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泥水の固まり

「……俺を、馬鹿にしているの…?」


 真雪は、幽霊越しに庵に問いかけた。

 雪は自分の表れだ。本名にも雪の名はあるし、魔法使いとしての名は雪そのもの。

 その自分を、土で汚れさせた姿を見せて。

 庵は精霊を使って言葉を伝えた。


 『雪なんて、人にとっては迷惑でしかないのよ。実生活』

 その言葉にかっとして、真雪は思わず、窓から身を乗り出し、魔法使いに怒鳴る。

 雪の中というのは、音が伝わりにくいはずなのに、不思議とその声は庵に伝わる。



「俺は迷惑じゃない!」


『世界中を巻き込んで復讐しようとした人間の何処が? 雪を羨む人もいるけれど、雪と共に暮らしている人にとって、最終的にはただの泥水よ、凶器よ』


「……ッ貴方に、貴方になんか、判るかッ!」


 復讐したいという思いと戦った末に、愛を選んだ。その結果、その愛が報われなかった。 死んでしまっている両親になんと詫びればいいのだろう?

 真雪は、己のことも知らないで、と怒りに身を任せて、城の周りに幽霊を寄せ付けて、幽霊の暗雲を作り出す。

 それを見て、庵が笑ったような気がした。それも、嘲る類の。


『じゃあ貴方も判るの? 狼様が、どんなに辛い思いをして、貴方を守ろうとしていたか。苦悩していたか。除雪作業しかしないタイプの方が、雪像を必死に守ってた苦労なんて』


「そっちが最初だ! 先に、俺の両親を殺さなければ……ッ」


『別に復讐することは悪いとも、雪の全てが悪いとも言ってないわ。ただね、貴方も雪ならば、自分自身の力だけで復讐する、氷柱みたいな勇気を持ちなさいよ。貴方はいろんな人の力を借りて、世界中を巻き込んだ。雪崩じゃない。だから、泥水だって言ってるの。貴方は羨まれる雪なんかじゃない、ただの土と氷が混ざり合った汚い塊よ。降った後の地面の下の雪よ。草や小枝が入り交じっていて、汚くて触れない雪。獣は寒さに弱いわ、近づかないでしょうし、そんな汚い雪には近づかないでしょうね』


「……ッあんな女、どうだっていい! どうせ、もうすぐ死ぬんだ! 復讐は果たされる! 何と貴方が言おうとも、俺の勝ちだ!」


『……じゃあ此方も復讐するわよ? ねぇ、そしたら、貴方と同じ気持ちで同じ行動をし出す者が出てくるのよ? 私に、千鶴。それから、一番怖いのが、兎獅子……』


 その言葉に真雪はびくりとした。

 そんなこと判っている。覚悟していたはずなのに、実際に言われるとそのプレッシャーは強くて。こんなプレッシャーにいつも、あの獣は耐えていたのだろうか?

 真雪は、ぎゅ、と拳を握りしめて、庵へ躊躇いの視線を投げかける。

 庵が妖艶に笑ったような気がした。


「真雪くん、復讐に勝ち負けはないわ。それが正しいとも悪いとも言えないでしょう。だけど、どうせ復讐するんだったら、貴方の力だけでしなさいよ」


 庵の声が、幽霊越しに真雪に伝わる。

 素直に頷けない真雪は背中を向ける。背中を向けても、尚続く庵の言葉。


「それか、その復讐が遂げる瞬間を直に見に来なさい?」


 ――まさか、そんな言葉を言われるとは思ってなかった真雪は、思わず反射的に外へと向き直り、庵へ大声で、行くと告げていた。


 あのさび色を、もう一度、見たかった。

 あのさび色が、何を考えているのか、否そんなのどうだっていい。

 彼女に会える理由が一つでも出来るなら。


 そんなことを考えた自分に気づいて、自分はふぬけで、そして庵の策士ぶりにも苦笑してしまった。


「庵先輩、随分男の扱い巧いですね」


「子供の世話に慣れてるだけよ。いつもパーティじゃ私が保護者だもの」


 意地悪な、魔法使いの先輩に、汚れている雪は笑った。


 雪は、とてつもなく汚れていて、汚水となるだろう、溶けてしまえば。

 汚水になるまでの光景も見苦しいものがあり、特にそれは除雪された後、道の端に置かれる雪なんかを見ていると、雪とはこんなに邪魔でいらないものだっただろうかと思ってしまう。

 雪は綺麗ではない。

 綺麗だとしても、それは一時だけ。


 捲れば、土がついて、より一層この世の汚さを思い知るだけ。


 でも、それが自然なのだ。


 そこでそれを受け入れることが出来るのなら、雪の美しさを愛でる行為も除雪作業も同じ目で見られる。

 雪は雪でしかない。

 ただの、自然のものだと。


 そして、いずれ汚くなるものだと。儚くもなく、根強くそこに居るのだと。


 穢れた雪こそが、真の雪だ。



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