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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
再始動と新たな巡り
102/237

閑話 クリスマスイヴオフ会 (午前)

お待たせしました。


季節ネタをしたいが為に時期を合わせたのだけど、よくよく考えたらリアルと作中の時期がすぐズレるのは目に見えていた。

 皆さん、クリスマスのご予定はお有りでしょうか?


 此方は期末テストの期間中に知らないうちに計画されていたらしいイベントに此れから向かうところです。ちなみに泊まり掛けという事は知っているけれど、それ以外の内容は何故か聞かされていない。何故?


「朱里、其れで何処に向かってるの?わざわざ迎えに来たってことは朱里の家じゃ無いんでしょ?」

「ウチじゃないね?」


 我が家の前で御伽 凛は迎えに来た親友である朱里に問いかけた。

 だけど朱里は確言を避けるような曖昧な返事しかしてこなかった。その上、何処かに向かおうとしているにも関わらず、朱里は一歩も動こうとはしなかった。


「何処かに行くんじゃ無いの?」

「私、場所知らないし」


知らないんかい。

内容を秘密にしていたのは一体何だったのか。


「場所なら凛が知ってる筈だからって」


 もう一度言おう。内容を秘密にしていたのは一体何だったのか。


 そして再度訊いてみた結果、ようやく目的地が判明した。どうやら学校の先輩である霞ヶ丘閃奈宅に向かうらしい。朱里にしては珍しいチョイスである。

 確かに凛は一度だけれど霞ヶ丘宅に行ったことがあるので、自信は無いけれど、記憶を引っ張り出してくれば先輩の家に行けないことも無い。だけど――


「何で先輩の家に?迷惑じゃ無いの?」

「場所を先輩の家にしたのは先輩自身だけど?」


 先輩も一枚噛んでいたようである。

 先輩が自ら招いたように聞こえるが、正確には先輩が案としてあげたのが採用されたという形らしいけど。


 行き先も分かったことで、二人は漸く出発し始めた。先導は当然凛である。迎えに来られた身分で案内するとは変な状況である。場所を知らないのなら仕様が無いのだけど。そもそもを考えると朱里は迎えに来たのではなく、案内して貰うために来たのだろう。始めから逆だった。


「そういえば先輩の家ってどんなのなの?あのメンバーで泊まれるってさあ」

「自分の目で見れば良いんじゃ……ってあのメンバー?」

「うん、あのメンバー」


 どうやら今回の泊まりは何時ものメンバーが集まるらしい。何時もというのは学校での集まりでは無く、一時期プレイしていた『ゲーマーズ・ドライブ』、その中のレギオンというチームでの仲間たちである。言うなれば今回の集まりはオフ会というものである。

 そういえば、皆の名前を知る機会はあったけれど、現実で実際に会うのは此れが初めてだった気がする。朱里や先輩は学校が同じだから連絡が付き易いけれど、他の三人は校区が違うからね。そもそも学年も下だし。


「これマジ?」

「マジ」


 雑談を挟みながらも二人は目的地へと辿り着いた。

 二人の前には一般家庭にしては少々大きな、いや、結構大きな屋敷がある。その入り口の門の前で朱里がマジかぁなどと呟きながら驚いている。そして一言。


「お嬢様じゃん!?」


 まぁ気持ちは分かる。凛も以前に来た時に同じような事を思ったのだから。

 霞ヶ丘家は大財閥とかそう言うのでは無いが、割と裕福な家庭だそうだ。その証拠としてこの屋敷である。犬が走り回れる程の大きな庭は流石に無いが、其れでも一軒家としては広い。


 とりあえず、まだほへーと変な声を漏らしている朱里を放ってインターホンを鳴らした。鳴らしてはみたが反応がない、と思いきや、やたら遅いだけでインターホンに付いているスピーカーから音が聞こえた。


『あー、新聞なら間に合ってます!』

「違うから!」


 いきなりのボケにツッコミを入れてしまったが、今の口調からして出たのは先輩ではない筈。とすると家の人?


