10 初めての対戦(観戦)*
「付与系なんだから補助でしょ」
「やっぱりそう?」
付加という点からして獲得した〈術技スキル〉はサポート用なのだろう。戦闘においての付加の重要度がまだ分からないが序盤に何かしら獲得出来たのは大きい。消費MPも少ない方なので何回かは使える。次から使ってみようと思う。
さて、後回しにしていた〈秘伝の書"序"〉の使用も終えた事だから一度広いところへと移動しよう。Akariからもう一度〈秘伝の書"序"〉を取りに行かないかと提案されたけれど、入れ違いになるかもしれないから今は却下。
――誰だ?ヒューマンか?――
――あんな綺麗な子、昨日まで見かけなかったよね――
――なんだあの武器!装備屋でも見たことないぞ――
――それにアバターも…ヒューマンってあんなだっけ…?――
見つけやすいようにと街の広場付近まで戻ってくると、何やら騒々しい雰囲気であった。プレイヤーたちが皆同じ方向を見ているようで、先程まで賑わっていた筈の広場には賑わいとは少し違う雰囲気の声が幾つか飛び交っている。災いや争いという様子では無い事は確かだけど何か問題でもあるのだろうか?
「何だろうこの人混み?イベント関係かな?」
「でもあの個人イベントは明日でしょ?」
「ちょっと訊いてみようか…あの、すみません」
「ん、なんだ…って君らか」
気になったので少しでも情報を得ようと、適当に人混みの手前に居た長身の男性に訪ねてみると、その男性は見知った顔だった。
「あ、ジャンキーじゃん。おひさー」
「この人混みは何なのですか?」
「俺もまだ実際には確認してはいないんだが、どうやらこの辺りでは見ないような装備を持った嬢ちゃんが広場にいるらしいんだ」
話によると、この人混みはその子を見るために集まっているようである。変わった武器を持っているプレイヤーならたまにいるんじゃないの?モンスターからドロップするものの中には稀に武器もあるらしいから。ジャンキーの背中の武器も以前見た時とは少し違うようですし。(箒を持ってた人談)
「それだけじゃなく、なんか変わってるらしいんだ外見が」
「外見が?」
「一見するとヒューマンみたいなんだが、何か変って噂なんだ」
「何かって何が?」
「それは分からないんだ」
聞いているだけでは何とも要領を得ない。違和感は感じるのに原因が分からないとは。…あれ?なにか思い当たるような。その女の子は今日になって現れて、その上、この辺では見ない装備をしている。まさか…
「あー、もしかするとその子知り合いかもしれません…」
「そうなのか?」
「…ああ!先輩か!」
Akariもようやく気が付いたようだ。
外見の謎は見てみない事には分からないけれど、霞ヶ丘先輩は此処よりも先の大陸から戻ってくるのだから、この辺りでは見ないような装備を持っていても不思議ではない。
そう結論づけると、人混みの中を通してもらって状況を確認出来る位置へと出る。すると、広場の中央には確かに不思議な女性が立っていた。外見としては一見すると明るめの色なのだが時折色素が薄く感じるような長髪に、現実に近い服飾スタイルに白めの軽鎧を重ねた格好。其れと腰に白い鞘に収まった日本刀のような武器。周囲が騒ぐのも無理はないかもしれない。
そんな注目の中で一人の男性が件の女性に剣を向けた…!?
「あんた強そうだな、俺と一つ決闘してくれないか?」
男性はそう言い放った。周りは「なんだなんだ?」「何かのイベント?」と言った感じで気配を察して更に人が増えていく。
「街中で決闘するのか」
「街中で戦っていいの?」
「基本的には不可能だが、最近試験的に実装されたっていう〈決闘システム〉を使えば可能らしい」
「〈決闘システム〉?」
「名前から分かる通り、他のプレイヤーと対戦が出来るシステムで一部では先の大陸で決闘が絡んだものが出るんじゃないかって噂だ。それでだ、両者の合意があれば正式に決闘とみなされ、どちらかのHPが赤ゲージまで行けばそこで勝敗が決まるって話らしい」
そんなシステムがあったのか。最近実装されたって話だし、あの男性は決闘をし
てみたかったというところだろうか。
そんなことを考えている間に長髪の女性――先輩(仮)は腰に携えた剣を抜いた。どうやら決闘を応じるようだ。先輩(仮)が鞘から刀剣を引き抜くと周囲のプレイヤーから声が漏れた。応じた事もそうだが抜かれた刀剣は柄の先に鈴が付いている他全てが真っ白な刀で、見る者の視線を集めていた。
二人が剣を構えると、二人を中心に円状に空間が形成されるような雰囲気が放たれる。その雰囲気に圧され集まっていた野次馬が場所をあけると、上空に対戦するプレイヤーの名前とレベルが表示された。
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Bペッパー Lv11
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…Bペッパー…ブラックペッパーかな?
