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忠実なる部下――魔女と騎士


御大将おんたいしょうだ」


 若白髪が目立つ赤茶の髪の青年が、此方へ寄ってくる狼に気づいた。

 狼から、基本的に街中で動くときは二人以上の部下と居るのを避けろと言われていたのを思い出して、一緒にいた紫の長い髪を持つ女、魔法対策部部隊長のあんを別の場所へ移動させようとしたが、狼は目でしなくていいと制した。それに従う若白髪の青年。


「副将候補、魔法部部隊長、真雪を確認した」


 敬礼は目立つから、という理由でするなと言われているのだが、騎士の時の癖でついついしかける。その前に庵が「千鶴ちづる」と口で窘める。

 副将候補と、千鶴と呼ばれた若白髪の青年は、窘められ、苦笑を浮かべてから、それでも、と一応挨拶の代わりなのか、狼に頭をさげる。礼儀正しいのだろう。騎士というのは礼儀を重んじると聞く。

 狼は二人を見て、いつ見ても対照的だな、と思った。


 千鶴は浅黒い肌に、白い服を好む。それはきっちりと着込まれて。庵は白い肌に、黒い服を好む。露出的な。

 なるべく自分に刃向かうことがなさそうで、保護とかに適している部下を選んだのだが、この二人は自分でも人選は間違っていなかった、と思うくらい手際よく働いてくれる。

 それどころか自分に足りない、保護するのに必要な要素をこの二人が一番持っているだろう。優しさ。忠誠心。道徳心。


 最初は狼を恐れていた二人だったが、真雪について話し合いをしている内に、どんどんうち解けてくれて。だから、副将にはこの千鶴を推したいのだが、王はよぼよぼの宮廷大臣を薦めてきている。任せると言ったのに。

 それについて衝突した。なので、結果、副将にさせることは叶わず、候補という呼び名がついてしまった。



 千鶴は、最初は恐れ多いと首を横に振っていたが、狼が長い時間をかけて説得する内に、そして庵も一緒に説得してくれたお陰で、自分が副将でもいいのだ、と思えるようになってきた。


 庵は、魔法使いにも協会というものがあるらしくて、その協会に協力を要請したら三人程魔法使いを送り込んでくれた。そのうちの一人だ。魔力は強く、石はダイアモンド――最上級の位置だ、よく狼は暗殺相手としては見慣れている――。そして何より魔法の知識が深く、呪いにも長けているので、何かあったときの対処としては最適だと思い、彼女を他の者が反対する中、推した。他の二人は男だった。これは、偏見だろうが、魔女という言葉があるくらいなのだから、魔法に関しては、女が適任だと思ったのだ。


 まだまだ男尊女卑が少し見えるこの世の中、自分の力を意外にも評価してくれた狼に、庵は敬意を持って接している。

 何より、女性なのに、こうして総大将という地位に上り詰めたのが同じ女性としては誇らしく、女性の上司というのが嬉しく珍しかったので、応援をしたかった。



「真雪はどうやら、僕の顔を覚えてしまっているようだった」


「御大将を? それは、何故また…」


「理由は、多分、僕が盗人を転ばせたのを見たから、だろうな」


「狼様、盗人を捕らえたのですか? 珍しいことをしなさる。事前に協会から私が聞いていた狼様の話とは別人のようですわ」


「庵、失礼だろッ」


「あら、なら千鶴はこうして話す前の狼様のイメージ像、どんなのだったのかしら?」


「……御大将、すいませんっ。自分は……自分は……ッ!!」


 庵に笑われながらも、千鶴は今まで脳内に抱いていた酷く血の臭いが濃厚で、毛むくじゃらの男の姿を口にすまいと思いながらも、目の前の上司を見る度に申し訳なくなるのだ。

 それを見て、狼は無表情に順番に自分より背丈の高い千鶴の頭を撫でてやり、それから背の低い庵の頭を撫でてあげる。千鶴は子供扱いされたのだと思い押し黙り、庵は狼の手の感触が意外と柔らかくてそれを楽しみ、嬉しそうに頬笑んだ。


