの提案で広場から場所を移して、落ち着いて話せそうな宿屋の一階の空きスペースへ。ジャンキーはまた後で来ると言って何処かへ行ってしまった。気を利かせてくれたのかもしれない。その間にも先輩(仮)は周りのことなど気にせず尻尾を触り続けているんですが…。
「あの…確認なのですが、先輩で合ってますか?」
「………ええ」
触るだけ触って、何も無かったかのように振る舞う先輩(確定)。
「なんで触ってたんですか?」
「…触り心地が良さそうだったから」
そうですか…。
「で、先輩、さっきのはどういう事?」
「?」
「先輩って先の大陸に居たんだったら、なんであんなに…なんていうの?アンバランスなんですか?」
Akariの質問の意味が未だに分かってないのか、先輩が首を傾げている。
この人、仕事や作業は素早く片付けるのに、すべきことがなかったり、自由となると途端に思考が空っぽになる時がある。今思うといつも猫を撫でてたりする時も空っぽなのだろうか…?
「えっと…つまりですね、先輩の実力と装備の割にレベルが低かったり、凄い術技スキルを使えるのにさっきはなぜ相手を倒し切れてなかったのか、ということです」
「そうそう」
代わりに説明するとようやく伝わった。Akariもそのまま言えばよかったのに、なんでわざわざアンバランスって言い回したのか。
「多分転生したから」
「多ぶ――」
「まさか〈転生システム〉のことか!ってことはそれも上級種族なのか?」
軽くツッコミを入れようとしたら入口の方からかけられた声に遮られてしまった。別に其処まで重要じゃないからいいけど。念のため誰の声かと確認すると戻って来ていたジャンキーだった。ってまた新しいシステムの名前が出たぞ?
「あ、ジャンキー、戻って来たの?その〈転生〉とか上級種族とかって何?」
「〈転生システム〉ってのは公言されてはいなかったが初期から存在するシステムで条件を満たせば、他の種族になることが出来るって話だ。それで上級種族は〈転生〉でのみなることが出来る特殊種族だ」
「へぇー、そんなのがあるんだ」
「そうか、ヒューマンとは少し違うと思ったが、転生種族だったのか…」
あれ?でも今の説明だと逆にヒューマンにもなれるってことなんじゃないの?と思ったがその後の言葉で其れすら違う事が証明された。
「私のは確かに転生種族みたいだけど、ウンディーネでもシルフでも、ましてやイフリートやノームでもないわ」
「みたい…?」
そう言うと、先輩はメニューを呼び出し、あるページを可視化した状態で見せてくれた。そこには、せんなという名前とレベルの近くに見知らぬ"天使"という種族名が書かれていた。
「"天使"?」
「なんだそれは、掲示板でも見たことも聞いたこともないぞ!」
結構知ってるジャンキーも知らないとなると、かなり珍しい種族らしい。それにしても天使かぁ、他の種族と違ってあまり見た目に特徴がないような?
「それで、転生条件は?!」
「……」
あれ?さっきまで動いていた先輩がジャンキーを見つめたまま動かなくなったぞ?
「…先程から気になっていたのだけど…どちら様?」
あ、ですよねー。
言われてみれば一緒に居たから忘れてたけど、まだ紹介してないんだった。まさか街で会うとも思ってなかったから知り合いと居るとも何も言ってなかった訳ですし。
今更ながら軽く自己紹介を済ませると、ジャンキーは再び質問をした…と思ったら止めた。
「いや、やっぱり忘れてくれ。そういう詮索はマナー違反だな」
こういうところが良い人なのだと思う、ジャンキーは。後よく説明をしてくれる。
「ところで先輩、その転生したことと大陸を戻ったことって関係あるの?」
それに対して先輩は頷いた。転生するとレベルとステータスが初期に近い数値になるようで、装備で補う事もある程度は出来るが其方にも別の理由があるとかで、この機会に初心に帰ろうということらしい。…初心に帰ろうという気持ちになるぐらいこのゲームやってたんですか…?
