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内部分裂の切っ掛けは妬み

 いつでも抜き差し出来るよう腰に剣を括らせて、狼は皆が半々来る頃に会議室本部に着いた。

 皆の顔を見ると、何処か様子が、いつもと何かが違っていた。


(……おかしい)


 そこですぐに席にいる野良の方を視線を向けると、野良は視線に気づかず資料を読んでいて、様子が違うのに気づいているのか気づいていないのかは、あまり判らなかった。

 ただ、その資料は自分たちの用意した資料ではなく、魔物の資料なのか、古ぼけた紙だった。

 今度は今やってきた抹茶を、じっと見てみる。

 抹茶は欠伸をしながら、うつらうつらとしていて、首をくきこきと鳴らしている。

 狼の視線に気づくと、首を傾げながらも、いつもの女性の母性本能をくすぐるらしい――狼には全く判らないが――笑みを向ける。

 それから、辺りをうかがい、邪笑を浮かべる。ということは、この空気の違いに、たった今気づいたというわけだ。


 抹茶がしかけたわけではない。

 庵は一番最初に居たようで、席に大人しく座っていても、未だに魔物の言葉を勉強していた。やはり、苦戦しているらしい。

 千鶴が一番最後にやってきて、会議を始める前に聞いてみようと思ったが、その前に千鶴が席に着くなり、女性の庵じゃない部隊長が御大将、とまるで皆の代表のように声を張り上げる。

 それに戸惑い、狼はそれでもそれを表情に出すことはなく、何だ、と問うてみる。

 確か、この女性は、交流操作部部隊長だったか。


「お言葉ですが、報告がありましてね、副将が一人の女性に肩入れしていると」


 ……そうきたか、と狼は内心苦笑した。いつかはくる質問だとは思っていたが、今来るとは。


「女性に肩入れするのは、そりゃ男だからしょうがないだろ。軍に女性や男性が入り交じればそんなことが起こらないわけがない」


「でも! 問題なのはそこじゃないです! 肩入れしている相手が、庵部隊長なのです!」


 だからどうした、素晴らしい事じゃないか、二人はお似合いだ、と狼は内心頬笑んで拍手していた。

 だが、その隊長はどうしてもそれが気に入らないらしく、そしてそれは他の隊長も同じのようで、誰も異論を唱えなかった。

 副将の千鶴は目を見開いてから、狼を見遣り、困惑していた。自覚してなかったんかい、とつっこみをいれたかった狼はこらえて、今度は庵を見遣る。

 庵はただ片眉を吊り上げてその女性を見つめていた。睨んでいるわけではないところが、彼女らしい冷静さというかなんというか。


「それで? それによって、どんな問題が起きる?」


「もしかしたら、副将の持っている情報が庵部隊長だけに流れてしまうかも知れないじゃないですか。逆もまたあり得ます。庵部隊長は、失礼ですが、魔法の対策、そして魔法を必要とする為に居る身であります! 彼女だけに情報が流れたり、その彼女の考えに影響されるのは、いかがなものかと! 嗚呼、それは御大将にもあり得ますね?」


 狼はタバコをとりだして、火をつけて、一服する。紫煙をはき出し、野良と抹茶を見てみると嬉しそうな顔をしていた。この状況が楽しいのだろう。

 狼はタバコを片手にしたまま、炎も一瞬で凍らせる程の冷たい視線を彼女になげかける。

 彼女はその視線を向けられることがまともになかったので、びくっとするが、俄然視線は強気なままだ。


「考えに全く影響されないことって、あり得るのか?」


「自分の考えを持つべきです。自分の考えで行動すべきです」


「じゃあ、お前は小さな頃から、赤ん坊の頃から考えが備わっていて何かの本に影響されたり、誰かの教えを受けて交流を操作出来るようになったわけじゃねぇの? へぇ、全部自分一人? 誰の手も借りず? そりゃ凄いな、何処の超人だ、お前」


「……ッそれは」


「誰かに影響されるというのは、大事なことだ。誰かの意見を受け入れながら行動するのも、大事なことだ。それを使った担当者だろ、お前。そのお前が、そんなこと言うのか?」


