真雪の存在確認
首輪についた金色の紋章を弄りながら、抹茶は大層ご満悦だった。
企みが成功したのが嬉しいのだろう。退屈に王女の元に居るだけの生活から、軍入り出来たのが嬉しいのだろう。
人に縛られるのは嫌いだが、軍に入るって言うのも中々面白いものだと思った。それに、例え抜け出ても死んだと見せかけて逃げれば、容易く逃げられるだろう。
……狼の目さえ、誤魔化せれば。そこが難点だ。狼の勘は、人間にしては鋭く、匂いをかぎ分けるのも人間の癖に出来る。
狼をどう誤魔化そうか、と考えている頃に、狼がやってきた。
「どうかします?」
「……今から、街に行って、皆が溶けて欲しくない雪を見に行くんだ。各種バラバラで。お前も着いてこい、情報部の部隊長なんだから、顔を覚えておかなきゃならんだろ」
「判るです」
「めんどくせーって顔に書いてある。もう、僕相手には隠すのは止めたのか?」
狼が凶悪的な笑みを浮かべれば、此方は愛くるしい笑みを浮かべるだけ。
抹茶は、にこりと微笑み、「抹茶、ろーくんに服従です」と答えた。
それを見遣ると狼は王女のようにそれに捕らえられる事無く、ただフンと鼻を鳴らして睨む。
「言葉だけだろ。無理するな。嘘は嫌いだ」
「……ろーくん、賢いです。だから、嘘つくのです」
(おめー相手で嘘が通せなきゃ、これから先嘘は通せない証になるし、自分のウソツキの腕も見られるだろ?)
内心で抹茶は毒づき、表面では持ち上げる。それを狼は本能で察知したのか何だか鳥肌が立ってしょうがなかった。
「……とりあえず、真雪に関してだけは絶対に嘘はつくなよ」
「……了解です、主」
「お前の主は王女様だ、冗談でもやめてくれ」
「……服従の誓い、したです?」
「僕なんかより、王女様にすりゃよかったのに」
「……喜んで、抹茶、離さない、なるです」
「……そうか」
話を打ち切ると、さて、行くぞと狼は声をかけて、抹茶の背中を励ますようにぽんぽんと叩いた。抹茶は頷き、少し遅れて狼の背を追うように駆けだした。
街へ繰り出すのに一つ問題がある。抹茶の尻尾はローブやマントで隠せるから良いとして、耳はどうすべきか、と悩む狼。
「お前、その耳どうにか出来ないのか?」
「人間に化けるです?」
「……今の状態は化けた状態じゃないのか?」
「ろーくん、獣人、獣の部分残す間抜け、することない、です」
半目で抹茶は笑いかけてから、耳を三回撫でるとその耳は人間のものへと変わった。
狼は便利だな、と感心して見遣り、それから抹茶から視線を外し、真雪の情報に当てはまる人物を街へ入るなり捜す。まだこの街に滞在中と情報を得た。
狼は素早く視線を人から人へ動かしているが、それはただ早さに拘っているわけではなく、ちゃんと人物を見抜いてスルーしているのだ。
暗殺者の洞察力が、此処で役立っているのだ。その点を言えば、王が狼を選んだのは正解だろう。
「……あの子は……」
丁度捜しているときに、また、向日葵色の髪の子に会った。
向日葵色の髪の子は、此方をじっと見ている。その子は、視線を隣の抹茶へ移し、それからまた自分を見つめた。
狼は、脳内に真雪という情報を思い出していた。
「髪:金色」
あってる。
「瞳:赤」
あってる。
「魔力レベル:赤石(初級)」
あってる。
……待て、決断を急ぎすぎるな。これで違う人物だったら、大変だ。
隣にいる抹茶を見ないようにしながら、そして口早に、唇をあまり動かさず囁く程度の声量で聞いてみる。
「抹茶、あの向日葵色の髪の魔法使いが何を言ってるか、聞こえるか?」
「抹茶、兎。兎の聴力、物凄いです」
それは肯定ととっていいだろう。抹茶は、向日葵色の子を見つけてから、それからは視線を別にやり、耳だけ傾ける。