『分かってるって?』

「分かってないじゃん!てかそのノリは遥でしょ!」

『あ、バレた?』


 やはりインターホン越しに喋っていた相手は先輩ではなかった。そしてどうやら残りの三人は既に到着していたらしい。話していたのはその中でも、ゲームの中では猫人になっている遥である。通りでボケてくると思った。…あれ?三人も先輩の家の場所を知らない筈では?という疑問が出たが、其れは最寄りの駅まで先輩が迎えに行ったという事を朱里が答えた。なるほど。


『まあ兎も角、上がって上がって』

「貴女の家じゃないでしょ」


 とはいえ、会話に一向に家の人が出てこない所から察するに任されているのだろうと踏んで、上がらせて貰うことにした。門を開いてそのまま屋敷の方の扉に手を掛ける。すると玄関で二人の少女が出迎えた。


「…いらっしゃい」

「此れでメンバー全員揃ったかな?」


 出迎えたのは先程から会話に登場していた遥と、ゲームでは兎人だった凪だった。

 以前に季節限定のコンテンツで現実寄りの姿を見たことがあるが、其れと大差ない姿だったので直ぐに分かった。変わっているとすれば服装や髪型ぐらいであろう。


「ところで霞ヶ丘先輩は?」

「先輩さんならおもてなしの準備だよー」


 先輩の代わりに二人に部屋へと案内される。ちなみにもう一人のメンバーであるエルフだった憂那も当然来ており、先輩の方を手伝っているらしい。こう言うのもどうかと思うけれど、綺麗にタイプが分かれている気がした。何がとは言わない。

 二人に通された部屋は客間というわけではないが綺麗に整頓された部屋だった。部屋の端には皆の荷物も確認出来たので凛たちも其処に持ってきた荷物を置く。


 その時、タイミングよく準備をしていたらしい残りの二人も部屋に入ってきた。その手には色々と載せたトレーがあった。


「あ、こんにちわ。お邪魔してます」

「お邪魔してまーす」


 閃奈に気付いた二人は軽く挨拶を述べた。閃奈はそんな二人に軽い反応を返してトレーをテーブルの上に置いた。その横で憂那も「こんにちわぁ」と緩く返しながら同じように運んできたものを置いていた。


「一日お世話になります」

「うん、お世話する」


 この場合の返しは其れで合っているのだろうか。いや、此方の言い方からしたら合っているのだけど、何か少し恥ずかしく感じる。

 ところで……


「気になったのですけど、やけに家の中が静かな気がするのですが?」

「今日はみんな私用があって出かけていて帰りが遅いの。多分夜中ぐらい。だから気楽にしてて良い」


 どうやら夜まではこのメンバーだけのようである。帰りは夜中との事なのでもしかしたら明日起きるまで出会わないかもしれないらしい。会った際は挨拶を忘れないでいよう。

 あと、泊まりということで食事についても自分たちで行うようであり。今はまだ午前中なので昼と夜の二回分食事の用意をする事になる。その辺りの事はまた後で決めるだろう。


 皆はその事よりも先に雑談を始めていた。閃奈たちが持ってきたトレーに載っていた紅茶と御茶請けと思われるクッキーを嗜みながら。美味しい。

 特に、二人が用意したこのクッキーは手作りらしく、先程焼き上がったと分かるように、まだ少し熱を持っている上に食感がサックリとしている。そしてしつこ過ぎずほんのりと甘い。小さなお茶会が始まった。


「此れからどうする?昼にはまだ早いけど」

「此れ食べてるから昼食は遅くても良いけどねー。何かするのならやっぱり『バーチャルリンク』?」

「其れだと折角のオフ会の意味が無いよね?」

「加えて、今日は『ゲーマーズ・ドライブ』には入れない」

「そうなの?」


 凪がぽつりと呟いた言葉に凛は気になって聞き返した。

 学業優先で最近電脳世界に一度もログインしていなかった凛だけは知らなかったが、訊いたところ、『ゲーマーズ・ドライブ』は現在大型アップデートの為のメンテナンスを行っており閉鎖状態だそうだ。他のコンテンツも最近メンテナンスを行っていたようだけれど、『ゲーマーズ・ドライブ』は此れ迄以上の規模なのか、他が既に調整を終えた中、今もメンテナンスを続けているらしい。