「僕に対してどんなイメージを持っていようと構わないよ。女と認識して、上司と認識して、お前らがちゃんと働くなら」


「そこらへんは、もう、ね?」


「お任せ下さい、我らが御大将」


 二人はタイミングを合わせたように、にっと笑いかけてきた。それを見て、満足げに頷き、やはり自分の右腕となるのならこの候補がいいな、と改めて思うのだった。若すぎる、だけが反対の理由ではない気がするのだ。若すぎる、からどうしたのだ。力が備わっていればそれでいいというのは、自分で実践済みだろうに。


(自分の元からあまり使える駒は外したくないからか。やはり、そうなら、副将に相応しい――)



「御大将? どうかなされました?」


「いや、何でもない。それでな、僕の顔はもう向こうには覚えられているから、僕はもう絶対に表には出られないことが確定したと教えておこうと思って。それと、真雪を観察したり、護衛するときは同パターンの組み合わせはやめておいた方が良い。一回組んだだけ、でもだ。覚えられ、不審に思われる。それを各種、最下級の兵士にも言っておけ」


 一回、話したわけでもなく、見ただけでそこまで既に予測している狼の洞察力に二人はただ感心し、判りました、と了解の意を唱える。


「真雪に関しての情報は、明朝、抹茶の情報とあわせて話し、似顔絵を各自に渡す」


「狼様、ついでにパーティメンバーも調べておきましょうか?」


「ついでと言わず、是非に頼む。行動パターンを読みたい。それと、出来れば、今度の冒険先も調べろ」


「パーティメンバーは調べられても、冒険先は私には調べられませんわ。それは、あの兎にお任せしましょう?」


「……じゃあ、誰かに伝えておけ。情報部部隊長にも、一応警戒しておけ、信用しきるな」


「了解」


「……じゃあ、僕はもう行くが、先に言おう、いいか、くれぐれも私的に対立するような奴は即座に殺せ。意見として対立するのなら、ねじ伏せろ。僕はお前ら二人の揃った意見なら、文句は出ない」


 首にしろ、ではなく、殺せ、という辺りが暗殺者の名残だろうか。

 背中を見せかけたので、横顔で片目しか見えなかったが、二人には狼の怖さがその片目だけでも十分と判り、事前に狼について聞いていた話に嘘はないと確信した。

 二人は、もう信頼しているのもあるが、もし彼女が何か間違いをしてもあまり対立はしたくないなと、心から恐れた。それでもきっと間違ったら訂正するだろうけれど。二人での意見なら文句はないと言うのだから。

 冷水を一気に浴びたような感覚だった。

 狼が去るのを見てから、ふぅ、と息をついて、どっと汗を流す千鶴。

 庵はそれを見て、苦笑した。


「王様も残酷ね」


「……暗殺者に、守護しろって、無茶苦茶だ。……まぁ、あの方なら、徹底的にやるだろう。あの方なら出来るって、信じてるぞ!」


「……だといいのだけれど。私、すごーく泥沼になりそうな予感がするわ?」


 庵は先が思いやられるという顔つきで、溜息をついた。そして、露店にあるアクセサリーを手に取ったり、置いたりを繰り返す。

 どういうことだと言いたげに、千鶴は庵の後をついていき、庵にあげたら喜ぶだろうかと思いながらも、自分もアクセサリーを見遣る。


「……話したことも、正式に会ったこともない人の顔を覚えてるって、それなりに意識しているってことでしょう? 真雪くんは、もしかしたら、狼様のこと好きなのかもね」


「まさかぁ! 王女様相手になら判るけど、あの方相手に……そんな……恐れ多い」


「確かにあの方は外見は男より男らしいけれど……心の綺麗な子ってね、悪に惹かれるのよ? 真っ新な正義が正義に惹かれて集うように、悪も悪に惹かれる。……あの兎、怪しいのよね」


「あの兎は、元から怪しいぜ? 何せ、王女様のペットからいきなり、情報部部隊長だ。どんな手を使ったんだか」


「……千鶴。憶測は、いいのだけれど、……さっきから、王女様王女様って、煩いのよ! この馬鹿!」


 庵はそう怒鳴ると綺麗な顔を歪めて、手にしていたアクセサリーを千鶴の顔に投げつける。店主は文句言いたげだったが、庵が店主が何かを言う前に「このアクセサリー、この人が買うから」と言ったので、店主は頷き、文句ではなく値段を言った。



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