表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/57

王女からの寵愛を受ける獣人の本性

「抹茶、何処に居ましたの?」


 王女が走り寄ってくる抹茶を見て、にこりと頬笑む。

 花よりも麗しいその容貌は、見る者を虜にするだろう。側近の騎士でさえ、顔を赤くしている。

 そんな自分の魅力溢れる笑顔。

 それは一切、目の前のこの獣人には通用しない。


「内緒」


 抹茶は、タバコを口に咥えたまま、ふわりと笑いかける。

 柔らかな、それでも何処か一線引いている笑みだ。この笑みを見る度に、王女は苛立たしくなる。

 何故未だに自分に懐きはしないのか、外からの客、狼には懐くのに。

 彼の望みを何でも叶えている、彼の甘えを何でも受け入れている、彼に危害を与える者へは罰を与えている。

 一番に懐いても良いはずの存在だ、自分は。


「そのタバコは……? 体に差し障る物は与えてない筈ですよ」

 王女は瞳を光らせ、彼の口元を見遣る。すると、抹茶は、嗚呼、と何かに気づいたような反応をして、それからタバコを口から離して、それをあらゆる角度から見る。

 それを見て可愛いと思う王女の反応、それすらも計算で、抹茶は内心鼻で笑う。


「ろーくんに、会ったです」


「狼から貰ったの?」


 王女の目に宿る、陰りの感情。それが判ると、抹茶は益々愉悦を感じ、ただ愛らしい笑みを浮かべて頷くのだった。

 抹茶は人の負とされるものを見るのが大好きだった。

 人間の汚さを見れば見るほど、楽しくて、今にも笑い出したいくらいだった。

 そんな抹茶の心に気づいてるのは人間では一人だけだろうな、と心に浮かんだ人物へ思いを馳せ、苦笑を浮かべる。


(まぁ、他の人物ももしかしたら、気づいてそれで虐めているのかもしれないけれど)




「抹茶、それをレミオールへ」


 レミオールは王女の側近で、今彼女の後ろに控えている騎士のことだ。

 抹茶は、不思議そうな顔をして、頷いて、それから騎士へタバコを渡す。

 未だ少し体に害のある物を味わってみたかったが、否定するのは「キャラ」ではない。

 レミオールが取る。それを確認すると満足そうに頷き、王女は抹茶を撫でて、抹茶にまた自由を与える。抹茶が背中を見せると同時に、王女の「燃やしなさい」という冷たい声が聞こえ、抹茶は笑いを堪えるのに必死だった。


 この生活には、慣れた。

 人に飼われ、人に虐められ、人に優しくされ、人に殴られ。

 ただ、自分の本性を知る動物、そう例えば鳥たちの噂が、少しプライドを疼かせる。


“兎の皮を被ったライオンが、人に飼われてる”


“しかも、甘んじて殴られている”


“あの方なら、この場にいる人間達、全員を内部分裂させることすら可能なのに”


“魔王でさえ、恐れているのに”


“何を考えて、此処にいるのだろう”


“王女に惚れたのか”




 心から叫ぼう、あんな雌、大嫌いだ。


 綺麗なふりして、醜さは人一倍、どうしてそれに皆気づかないのだろう、と抹茶は不思議で仕方がない。

 同じ醜いのなら、あの血の香りのする雌のがマシだ。



「あー、だりぃ、この口調」


 人間には理解出来ない、獣人の言語で抹茶は呟いた。

 それは他の獣人が聞いたら、明らかに口調が悪い、と窘めるだろう。尤も、そんな度胸があれば、の話だが。

 ……抹茶は、戦えないが、巧みに人の心理をついてくる。

 人には誰しも弱みがあり、そしてそれを見抜くのが抹茶には手足を動かすより簡単なことで、殺し合いをさせるのも容易い、遊ぶより楽しいこと。

 だから、獣人の中では恐れられ、兎の獣人なのに獅子とまで言われるほどなのだ。

 そんな抹茶がどうして捕まったか。面白い噂を聞きつけたからだ。

 近々、幽霊達が人間を脅すらしい。そういう人間の長的存在の傍にいれば、面白い劇を見られるだろうと思い、抹茶はわざと此処へ捕まった。


 だが、未だに何かが起きる気配は無いし、王女は相手にしないと拗ねるし、此処の暮らしは中々に退屈な物だった。


「人生の無駄遣いは、駄目だねェ」


 またしても人語ではない呟きを、抹茶はした。そして、丁度その時に、動物が庭に居るのを見つけて、話しかけた。これも、暇つぶしであり、人生の無駄遣い。の、筈だった。


「何してんだよ、おめーら」


「あ、ジャム様」


「……前に言っただろ、もう名前は抹茶になったから、抹茶ってよべって」


「ちっとも似合わないですね」


「オレもそう思う。ンで、どうしたん?」


「あのですね、鳥の澄子すみこが此処の王様と雌が話してるのを聞いて、その内容が一人の人間を徹底的に守ること、なんですよ。おかしな話だねーって話していたのです。僕らも気をつけなきゃって。その人間攻撃したら、僕らが殺される」


「……へぇ?」


 抹茶は眼鏡の奥の瞳を光らせた。そして、口に弧を描く。

 先ほど、あの血の臭う雌と会った。あの雌が来るときは、大抵王が何かしら血の臭う話をするときだ。

 あの雌は、血から離れられない。血の鎖に繋がれ、刃物で出来た手をしていて、人を傷つけ殺すしかできないのだ。

 そういう運命なのだ、と抹茶は思っている。

 それなのに、壊すしか出来ない相手に、壊すな、守れだなんて言うなんて……。


 (なんて、可哀想)


 心ではそう思っているのに、顔は思いっきり頬笑んでいた。思い出し笑いをしているように。

 これ以上、王女の傍に居るだけでは何も出来ないし、劇も見られないだろう。

 抹茶は、少しだけ考えた後、血の臭う雌、独特の足音を聞きつけ居場所を特定し、其処へ近づいた。

 彼女が居たのは、流石は暗がりの者、というべきか、薄暗い階段の下だった。

 そこで、溜息をつき、頭を抱え唸って座り込んでいる。

 抹茶はそれを見て、爆笑したかった。

 だが、笑いを抑えて、笑みを携え、彼女に近寄る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