「一応予定ではクリスマス頃に終了するって言われてるみたい」

「だけど其れ公式の情報じゃないよね?」


 どうやら終了時間の情報は公式では無く、ネットの書き込みによるものらしい。公式は誠意頑張っているようだけど明言はしていない。混乱を避ける為だとか言われている。


「時間が掛かってる分、其れに比例して期待は高まってるんだけどね?」

「まぁ確かに、其処まで延ばされると何をしているのかと気にはなるよね」


 メンテナンス明けの『ゲーマーズ・ドライブ』は混みそうだなと、凛は思った。冬休みに入った事で時間もそれなりに取れるので、また皆とログインしようかなと考えていたのだが、少し時期をずらそうかな。


「メンテが明けたら早速行こうよ!」

「良いね!」


 混み時に参戦するつもりらしい。まぁ良いけどね。混み時と言っても皆が同じゲートから同じコンテンツに入るわけでも無ければ、あの世界も広いからね。其処まで気にはならないかもしれない。


「さて、ログインの予定は其処までにして、オフ会を企画してたぐらいなら何か予定か目的があるんじゃないの?」


 凛は話を頃合いの良さそうな部分で切り上げさせて、自分の気になっていた事を話題に出した。すると朱里と遥辺りが「そうだった」と思い出したように言葉を口にする。


「いやさ、オフ会って偶にはしてみたかったってのもあるんだけど、どうせなら親睦を深めるって奴をですね?」

「意外にも住んでる場所も其処まで遠いわけでも無かったからね」

「そうなの?」

「そうだったようです」


 訊けば、遥、凪、憂那の三人は電脳世界に入る場合は凛たちが使っているゲートがある地区の隣の地区のゲートを使っているらしく、住んでいる場所もその近くだったらしい。なので今回集まるのも交通手段を用いれば其程難しい話では無かったようである。もしかしたら此れからもこうして集まる事も増えるかもしれない。


「というわけで、改めて自己紹介をと思った次第でごぜえやす!」

「何その口調」


 そんなツッコミも軽くスルーされ、リアルで改めての自己紹介が開始された。一人目は「初陣を切らせて貰います」と謎のテンションの遥から。


「えー、大宮 遥、中学二年生です。『ゲーマーズ・ドライブ』では猫人でプレイしています。此処には顔合わせにきました!」


 合コンか!合コンのノリを知らないけれど。とはいえ、要素は簡潔に述べられている。顔合わせは間違いでは無いけれど目的はそれだけでは無いでしょ。

 その後にもなんやかんやボケてはツッコまれるといった流れが有りながらも遥の番は終わり、紹介は次へ。


「次は私。水嶋 凪、同じく中学二年生。最近のマイブームは写経――」

「「「写経!?」」」

「冗談。改めてよろしく」


 え、何、ボケないといけない流れでもあるの?まさか君までボケてくるとは思わなかった。インパクト目的だったのかボケを入れたのは始めだけで後は普通に話していた。そんな感じで二人目も終わり。


「えっと…小林 憂那、中学三年生です…」

「え、二人より年上だったの?」

「あ、はい。一つ上です。来年には高校に上がります。」


 勝手な印象だけれど、私や朱里よりは下だとは思っていたけれど、遥や凪より年上だとは思わなかった。一緒に電脳世界に入っている時の他の二人との距離感や雰囲気からてっきり同じか下かと思っていた。