黒胡椒くんのレベルは挑んでいっただけあって、この街ではまあまあな部類なのだろう。対する先輩(仮)は…
「あれ?」
誰かがそんな声を上げた。
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せんな Lv6
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対する先輩(仮)のレベルは私たちと然程変わらないレベルだった。注目していた周囲からは困惑するような空気が漂っている。挑んだ当人だって驚いている。なにせ珍しい装備を持っていて只者では無い雰囲気まである割にはレベルがあまり高くないのだから。私たちだって先の大陸に居たのだからそこそこ上だと思っていた。それにしても…名前的に殆ど本人確定である。
周囲がまだ驚いていようとも、システムが進み、上空にカウントが現れる。驚いていた黒胡椒くんも気を引き締めなおすのに対して、先輩(仮)は変わらず時を待つ。
カウントが零になった瞬間、先に動き出したのは黒胡椒くんだった。瞬時に間合いを詰めにかかる黒胡椒くんの剣が淡い光を帯びて、振るうと共に光が飛んでいく。おそらく術技スキルだ。その光る衝撃を先輩(仮)は表情一つ変えることなく避ける。だが、急接近した黒胡椒くんの次なるスキルの光を帯びた剣が襲い掛かる。高速の三連撃。しかしそれをも先輩(仮)は後ろに跳ぶことで躱す。まるで術技スキルの攻撃範囲を始めから知っているかのように。
「凄いな、今の確実に見切っていたぞ。
しかし変わった子だな。装備の割にレベルが低いと思ったら結構強いときた」
「まあ最新エリアに居たらしいし」
「何!?だがそれなら何故あんなにレベルが低いんだ?」
「そこが謎なんだよねー」
Akariとジャンキーがそんなことを話している時だった。先程まで避けに徹していた先輩(仮)が突然動き出したのだ。黒胡椒くんは意表を突かれて反応が遅れた。それが命取りだった。瞬時に振るわれた刀剣が黒胡椒くんの剣を弾き、その空いた懐に迸るような黄色い閃光を纏った刀剣が叩き込まれた。黒胡椒くんは後方へと飛ばされる。そして反撃をしようと再び走り出そうとした時、身体に黄色い光が奔り、黒胡椒くんの動きが一瞬止まった。その隙にも先輩(仮)は追撃を行う。周囲に七色に輝く剣型のエネルギーが七つほど現れ、その全てが黒胡椒くんに突き刺さる。
「さっき一瞬動きが変じゃなかった?」
「スキルの追加効果かなにかだろうな、行動を阻害する系統の…それにしてもあれだけ凄い攻撃を当てているというのにまだ赤ゲージまでいかないのか」
ジャンキーが指摘した通り、不思議なことに先程まで一方的に攻撃を当てていたというのに黒胡椒くんのHPはまだ半分も削れていない。レベル差は分かるけれど、これだけの戦力差があると分かるのに、なぜこのような結果なのだろうか?
だが終わりは突然訪れた。
「…降参だ。やっぱ只者じゃなかったな」
このまま続けていても時間がかかり、一方的な戦況が続くだけと踏んだのか、黒胡椒くんは降参を宣言した。其れにより空中に勝利コールが鳴り響く。その瞬間抑えていた周囲がドッと騒がしくなった。その中で負けを認めた黒胡椒くんは、わははと意外と明るかった。
対戦者同士の軽い会話を済ませた後、先輩(仮)は迷うことなく私たちの居る方へと歩み寄って来た。
「狐と鬼…」
私たちを見比べた後、先輩は私の後ろで揺れる尻尾へと抱きついた。その後も数分間無言で尻尾を弄り続けたのだが…。先程あれだけの実力を見せただけあって、周りからの視線が凄い…。
ステータス
未所属
詠 / 狐人
Lv 6
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―――
HP: 85 (HP+150) / MP: 165
STR(攻撃力):9 (STR+16)
VIT(耐久): 10 (VIT+10)
INT(知力): 21
MND(精神力): 25 (MND+5)
DEX(器用さ): 18
AGI(素早さ): 33 (AGI+10)
LUK(運): 16
BP : 5
装備
「ノーマルアロー」(STR+8)(重複)
「ノーマルダガー」(STR+8)(重複)
「旅立ちの帽子」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのシャツ」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのロングスカート」(MND+5、HP+50)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
ステータス
未所属
Akari / 鬼
Lv 7
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―――
HP: 175 / MP: 90
STR(攻撃力): 30 (STR+15)
VIT(耐久): 24 (VIT+20)
INT(知力): 15
MND(精神力): 17
DEX(器用さ): 20
AGI(素早さ): 21 (AGI+5)
LUK(運): 11
装備
「ノーマルブレード」(STR+15 AGI-5)
「ノーマルシャツ」(VIT+10)
「ノーマルズボン」(VIT+10)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)