 狼のオブラートに包まない物言いに、彼女は少し涙目になりながら、でも、と主張を変更させることにしたようだ。


「でも、肩入れすると言うことは、その者の考えを私的に影響するということでしょう!?」


「……でも肩入れしている相手は、幸いなことに、魔法の専門だ。問題あるか?」


「え……ないとか言いませんよね?」


「無いじゃないか。魔法を扱うプロで、更に言うとそのプロの中のプロ。つまりは知識も判断力も兼ね備えている。この作戦を考えてくれたのは皆だが、根本的には庵だと言うじゃないか。実力ある証拠になるぞ。魔法って言うのは、頭の回転が速くないと巧く出来ないものだ。つまりは、この中で誰よりも、僕より、副将より頭の回転が速いということだ。その彼女の意見を受け入れないでどうする? お前、資料に書いてあるのを見たよな? 親元。誰も判らなかった親元を、幽霊だかなんだか分かんないけど、そいつの来訪の一言でそこまでつきとめた。なぁ、お前にそこまでできんのか?」


「大将、そこまでは言い過ぎですよ、流石に彼女、泣きかけています」


 野良がにこりと頬笑んで、立ち上がり、制する。そして泣きかけの彼女に、安心させるような微笑みを浮かばせる。

 狼は、フンと鼻を鳴らして、野良を睨み付けるような目つきで見遣る。

 この視線は、普通の視線だと知っている野良は、ただ苦笑して、狼に視線を投げかける。


「大将は、依怙贔屓が酷いです。副将を推したとき、何やら彼がならないと降りると言ったそうですね? まるで子供の我が儘じゃないですか」


「だが実力はある」


「大将、全部能力で見ないでくださいよ。人間的な部分も、大将なら部下のそういうところもフォローしましょう? 彼女は、副将の為、軍の為を『思って』、わざわざ勇気ある発言を貴方にしたのですよ?」


「野良部隊長……!」


 彼女は感極まった感じで、わっと泣き出し、それを隣の席の者が、それぞれ慰めている。

 それを冷静に狼は見遣る。くだらない、話だ。人間的なフォローって、ただの恋だか地位だかへの嫉妬に何故フォローしなければならない。

 野良は、此処で信用を得るつもりか、自分には出来ないことで。少し視線を鋭くして野良を見つめる狼。野良は、ふふっと笑って、では、と提案をする。


「では、このままでは各部隊長が不安なままに作戦を進めることになるので、庵部隊長と副将にはそれぞれお目付役をつけることにしましょう?」



 皆はそうだ、それがいいと騒いでいる。庵は諦めモードで溜息をつき、狼を見ると、これを否定するのは無理だと言わんばかりに、僅かに首を振る。千鶴は、ただ困惑して、狼狽えていた。

 野良は、皆に愛想をふりまいていた。

 拙い。

 このままでは、野良の動きの報告を、二人から密かに得ることは出来なくなる。安否の確認は出来るが。



「あ、大将にもつけたほうがいいですかね? 依怙贔屓しないように。あ、じゃあ僕が……」


「それなら、大丈夫です」


 抹茶がにこりと笑いかけて、挙手した。それに一同は注目する。野良でさえ意外な顔をして、抹茶を振り返る。


「抹茶、ろーくんと今日から、ずっと一緒です。冒険中、ペットです」


「それもそうだな、ペットだから他に接触を見張れるしな」


「抹茶ちゃんなら、ちゃんと見張ってくれるわ、きっと」


 賛成モードの部隊長達に、野良は少し焦りながらもそれを見せず、それなら、と。


「今夜はどうするのです? 今夜は別に冒険では……」


「練習です。ペット愛好家。だから、一緒におねむです」


「な!?」


 思わず持っていたタバコをおとして、狼は目を見開いた。

 だが皆は賛成モードで頷き、千鶴と庵に至っては仕方がない、というか他に託せる者が居ないという思いだ。抹茶の狼だけを殺したくない思いを信じる他しかない。この軍がどうなるか、それが心配だが。

 ただ夜這いとかそういうのが無いか心配だが、それは野良と抹茶が互いに戦って邪魔をしあうだろう。

 狼は、抹茶と野良を睨み付ける。二人とも、やってくれたな、と恨みを込めて。

 抹茶はにこやかに、宜しくです、と言い放って、野良は野良でお願いしますねと笑みを向けながら密かな圧力をかけていた。



(内部分裂、確かに面白かった。見せてくれて、有難う? 面白い機会をくれて有難う?)


(畜生、夜這いのチャンスを……! あ、でも、兎から守るってことで、居てもいいかも?)


 狼は、思いっきり機嫌の悪い咳払いを、誰もしたことがないような大きさで、してから、もう会議に入って良いか、と聞いた。


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