暗闇でにやりと。
抹茶が出て行った後、庵は詠唱中だというのに、思わず噴き出して笑ってしまった。
その時の、野良の顔が、酷く悔しげに憎らしいという感情を顔に刻んでいるようだったから。
「……貴方じゃ、勝負、という道しか与えられないものね?」
「黙れ。黙りなよ。それ以上言うと、殺すよ」
「……おあいにく様。今殺したら、間違いなく誰が殺したかは、抹茶が証言してくれるわ」
「……中々憎い女だな、君も!」
「……安心すればいいじゃない。例え抹茶でも、あの方へは道はあげられないわ。……真雪くんにしか、出来ないのよ。全ての命運を、握っているのはあの仔……それでも、あの方は真雪くんには引いてるから誰もがあの方を手に入れるのは無理なのよ」
「……手に入れるのが無理だって?」
野良は嫉妬の醜さをこれでもかと表した顔のまま、笑う。醜い笑顔。庵は何かを呟いてから、美しい笑みを携え、野良へ背中を向けてドアへ歩く。
「どんな人だろうと、あの方はきっと振り向かない。力ずくでも無理よ。特に可能性がないのは、貴方。あの方は触れようとすればするほど、逃げるわ」
「……僕は昔、触れたさ、こうやって」
野良は庵を捕らえようとしたが、その途端手に電気がびりっと走った。
静電気の鎧を全身に纏い、庵は振り返って加虐的な笑みを浮かべた。
「舐めないで頂戴。これでも、魔法使いのダイアモンドクラス。詠唱する時間さえあれば、対応だって出来るのよ」
「さっきはしなかった癖にね」
「……貴方が、あの方の敵でも私の敵という確たる証拠がなかったからよ。これからは貴方を見たら、この魔法を使うわ?」
庵は微笑み、室内をゆっくりと出て行った。向かう先はきっと、……資料室。
益々油断は出来なくなった。早く魔物の言葉を覚えなくては、と使命感に燃える庵。
あんな部屋は、野良犬にくれてやろう。資料室には、門番が居るから自分が何処にいたかもきっと名言してくれるだろう。
「……コヨーテ……君は、もう一匹狼じゃないんだね」
庵の部屋で一人呟く野良。
その目に宿る何もかも凍てつくような殺気が、室内中に溢れていて。
此処に羊一匹でもいたら、八つ当たりで殺されていたかも知れない。それも処理の仕方も野良は巧いので、誰にも気づかれず……。
(……手に入らない? だから追うんじゃないか。ただ、誰かの手に渡ったときは……)
暗い部屋で、一人呟いて、にやり。




