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大事な二人の友人

「……そりゃね、パプリカさんの年なら誰かに抱かれててもおかしくないけれどね。そこの騎士なら、許せたけれどね。お前のような生ゴミが、俺の猟犬に手を出していたなんて……」


 千鶴の、俺はあり得ない! との叫びに、真雪は耳を貸さず、静かに涙を流さず、堪える狼を見やる。

 目に浮かべるだけに、留まらせておく。何も言葉を発さない。それは、この地獄も当然だと思うからだ。自分は暗殺者、いつ殺されても、いつ地獄が起きてもおかしくはなかったのだ。タイミングが、悪かっただけなのだ。


 そんな無表情を見ると、真雪は憎悪と共に、愛しさが胸の中で花開くのを感じて、やるせなくなる。

 本当ならば殺したい。殺したいのに、殺したらとてつもなく後悔しそうな気がする。それでも、この女は親を……――。


 ――葛藤しつつ、この愛しさが拭えないのはもう諦めている。それなら、せめて彼女を支配したい。

 自分と同じように、自分のことしか考えられなくしてしまいたい。それは、歪んだ愛情。だけれど、狼を恋愛対象として見る者によく見られる傾向。

 肉食動物は首輪を繋いでリードをしておかないと、危ないのだ。強者が誰だかを思い知らせなければ、駄目なのだ。自分が強者だと認めさせなければ、彼女の頭の中には住めない。


「ねぇ、騎士どの、退いてくださらない? 貴方は無関係。俺の私用に巻き込まれただけだから。今なら、義父さんにも義母さんにも見つからないです」


 それは素直な親切心だった。ただ単純に彼を傷つけたくない、暗殺者と同じになりたくないだけの。

 だが、千鶴にはもうそんな言葉は戦闘の切り出しだとインプットされて、動けない狼の代わりに、真雪へ向かって、剣を向ける。

 狼はそれに気づき、千鶴まで失いたくない、千鶴は野良よりも失いたくない存在だったので、彼女の今出せる精一杯の声量で、止めるんだと命令するが彼は初めて主へ反発し、真雪へ向かう。

 真雪はそんな光景を見て、苦笑したが、時すでに遅く、どこからか、衝撃が千鶴に与えられて、千鶴は吹っ飛ぶ。


「わしの息子に手出しは許さぬぞ」


 それは、美闇、もとい、黒蜜だった。黒蜜は少年の容貌をそのままに、魔法を放ったのだ。

 剣の腕前が良くないわけだ、魔法使いが本職ならば。そう千鶴は自嘲気味に笑うも、今度は黒蜜へ突撃する。

 まず最初に礼儀正しく冑割り……ではなく、袈裟斬りをしようとした、だが、それは叶わず、黒蜜は後ろへ避けて、今度こそと命を奪うような魔法を使おうとした。

 狼は、やめろと騒ぐ。鎖が体に食い込むぐらい、王座から離れようとした。だが、それは叶わず。

 だが代わりに、予想外なことが起こった。

 命を奪うような魔法と、何かの魔法が放たれて、相殺されたのだ。

 魔法が放たれた方を見やると、そこには……銀の錫杖を構えた、騎士の愛しき魔女。


「庵……ッ!」


 千鶴と狼が名を呼ぶと、庵は顔をにこりと一瞬微笑ませて、それから、首飾りについていた紋章を取り、少しの間それを眺めていたかと思うと……真雪へ投げつけた。当然、届かないわけだが、それでも少しは鬱憤が晴らせた。


「お許しを、狼様、千鶴。少し遅れましたわね」


「何故此処に……いや、いい。丁度良かった、庵……ッ僕のことはいいから、千鶴を連れて逃げ出せ!」


 ……庵も、また、初めて上司の言葉に逆らう。

 美しさの中に、厳しい表情を目立たせて、黒蜜をちらりと見てから、真雪を睨み付ける。

「ぶりっこなんて、普通二人以上でるわけないと思ったのだけれどね」


「……ぶりっこじゃないですよ、別に。俺は普段の俺でいただけです。ただ、親の仇の前だと性格変わるだけ。親の仇の前って、普通性格変わりますよね?」


「そう、じゃあ私は狼様……いえ、貴方の所為で色々と苦難された世界中の為に、性格を変えようかしら? でもそれじゃあ私は魔法使いとしては失格。いい? 先輩からのアドバイスよ、真雪くん。……魔法使いというのは、常に私情は捨てるべきなのよ。だから、私は本当は憎い貴方を殺したいのだけれど、殺せない。いえ、此処にいる誰一人殺せない。幽霊との契約は、続いているのだから。だから、せめて私は……狼様や、千鶴を殺そうとするそこの男を相手にするわ」


「じゃあ、俺は貴方の後ろの女性だね。……女性を相手に剣を放つのは、嫌なのだけれど……魔王ならば、しょうがないですよね、御大将……。御大将、少しの間、助けるの待っててください」


 そう言うと、千鶴は即座に立ち上がり、庵の後ろから斧での斬撃を狙っていた香苗――否、蜂蜜へと剣を向けて、庵を守る。

 庵はというと、その千鶴の背中を狙う黒蜜からの魔法を受けないために魔法壁シールドを張る。

 狼は、その光景に呆然とする。


(千鶴……庵……)


「……千鶴、庵。僕の命一つでこれは終わ……」


「御大将、その命一つの重みが如何ほどか、今の貴殿なら判るでしょう!? その命の重みで真雪は動いた!」


「狼様、バカなこと申さないで! 私の上司運は今最高潮なんですの! その運を手放せと仰せになる!?」


 二人は、背中を預け合い、そして相手が魔王なのに関わらず、狼、そして互いを守るという思いだけで、互角に戦いあう。

 このままでは城が酷い状態になる。巻き込まれる前に避難しようと、真雪は狼の拘束を解いて、幽霊を取り憑かせて、歩かせる。




「コヨーテ様!」

 二人の声が重なるが、遠ざかっていく……。


 (……僕は、もう、十分だよ、庵、千鶴。僕は、もうお前達の言葉を十分聞いた。だから、せめてお前達は、次の総大将に同じ言葉や思いやりをやってくれ。それは、物凄く嬉しいんだ……)




「……すみませんね。あの二人を巻き込むつもりはなかったんです、本当に」


 それは心から思っていたこと。後味の悪さに思わず、真雪は言い訳をするが、狼は……。


「……二人とも、覚悟はあったさ、何せ、お前の保護軍じゃなく……あいつら、途中から僕の保護をしようと画策してたんだから……眠りまで保護しようとしたんだ」


 初めて狼は、狼らしい鼻での嘲笑を、真雪に見せる。

 真雪はそんな狼の声を聞いて、強い人だとくすくすと笑う。

 そして、ある一室に辿り着いたので、とりあえずそこで避難しておこうと、入らせて、それから拘束を解く。

 ……解いてから、気づく、室内に誰かが居るのに。

 兎獅子だ。

 兎獅子はにやつき、狼はその顔を見て少し緊張感が抜け、苦笑した。



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