作戦会議――火の取り扱いはご注意を
「私的な意見、すみませんでした」
女部隊長が謝る。それはもうどうでもいい、問題は野良が二人に見張りをつけたことだ。自分が監視させるのを想定していて、だろう。まぁ、賢い選択だ。自分がその二人を実際に頼っているのだから。誰よりも。それならば、監視させるのはその二人になるだろうと思ったのだろう。
狼は、以後気をつけるように、と言ってから、おとしたタバコを勿体ないなと思い、それから石畳の地面に踏みつけて火を消した。
「で、餡蜜対策は? 当日、僕はどう動けばいい? あからさまに守るわけにはいかないだろ? 連絡方法は?」
「餡蜜に関しての情報は、野良隊長が」
そう言われれば野良がこくりと静かに頷いて、一切私情を抜いた表情を作り出す。それを見遣るなり、狼は彼の表情が一ミリたりとも動かないかどうか見張る。
「餡蜜は、羽衣を自在に操り、その硬度も調整できます。最長二十メートルは伸びるでしょう。大将の報告通り、少女の姿をしています。魔力はダイアモンドの一つ下のクラスで、どちらかというと長距離の攻撃を得意としています。長距離といっても、羽衣、を使うので、その羽衣が見えさえ出来れば回避出来るでしょう」
僅かに視線が此方を見遣るような動きを見せた気がする。視界に入れるような。はっきりと視線を合わせられないが、様子を見たいため、目の端に入れたいような。
千鶴と庵に警戒しておけ、との意で視線を一瞬だけ送り、二人とも受け止める。
(見えさえ、『出来れば』? ……見えないときもあるということか)
でもそう考えさせることすら、彼の考えの内かも知れない。とりあえず、それは脳の隅に置いておくことにした狼は、続きを聞く。
「普通の見方をすれば、勇者ならば倒せるでしょうね。それなのに、何故、彼らは餡蜜を倒そうとしないのか」
「理由は判るか」
「ええ、これでも専門家ですから。裏事情には詳しいし、勇者一行に会って聞いたこともあります。餡蜜を倒せない理由、それは……大量の人工的な火でないと、彼女は大きなダメージを受けないのです」
「人工的な火? 魔法は違うのか?」
そこで庵に視線をなげかけ、庵の知識を貰わんと。
庵は少し考えた後、ゆっくりと紅の乗った口を開いた。
「どの種類の魔法も、人工的に、そう、例えば自力で火をおこしたり、マッチで擦った火の強さとは少し強さも種類も違うのです」
「自然の火、じゃないのか? 自力で火をおこすのは」
「自力で火をおこす、これは人間の力、人間の本質的な力を使っています。マッチも人間が考えたこと。“人間”が関わっているか、“精霊”や別のものが関わっているか、それによって火力は違い、威力も受ける魔物によっては違います」
庵が説明し終えると、野良は庵に有難う、と頬笑んでから、説明を続ける。
「勇者達はその時、魔法の火力しか作れず、しかも大量に火薬を運べるわけありませんから。旅に食料や、燃料は必要といえど、帰りのことを考えれば、そんなに持って行けるわけがありません。他の冒険者達も、それで苦労しています。だがしかし、我が軍ならば火薬を大量に持って行き、魔法対策部の力を借り、魔法と見せかけて倒すことも可能です。人材もあるし、荷物だけ届けたりする部隊もあるし、いざとなれば、召還魔法で下僕に持たせればいいのです」
「それは、あいつらにその魔力があっても不自然じゃないとしての考え方だろう」
狼が溜息をついて、じろりと野良を睨むと、野良はやはり頬笑んでいた。
その顔の表情の変化はない。
「そこで、真雪の出番です」
「……は?」
「餡蜜は真雪から逃げたいでしょう。だから、きっと魔物を沢山送り込んできます。その間、我々で冒険者を装い餡蜜を真雪の近くにじわじわと近寄せるのです。気づかないように。そして、ばったり鉢合わせ。我々と共闘して、その共闘させる魔法使いの中に魔力が強い者を配置。共に魔法を唱えさせる、すると魔法で火が現れますよね? ……そのタイミングに合わせて、ありったけに込めた火薬を打ち込むのです。嗚呼、貴方の力も見せた方が共闘っぽいですね。銃弾もありますし。きっとそれも効果的です。急所に当たれば、死ぬでしょう。人間ですら、顔に命中すれば、砕け散りますしね」
微笑みながらぐろいことを言う。一同は想像してうっとなったが、狼だけは平然と嗚呼それもありだな、と頷き、綿密にその他の確認をする。
「連絡方法は?」
「通信機を、最先端の技術の他国に作ってもらいました」
「お礼状は?」
「既に贈り終えてます」
「誰が確認した?」
「副将です。使い方は……」
説明を耳にしながら、一回取り上げられた自分の紋章のバッジにつけられた黒いものを弄る。それから、人に頼んでつけて貰い、試しに使ったり使われたりしてみて、最終確認を終えて、狼は今日はよく寝ること、と言いつけた。
何せ、これから先はいつ眠れるか判らないからだ。




