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最愛のペットからのおねだり

 「厭よ、私、絶対厭よ、抹茶は私のペットじゃなくて!?」


 あれから、軍の調整を整えて、抹茶を軍に加えることを前提に考えて、抹茶に情報部部隊長を任せることにした狼は王へと報告する。


 王の隣にいる王女の顔がどんどん女の嫉妬へ歪んでいく姿が滑稽で、跪きながら報告する狼と彼女を交互に抹茶は見遣り、自分も跪きながら、見えないように笑う。


「狼、確かに君に任せたが、抹茶は……」


 王女の願いには弱いのか、王は顔を顰めてどうにか出来んのか、と問いかけた。

 真っ直ぐに狼は、王女を見てから王を見遣り、彼の力が必要です、と言った。

「抹茶は動物と話せます、動物にもなれます。人では入れない所へ、紛れ込むことも出来るでしょう。我々は少人数で動かねばなりません、悟られないようにするためには。それに人へは心許さない魔物も、動物には許すかもしれません。魔物からの行動の情報を得られるかも知れません」


「魔物なんて切り捨てればいいのだわ!」


 王女の醜い一面が明らかになったところ、だから抹茶はにこにこと笑う。だけど、他の人間にとっても、魔物なんて切り捨てればいいと思っているので、人間って醜いなと更ににこにことする抹茶。

 狼は、首を振る。横へ。


「真雪は、調べたところ、魔法使い。そして既にパーティを組んでいる。魔物との衝突は無いわけがないでしょう? 自分が倒そうとした者を他に倒されると、プライドが拙い方向へ走って、自ら危険な目に遭いたがると思います」


「魔物との接触の場合、を考えて……か」


「魔物に殺されるのも、寿命以外の死ですから」


 王は暫く何かを考え込んでいる。王女は、必死に抹茶が軍へ入らない方法を考えている。


「僕はこう考えているのです。彼には一切ばれないように行動したいと。だから、魔物も彼らが自ら倒したように見せかけて倒します。その際でも賞金をあげてください。軍からの給料から差し引いても構いません」


「いや、金の問題ではないからな。それは別に良いのだが、抹茶が……。他にも、獣人は居るんじゃないだろうか?」


 王が苦渋を絞り出すと、それにはっとした王女がそうよと喚き、以前抹茶を捕らえてきた騎士にまた捕まえてくるように懇願する。騎士は頷くが、こんなチャンス逃すまい。抹茶は後で、動物を通じて獣人に絶対に捕まるなと念を押しておこうと考えた。

 尤も、獣人にとって、捕まえられるなんて恥じ以外の何者でもないのだから、そう簡単に捕まるわけがない。

 だがこの場を収めるには……自分が、説得するしかないだろう。心の中で抹茶は溜息をついてから、王女を潤んだ目で、悲しげな顔を作って見遣る。それから、何も言わずに顔を伏せ、何かを言いたげにする。これは勿論計算なのだがそれに引っかかった王女はどうしたの、と心配げに問うてくる。


「……抹茶、人間嫌いです」


「……え!」


「抹茶?」


 横で訝しんでる狼。その視線が楽しい。でも、表情には出さず、ひたすら悲壮感を出そうと努める。


「……人間、抹茶、虐める。此処も、皆、虐めるだけです」


 それに反応した王女はこの謁見の間に集まっている真雪保護軍の兵士一同を睨む。

 そのうちの数人が少し慌てた。

 王女は声を荒げて、虐めて自分から抹茶を奪おうとした兵士達を罰そうとしたとき、抹茶の目から涙がぽろりと零れる。それに驚き、王女は抹茶の方を慌てて見遣る。


「抹茶?」


「……でも、王女様、優しいです。誰より、優しいです」


「……抹茶!」


 愛しのペットに泣きながら頬笑まれそんなことを言われて、心を動かさない人間が居るだろうか。否、この場には居なかった。……狼を除いては。狼は、この抹茶の演技力に戦慄き、顔の筋肉を引きつらせた。


「だから、人間好きです。人間、眠る場所、欲しいです」


「……抹茶」


「抹茶、王女様、天国行って欲しいです」


 今すぐ行け、と密かに気持ちを込めてやる。抹茶は内心、大爆笑だ。


「だから、抹茶、役に立ちたいです」


「抹茶、……嗚呼、抹茶。なんて、なんて可愛いの、お前」


 王女は感極まり、椅子から降りて駆け寄り、抹茶を抱きしめる。

 そこまでなら、そこらの兵士でも出来ただろう。だが、ここからが抹茶の腕の見せ所だ。


「王女様、名前教えて? 首輪にメダルつけて? そこに……王女様、名前、刻んで?」


「……メダル?」


「真雪保護軍だと世界中に判らせるために、軍兵は皆、同じ模様のついた紋章つきのバッジを与えられるのです。入国許可書にも、免罪符にもなります。僕には、此処に」


 そう説明して、王女に狼は自分の左腕に大きく――総指揮官、総大将だからだろう――つけられてる立派な紋章を見せる。それを見て、王女は嗚呼、と呟いた。


「……あれ、欲しいです。……そこに王女様、名前、刻まれる。抹茶、王女様といつも一緒、だと思うです。それで、安心するです」


 狼は、心の中で、「このカマトト野郎が! 兎の癖して、猫っかぶりのぶりっ子野郎が!」と笑っていた。それに気づいているのか、抹茶は意味ありげな視線を一瞬狼にやってから、王女にやる。


「駄目です?」


「いい、良いわ、あげる。紋章、あげるわ。だから、覚えて頂戴? 私の名前は、モネリザールよ」


「モネちゃん、です?」


「貴様ッ、王女様をちゃんづけとは……!」


「馬鹿者、空気が読めぬか、レミオール」


 狼がそう窘めるように言うと、騎士は悔しげな顔をしてから、王女を見る。王女は頬を染めて、いかにも惚れました、といううっとりとした顔つきをしていた。

 これで、城内の立場は益々良くなったというわけだ、と狼は抹茶の力強さに頼もしく思えると同時に、不安が過ぎった。

 もしも、こいつが本性を見せたとき、この国は滅びはしないだろうか、と。

 そして、それと同時に、気づく。

 嗚呼、紋章を貰うということは、軍入りを認めると言うことか。しかもこんな公の場所でそんなこと言われたり言ったりしたら、撤回出来ない。


 ……魔物より、この獣人を切り捨てるべきだと思うが、今は協力せねばなるまい。



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