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真雪による蟻地獄

 自分たちが入った途端に閉められる大きな扉。

 千鶴と野良は吃驚して、後ろを見やるが時すでに遅く、もう逃げられない状況だった。

 魔法部部隊長はそれでも怯えて逃げだそうとしていたが、扉に挟まれてしまった。

 挟まれて、大きな扉に力をかけられれば、言わなくても分かる惨状。


 一瞬にして立ちこめる血の臭いに、野良はくすっと笑い、千鶴は何処か不気味さを感じていた。


(本当に、これらの全ては……真雪が?)


 庵がどうかうまく立ち回っていることを願うばかりだ。

 千鶴は行くぞと声をかけて、剣を抜きつつ、慎重に歩む。カンテラは野良に持たせて。


「野良、千鶴、来るなッ!」


 狼の声が城に響いた!

 狼の声に千鶴は反応して、御大将! と、駆け出そうとしたが、野良に止められる。

 止める野良に不愉快な顔をして、野良を見やる千鶴は止める理由を問うた。


「僕のことを、野良って呼んだよ? っていうか、何で扉が閉まったイコール僕らが来たって思うの? その名前の中に、庵が居ないのは何で?」


「……罠?」


「そういうこと。まぁ誘われてるんなら、行かなきゃね。此処で立ち止まっていても始まらないけれど」


 そう言ってすたすたと先を歩んでいく野良の背中を見やり、千鶴はそれなら止めるなよとぶつぶつとふてくされる。

 千鶴は温室育ちの騎士だから判らないのだ。罠と知って突入することと、罠と知らないで突入することの違いが。


 ……暫く歩いていると、王室の王座に鎖で縛られて捕らえられてる狼の姿があった。

 意外な光景に、千鶴は吃驚として思わず御大将、と叫んで急いで歩み寄って鎖を解こうとする。だが、野良はその光景を見やるだけ。


 せめて、そこで助けようとする素振りでも見せるだけでも、印象は違ったのに。



「アルテミス、逃げろ!」


 この罠が初めて、自分向けだと悟った瞬間、アルテミスは体が動けなくなっていた。

 この呪縛は魅了でも、魔法のものでもない。

 戸惑い、狼狽えるが一切体の呪縛が解けることなく、狼は千鶴だけはせめて守ろうと、千鶴に動くな、と命じる。

 千鶴は訳が分からなかったが、狼の視線で真雪の狙いがアルテミスなのだと知る。流石に狼も含まれているとは察知できなかった。



「ごめんね、貴方達の用意したパーティは義父さんと義母さんが殺しちゃったよ」


 真雪の無邪気な声が聞こえる。子供独特の。酸いも甘いも知らないような。

 だがこの子供は他の子供に比べれば、色々なものを見てきた部類に入るのだろう。

 真雪の存在に気づくと、野良は真雪を睨み付ける。

 睨まれれば、真雪は現れて、木の杖を両腕に抱き、にこりと微笑む。


「この瞬間を待ちわびていたんだよ、野良犬のアルテミス」


「何故本名を?!」


 同じ暗殺者でも、こうも反応が違うのかと真雪がため息を。

 その様子で、もう野良には救える可能性が無いと狼は悟る。


「千鶴、あいつが死んでも、僕の側から離れるな。僕の側以外の場所は全て危険だと思え」


「御意」


 狼を主だと決めつけたことを狼は知らないが、それでも主らしく命令した。

 ただその命令は千鶴を思いやってのことなのだが。



「アルテミス、今からでも遅くない、呪詛返しを……」


「パプリカさん、これは呪いじゃないよ。例えば、これを仮に一般市民へやっても彼らはなんてことないと思う。じゃあ何故あなた方は動けないんだろうね? ……これは、あなた方が殺した人の分だけ霊圧がかかって、重くなっているからだよ! 因果応報ってやつさ!」


「僕は殺していたのは動物だ! 魔物だ!」


「……人でないなら、いいと思うの? 野良犬。そう、じゃあ俺の父様と母様、他の親族は動物って言うんだ?」


「は?」


「アルテミス、その子供は僕らが賭けに使っていた家の生き残りだ」


 その言葉に、野良は漸く落ち着きを取り戻すが、そこから出た言葉は意外なものだった。

 それはきっと、聞くのは一番狼が辛いだろう。


「あれは、僕たち暗殺者が悪いんじゃない。確かにゲームにしたのは僕らだけれど、元からターゲットだったんだから、殺される予定だったんだ。依頼した人が悪いんだ」


 その言葉を聞くなり、真雪の笑みの温度が変わった。種類が変わった。否、正確に言えば、笑みは徐々に消え去り、……憎悪だけしか宿らぬ、静かな鬼の顔となった。


「……そう、そうやって責任転換するんだ? ……ねぇ、僕たちってそこに、パプリカさんを含めないでくれないかな? 彼女は認めたし、詫びもしなかった。殺すだけのお前とは違うんだよ。ちゃんと現実を受け止めて、そして被害者側の気持ちも考えた。あの人は、詫びる方が俺がやりきれないと知ってて、詫びなかった。暗殺者のプライドかもしれないけれど、それでもお前みたいに命乞いはしなかったんだよ!! ふざけるな!」


 真雪は野良を蹴り飛ばす。とてもその小さな体に秘められてるとは思えない強い力で。

 野良は蹴り飛ばされても、その姿勢から動けず、ひたすらに瞳に恐怖を映し、今度は視線を狼へ。


「君と真雪で仕組んだのか?! 僕をはめるための!」


「アルテミスッ……!」


「野良! 御大将に無礼な言葉は許さないぞ!」


 千鶴は剣の先を野良へと向けようとしていたが、それを声で狼に制される。狼は、ただ何かを耐えるような感情を押し殺すような、無表情。

 それを見た千鶴は、眉根をさげて、剣先をおろす。

 真雪はというと、そんな表情の狼を見ると、その顔が見たいとばかりに野良へと残酷な言葉を吐く。復讐と愛を兼ね備えた甘美な感情に、居心地のよさを感じつつ。


「パプリカさんを、罵ってご覧よ。そうすれば、気まぐれで見逃してあげてもいいよ? パプリカさんの涙の粒の数だけ、生き残る可能性をあげる」


「……ッ……判った。……ごめんね、コヨーテ。僕は、君が好きだけど、命の方が好きなんだ。まだ、生きたいんだ。君の味を忘れない」


「……――待って? お前、パプリカさんを抱いたのか……!?」


 ぎらりと揺らめく嫉妬の炎、それに気づかず、野良は狼を罵り続ける。

 狼は、もう涙で景色が見えなかった。否、見ようとしなかった。例え、嫌いなヤツでも同郷の、もうない同郷の者で、唯一過去の自分を知っていた者。

 そんな彼が、自分を罵り、その上余計な一言で真雪の怒りを買った。

 ……どうなるかなんて見たくはないだろう。


 野良の首は、真雪が意図的にかけた霊圧で、折れ、死んでしまった……。

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