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謀られた罠に気付いた魔女

 …………庵は、野良と睨みながらも、違和感を感じていた。

 千鶴もそこにはいるが、この空気は千鶴には分からない。遠くにいても近くにいても、「剣士」ならば分からないだろう。

 他の隊員の様子を見て、意見を問うてみる。魔法対策部隊だけそこにおいておいて、視線で他の部隊へ行けと庵は命じる。

 千鶴もついて行こうとしたのだったが、庵に止められ、そして庵は魔法対策部隊の意見を代表して口にする。



「何かがおかしい」


「え?」


「独学の僕でも分かる。異常な『魔力』があのパーティに渦巻いているんだよ、副将どの」


「……なん、だって? 魔法使いは、真雪で魔力なんてないのは、あの額で分かるだろ?」


「……だから、私たちはおかしいって言ってるの。ねぇ? 私だけじゃないでしょう?」


 そういって、魔法対策部隊を振り返ると、魔力が一番最弱クラス――それでも高い方だが、その人物でも頷いて、「少し威圧されます」と苦しみを訴える。クラスが高い者になっていくと「息苦しい」とまで訴える。

 その圧迫感は魔力を持ってるからこそ。魔力のない者には全然苦しさが分からないのだ。

 それをそれぞれの訴えだけで悟ると、それならば一番魔力が高い庵が一番苦しいのではと千鶴は心配して、思わず千鶴は顔を少し厳しいものにして庵に副将として命令する。


「魔力の弱い者を先頭にして、庵は魔法対策部隊で一番後ろを歩くんだ」


「……千鶴、それには答えられない。私は、あの方を守らなければ……おかしいのよ、あのパーティ嘘をついてる者がいるのよ! 魔法使いがいるんだわ! 嘘をつく奴なんて信用できない、だってそれじゃまるで――……私たちのことを予め知っているみたいじゃない!?」


「庵、貴殿らしくないよ。落ち着くんだ、少し。魔力に圧倒されて、冷静さを欠いている。冷静さはこの部隊で一番必要なのは、庵だろう? どうしたんだ?」


「……私は冷静よ、冷静だけど、普通の人の反応じゃない? 最悪の結果を脳内に描いてしまったら……」


「最悪の結果? まさか……」


 庵は額のダイアを押さえながらがくがくと震えるが、落ち着きを取り戻す努力をする。

 それでも呟いてしまうのは、人の弱さだ。




「……これ、全て真雪くんが仕組んだんじゃないの……?」


 ……それに千鶴は呆気にとられて一瞬黙るが否定はしない。心底信じている彼女の言葉だからだ。

 そこへ野良は少しだけ笑い声をあげるので、千鶴が睨む。

 野良は睨まれたので、笑った言い訳をする。



「庵部隊長どのは少し、お疲れのようですね。こういう考えもあるじゃないですか。――あの、兎の企みだって。兎の皮を被った獅子ですよ? そういつまでも大人しく飼われているわけがない」


 抹茶には信頼が、庵と千鶴にはないので、否定は出来ない。最初から妖しい奴だとは思っていたのだし。

 黙ってる二人に気分をよくしたのか、野良は持論を続ける。



「ジャムはいわば動物の王! 気まぐれで戦を起こしたり、魔物と手を組んだりするような奴なんだよ? それを忘れてない? 最初からジャムが仕掛けた罠じゃないかな? だってあいつ、情報担当だったんでしょ? 情報の偽りぐらい、簡単に出来るよ」