 しかも、来年には高校生になるという事だが、その通う高校というのが、凛たちが現在通っている高校だと言うのである。


「え、マジ?ウチの高校じゃん」

「そうなんですか?」


 この反応からして、どうやら進路については偶然だったらしい。それもそうか。高校生組は誰一人として通っている場所については言っていないのだから。まぁ考えてみれば、電脳世界の門の場所が隣なのだから此方に通う可能性も無くは無いのかと納得。


「じゃあ春からは後輩になるんだ?」

「はい。よろしくお願いします」


 改めなくとも既に後輩な気もするけれど、春からは学校でも後輩になるので、一応挨拶を返しておこう。よろしく。

 と言うわけで、中学生組三人の簡単な自己紹介は終わり、次は凛たち高校生組の順番に。


「真田朱里、高校一年生!鬼に有らずば鬼になりて鬼を鬼鬼する仕事をして鬼でです」


 …何を言っているのか私にも分からない。

 憂那の番で謎の流れは無くなったと思っていたのに、また復活してしまった。しかもより謎の方向に向かって。一応補足するとしたら、鬼というのは『ゲーマーズ・ドライブ』でのアバターの話である。あとは処理出来ない。


「我が進む道、それは濡れた鬼滅のみち。おにはいねがぁー……もぐもぐ」


 まだ言っていた。もう適当に言葉を繋げ過ぎて途中から心が籠もっていない。最後なんてクッキーを食べてるし。反応が良くないと見て露骨に手を抜いた様子。間食を始めたからなのか、次に行けという雰囲気が感じられなくも無い……違った、気のせいだ。完全に意識がクッキーに向いている。

 まぁいいかと、気にせずに凛は口を開いた。


「同じく高校一年、御伽 凛です。ゲーム自体あまりしたことがないので、ああいった体験も『ゲーマーズ・ドライブ』が初めてです。」


 このメンバー内で一番ゲームに関わりが薄いのは恐らく凛だろう。閃奈辺りは謎だったりするのだが、他の皆は人並みにはゲームの経験があると思われる。『ゲーマーズ・ドライブ』はその身で体感するゲームなので、その手の経験が無くても充分に遊べるが、足を引っ張らないようにはしよう。


「ならトランプとかは?一応持ってきてるんだけど」

「あ、その手なら大丈夫。経験があまり無いのはデジタル的なものですから」


 寧ろ、トランプなら何度か付き合いでやっていたから其れなりに出来る。自慢では無いけれど簡単な手品も出来なくも無い。殆ど見様見真似だけどね。

 試しに、取り出されていたトランプを借りて手品を一つ披露して見たところ、まぁまぁな反応だった。以前に偶然見たものだったけれど、何とか覚えていたので良かった。


 と、流れが大分脱線してしまったけれど、此れで一応は私の順番も終わり、最後は先輩だけと…。


「霞ヶ丘閃奈、前の二人と同じ高校の二年で生徒会に入ってます。」


 生徒会というワードに中学生組が盛り上がっている中で、朱里だけが凛に小声で何かを訊いてきた。


「…そういえば生徒会長ではないんだっけ?」

「…確かそうだったと思うけど…」


 正直なんやかんやで手伝う機会が幾度とあった凛だけれど、実はその内部事情には其処まで詳しくは無い。とはいえ其処に属する人の証言は持っているが。

 とある人の言うことでは、先輩は人望があるのでその手の推薦とかが無いわけでは無かったが、本人が其処まで率先して事を起こすタイプでは無い上に、天然混じりで気付いたら謎行動に出ている事もあるとかで、人選からは外されているとか聞いた。

 其れを聞いた時、何故か納得してしまった事を覚えている。今思い返してみれば納得してしまった理由が分からなくも無かった。納得したら失礼な気もするけども。


 話に戻ってみれば、生徒会の事を言っていたからなのか、気付けば生徒会の話が続いていた。しかも内輪ネタに突入。伝わるのだろうかと思ったけれど、校風とか一切関係なかったのでまぁまぁ伝わっていた。


 そんなこんなで時間が過ぎ、時計は正午を示していた。




続きは午後。

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