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騎士の決意とプロポーズ

 庵は先の方に居る、別の部隊へ向かって移動している千鶴を捕まえようとする。

 勢い余って抱きついてしまったが、構ってる暇はない。


「あ、庵!?」


「エピオルニス、しっかりしなさいよ! 貴方のように絶滅種の動物を作って良いの!?」


「庵……? な、何で本名を……」


「動物のことは動物が一番詳しいんでしょう!? それなら、貴方だって人間だけど、動物の名を持つ者じゃない! 昔人の手で滅んだ動物の名じゃない! 陸上では水辺を除けば天敵はいないんでしょう!?」


「…………庵」


 千鶴は、庵の剣幕に苦笑を浮かべて彼女が言いたいことを早く理解出来るように努める。

 それでも、それよりも先に来てしまう感情が、上り詰めていた。

 それは王女様に故郷を聞かれたときくらい嬉しい気持ち。




(エピオルニスの存在を知っているなんて……さっきの言葉の意味も分かってくれるなんて……)



「千鶴? 笑わせるようなことは話してないわ?!」


「ごめん、嬉しくて。知ってる人は、稀だから。その存在を」


「……ねぇ、千鶴。エピオルニスは体が大きいの、貴方のように。獅子よりも、強いの。だから、貴方は自信を持ってこの軍を……放り出しましょう。この軍は最早意味ないの。私たちがこの軍に居ればいるほど、あの方を助けづらくなる!」


「……さっき貴殿が呟いた言葉が、実行される可能性が高い、ということ?」


「そうこの軍の目的は、何があろうとも真雪くんの命の安全性。つまりは、彼以外の他者の命は放り出せって言ってるの、最初から。もし、この軍の中に真雪くんが恨んでる人物が居たら? 餡蜜を人に殺させるのが黒蜜と蜂蜜の狙いなら?」


「……この軍は、幽霊が用意した真雪への生け贄?」


「そう、真雪くんは命の保証をされながらも、大量虐殺出来るのよ。あの軍にいたら、貴方だって殺される候補になったっておかしくないの! ねぇ、だから、あの軍は放り出した方がいいの!」


 庵の少し涙が交じった言い分に、流石の千鶴も頷き、よくよく考えると、狼があげていた不審点に心当たりのような物が出来て、するすると納得が出来た。

 だが、それでも庵の提案には頷けないので、千鶴は優しく微笑んでから、教えてくれて有難う、と庵の頭を優しく撫でた。


「……俺は騎士である前に人間だと言えたらいいのにね。……俺は、主に忠誠を誓った騎士。主はこの軍を守れと仰せになった。それならば、その命令に従うだけ。俺は、主の誓いを破れない……騎士という職は、自分の誉れだから」


「主って王様!? 王様なんて、どうだって……」


 千鶴は、庵の頭から手をどけて、自分の腰にある剣についてる紋章と、そしてマントの留め金になってる紋章を見せる。


「俺の主は、国の民と御大将だよ。陛下も主だけれど、はは……俺は随分と気が多いらしい。……ねぇ、庵、俺は貴殿の望む自分にはなれないし、貴殿の言うとおりに器用には動けないけれど、出来る限り、庵、貴殿……否、貴方をサポートするから」


「サポートって……」


「単独で動くんだろう? 何か貴方が俺と決裂するような話を野良にして、野良に三つ兼任させる。そうすれば、貴方は自由だ。貴方は貴方の思うように動ける。他の者だってこの状況だ、部隊長でない貴方に眼はかけないだろう。軍のことは俺に任せて、……我が主を守ってくれ。貴方にしか頼めない」


 真剣な面差しの千鶴に、庵は寂しげに頷く。その笑みは、菫のように可憐で何処か黄昏れていて。

 何故そのような笑みをするのか、分からない千鶴は首をかしげる。


「……貴方と私の、共通の行動、出来ないんだなって思って。そんなことしたら、しょうがないけれど、もう私はあの国には居られないの。あの国とは接点はそれしかなかったからね? ――貴方の横に居る人は、次に会うときは、違うのね」


「……庵、まさか、縁談を……知ったのか?」


「断れないでしょう?」


「馬鹿だな、庵。言っただろう、俺の主は御大将と国民と陛下。陛下は三番目。国民は二番目。御大将は俺を応援している。だから俺は本当に愛してる者に求婚するだけだよ。今思うよ、政略結婚もしょうがないけれど、貴方と二人で暮らせるのなら、家も放り出せる。ベルノーデ家には申し訳ないけれど、義父さんなら分かってくださる」


 突然のプロポーズに、庵は固まる。

 プロポーズなんて言われ慣れてるのに。他の誰かからの告白なんて言われ慣れてるのに。

 この絶滅種から言われる言葉は、頭に入りにくくて。そのくせ体からは言葉がすんなりと言葉が入ってきて、赤く反応する。



「……ち、ちづ……」


「これが終わったら、駆け落ちでもしよう? 庵、貴方は? 貴方は嫌ですか?」


「……千鶴、私はそこまで貴方を追い込む気はなかったの……! 私、貴方から騎士という職を奪ったらどうしたら……!」


「貴方を主にすれば、騎士となれる。剣の腕は保証済みですよ、紫の女王陛下」


 そう言って、千鶴は庵との距離を縮めさせて、その柔らかな紅の乗った唇へキスをする。

 庵は最初はびくっと反応したが、何を言っても言いくるめられるのだろうと安堵に似た諦めがつき、その唇の感触を楽しんだ。


 唇の感触を二人は少し堪能した後に、お互い呼吸を整えて、これからの相談をする。


「……抹茶には好きに動いた方が良いと言っておいたの。通信機越しには魔力も人の声も感じなかったから、多分、狼様が抱いてるか、抹茶が地面を歩いてるんだわ」


「……抹茶を信じるしかない手だけになってしまった自分の愚かしさに、うんざりとするよ。それでも、それで正解なんだと思う。庵の言葉できっと軍が間違ってることに気づくだろうし、元から真雪に良い感情は持ってなかった奴だ。居なくなったら、手の空いてない奴に探すよう頼む。そうすれば見つからないだろう」


「それと、私と貴方が決裂した話は、貴方の縁談の話、これできっと周りは納得するわ。私が怒ったら、貴方も怒った。だから冷たい態度を取ってね。本気で罵るのよ、いいわね?」


「……分かった。軍としては、このまま餡蜜を倒す方向に持って行く、何としてでも。そこでまず大量虐殺はないだろう。副将の地位も守る。野良に今操られては、抹茶を止められるだろう。それにそれこそ御大将の身が心配だ」


「それなら私は勝手に行動して突然居なくなったりするかも知れないけれど、その時は適当に誤魔化してね。お願いよ。じゃあ、貴方が先に行ってて。怒ったそぶりで、八つ当たりもするの」


「……庵、……少し勇気づけてくれないかな? 俺が、強気の人間になれるように。貴方に酷い言葉を与えても、しょうがないって割り切れるように」


 千鶴はそういって、庵を最後にとでも思ったのか抱きしめようとしたが、香水のにおいがついてしまうのを恐れた庵はそれを避けて、他の者には妖艶な、千鶴にとっては可愛らしく少女のように見える笑みを浮かべた。


「愛の言葉を強請るのなら、生き延びて? 私だけの騎士様?」


 その言葉に、千鶴はけらけらと笑い声をたてるのを抑えて、笑みを顔だけに漏らし、最後に頭を撫でてから、去っていく。




「……愛してる」

 完全に背中が小さくなったところで、庵は苦笑して呟いた。

 その愛のことのはを千鶴に届けるように、風がざわりと吹雪いた気がする。


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