「それなら、目的は何だというんだ! 自分は前から抹茶を見ていたが、最初は抹茶は御大将には無関心だった!」


「あいつの目的なんて、なくて当然じゃないか。争いが見たいだけの生き物だ」


 他の部隊の者たちは何かざわめきだち、静かに波紋を広げていく。

 それでも千鶴は、狼の言葉を信じる。それは狼を思う前の抹茶の行動とはいえ、抹茶は訂正してこない。ということは、真実だということだ情報は。

 軍にどう動くかは分からないが、狼の為になることをするという。それならば、抹茶の行動は此処で止めたりしてはならないのだ。撤収してはいけないのだ。


 それなのに……。



「……そういう考えも、あるのね」


「庵?」


 千鶴は庵を振り返る。庵は千鶴を見上げると、どう考えたらいいのか分からない顔をしていた。

 慎重すぎる彼女の欠点だ。どっちにも重みが増すと判断がしづらい。

 ならば、判断をするのは副将である自分だ。判断の速さを、求められているのだから。


「このままの姿勢でいく」


「副将どの。動物専門の言葉を信じないんですか?」


 野良は何処か抹茶とは違う雰囲気の愛嬌のある笑みを向け、千鶴に問いかける。

 千鶴は、野良を一睨みすると、きっぱりと言い放つ。


「動物専門より、動物のことは動物が詳しい」


 千鶴は魔力の圧迫を感じないので、先に居る部隊の方の様子を見に行ってしまった。

 庵は慌てて千鶴を追いかけようとするが、野良に肩を掴まれて止められる。

 庵は何よと言わんばかりに睨み付けるが、野良がにこりと微笑んで嫌な情報を教えてくれた。


「副将どのはね、縁談で頭がいっぱいだから放っておいた方が良いよ」


「……縁談?」


「僕ら放浪者とは関係のない話だけど? 騎士ってほら、出身の家柄を大事にするんだ。だから、きっと断れないんじゃないかな? 何より、主である王様が、縁談を持ちかけてきたし、ベルノーデ家にはとぉっても良い縁談。ベルノーデ家より良い家柄の娘さんとなんだから」


「……ベルノーデ……。そう、千鶴は……ベルノーデ家の養子なの?」


「彼の本名も知らないで、思っていただなんてとんだ片思いだね? 侯爵の家の名前だけは、知ってたんだ? 彼はエピオルニス・オオトリ・ベルノーデ。別れの記念に覚えておくといいよ?」


「……相手は?」


「隣国の貴族の御姫様ー。ベルノーデ候の名を知ってるくらいなら、分かるよね? シープ公」


「……オオトリ、それで千鶴……。エピオルニス……ふふ、“エピオルニス”がたかが羊に飼われるなんて!」


「……? どうしたの、失恋で気でも狂った? それとも身分の違いに笑ってるの?」


 野良は半ば本気で心配して、庵が気が狂ったかと思ったが、庵はちゃんと正常だった。


 こんな気持ち、王女への千鶴の思いへの嫉妬以下だ。

 こんなくだらない嫉妬心、どうとでもなる。ただ千鶴が教えてくれないのに対する怒りは沸くが、騎士というものがどういうものかくらいは庵だって知っていた。

 騎士の大抵は、地位と家名があってからこそできるものだ。

 それに従う千鶴には仕方がないと思うし、諦められる自信もあるのだ。


 それでも――。




 (千鶴自身から話してくれなかった。本名も、家も、縁談も)


「私はね、野良部隊長。別に縁談ぐらいで取り乱す馬鹿じゃなくてよ」


 庵は端から見ると麗しく、だが庵を知っている千鶴が見たら恐れおののくような微笑を携えて、千鶴の後を追っていく。

 そして、自分の通信機器のスイッチを押す。


「抹茶、この軍を放って、貴方の本能で動きなさい。必要なら軍を攪乱させて良いわ。これは命令ととっても、お願いととっても、借りを作るものだと受け取っても構わないわ。貴方しか出来ないの。動物を知ってる、貴方しか」


 兎の鳴き声がする。小さくきゅうと。恐らくはからかいの言葉でも向けたいのだろう。



(今は幾らでも嘲るがいいわ。抹茶も、野良も。でもね、私の勘が正しいって証明されたときには……青くなるといいわ。抹茶、そうね、貴方の場合なら許してあげるけれどね)


(この魔力、誰も感じないようだけれどね。二つ感じるのよ。真雪くんに魔力が無いのは分かる。それなら、誰が? 分かるわ、そんなこと、謎々にもならない。あの二人のことを詳しく調べるべきでした、狼様。私たちの負けだわ)




(美闇と香苗は、私の予測が正しければ――真雪くんの両親、黒蜜と蜂蜜だわ)


 魔力を示す石がないと、あんなにも異常な魔力に、鈍くなるのだろうか狼は。

 それとも、群れで行動しているから、群れの臭いでもっと恐るべき狩人の手に気づかないのだろうか。





 (確実に、これは――はめられてる。真雪くんが、しかけたんだわ)



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