「それじゃあこれからクエスト行きません?私たちまだ受けたことないんで」
クエストに行くなんて予定、初耳なんですけど?まだ受けたことないのは事実だけど。
「せっかくだから、ジャンキーも来る?」
「いや、俺はそろそろ仕事だから落ちるわ。まあ楽しんで来い」
「そう。じゃあ三人で行こうよ」
そういうわけでクエストを受けるため、ジャンキーと別れて宿屋を後にする。クエストは以前一度立ち寄ったことのあるギルドで受ける事が出来るので、其方を目指す。
「細かいことなのですけど」
その道中、少し引っかかった事を訊く。
「?」
「転生種族の話の時に"みたい"って言ってたんですけど、アレって何ですか?単に馴染みの無い種族だからですか?」
「…正直な所、分からない事が多いから」
思いの外正直に答えてくれた。
訊けば、そもそも先輩は望んで転生した訳では無いらしい。何かの偶然が重なって偶々転生が起こっただけらしいが、その転生した種族が噂すらない"天使"だった。噂すらないように調べても何も判明しないが、そもそもこのゲームは全て情報が開示されている訳でも無いのでそんなものだろうぐらいに思っていたらしい。一応放っておいたら騒ぎにしかならないのは目に見えているから情報が判明する迄表向きには隠しているとか。その割にはあっさりと見せたけど…。
転生条件の話は流れたけれど、そもそも自身でも分かっていないのだから訊かれても答えられないね。これは。
「確かあれだよね」
そんなこんなで以前にも立ち寄ったギルドへとやってきた。クエストに関しては奥にあるクエストボードという掲示板にあるようなので正面まで移動する。今は丁度空いているのでゆっくり考えられそうだ。
実際に掲示板を見てみて思ったが、依頼が思っていたよりも多い。指定したモンスターを倒す討伐や、指定したアイテムを入手してくる採取の他に、作成・納品する依頼や、護衛などもある。少し離れたところではプレイヤーからの依頼という変わり種も存在する。
「初めなら、こっちの採取から始めたほうがいいんじゃない?」
「え、でも、同じ場所を指定してるんだったら討伐とかの方が良くない?報酬も多いし」
クエストは無事クリアすることができれば報酬を貰うことが出来る。クエストには目安としてランクが存在し、難易度の高いものほどその報酬も多い傾向にあるらしく、ここに張っているものの中でも、討伐系は簡単そうなものでも採取クエストの上クラスのものよりも多い。
「…クエストは三つまでなら一度に受けられるわ」
「えっ「本当!?」」
あ…そんなことを言うものだからクエストを複数触り出したよ…。
クエストは張られている紙を直接触ることで受けるか受けないかのシステムウインドウが出るようになっており、Akariはすぐにさっき話に上がっていた二つのクエストを受諾してさらに受けようとしている。争いはないけど、その方が余計難易度が上がっていませんか…?
初回と言うことで三つ目は止めて、最終的に受けたクエストは二つ。
【畑を荒らす野犬を討伐してほしい】
【森に生える薬草を集めてきてほしい】
行き先はどちらも近くの森。先輩がパーティに加わったとはいえ、一体どうなることやら。
ステータス
未所属
詠 / 狐人
Lv 6
―――
―――
HP: 85 (HP+150) / MP: 165
STR(攻撃力):9 (STR+16)
VIT(耐久): 10 (VIT+10)
INT(知力): 21
MND(精神力): 25 (MND+5)
DEX(器用さ): 18
AGI(素早さ): 33 (AGI+10)
LUK(運): 16
BP : 5
装備
「ノーマルアロー」(STR+8)(重複)
「ノーマルダガー」(STR+8)(重複)
「旅立ちの帽子」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのシャツ」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのロングスカート」(MND+5、HP+50)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
ステータス
未所属
Akari / 鬼
Lv 7
―――
―――
HP: 175 / MP: 90
STR(攻撃力): 30 (STR+15)
VIT(耐久): 24 (VIT+20)
INT(知力): 15
MND(精神力): 17
DEX(器用さ): 20
AGI(素早さ): 21 (AGI+5)
LUK(運): 11
装備
「ノーマルブレード」(STR+15 AGI-5)
「ノーマルシャツ」(VIT+10)
「ノーマルズボン」(VIT+10)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
ステータス
未所属
せんな / 天使
Lv 6
称号【道を切り拓く者】
―――
装備
【白紙の妖刀 "白月"】