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狼の同業者来る

 部屋を出るなり、歩いていた人にぶつかる。否、歩いていたわけではない、足音はしなかったはず、と庵は嫌な予感を走らせながら、相手を睨み付け、少し離れる。

 ……銀色の綺麗なさらさらの髪の毛に、穏やかな紫の瞳。顔つきはちょっと女性のようだった。背丈は丁度、千鶴と同じくらいというかんじか。どちらにせよ、自分より背丈は上だ。

 服装は、網シャツに、腕までを覆う手袋のようなもの。自身を縛るような紐の連鎖。その下は、少し広がって、形がしゃんとしている「上半身のない」コート。腰から下にベルトでつけましたという感じで。そのコートから覗くのは、短いズボンの綺麗な足。肉の引き締まり具合から見ると、男なのか、と思った。

 庵は直感を働かせる。抹茶風に言うと、匂いを嗅ぎ分けている。




(この雰囲気……狼様に似ている。……あの方は兄弟とか居るとか訊いたことはないけれど、親戚とかそういうわけではなさそう)


 そうなると、この全然狼とは違う空気なのに、何処か異質な空気の同じさは何なのだろう、と庵は睨み続けた。

 それに、銀髪の青年は吹き出し、けらけらと笑う。


「ぶつかったのに、謝ったりしないのー?」


「ぶつかってほしかった方に謝礼するほど、お人好しじゃないのよ」


 そういって、錫杖を構えて、いつでも戦える準備をする。脳内に様々な攻撃魔法の候補を挙げておいて。

 青年は、見抜かれてることに気づくと、苦笑を浮かべて――否、苦笑と言うにはあまりにも切ないような、儚いような笑みだ――、すっと手を前に出した。


「……何よ」


「握手。此処が真雪保護軍、本部でしょー?」


 その存在は、常人は知らない筈で。知っていて、尚かつ本部の場所を知っているという事は、……。


「これから、宜しくお願い致します、魔法対策部部隊長殿。僕は、陛下直々に命ぜられた魔物と物理攻撃対策部を兼任します、野良のらです」


 そういうことなのだ。まさか、二つの部隊を兼任する者が出てきたのは意外だったが。

 野良は、握手をしてくれる様子がないと判ると手を下げ一礼して敬礼を。そして一線を引いた笑みを浮かべ、人差し指を庵の前に持って行く。


「そんでもって、霊能力もちょいとばかしあるんだよねぇ?」


「……野良隊長、今の会話、聞いていたの?」


「うん、まぁね? でさ、誰かに報告しようとしていたみたいだけどさ、魔物対策部部隊長の僕に言えばいい話だと思わない?」


 確かにそれは道理だ。わざわざ副将に直接言いに行くこともない。だが、こんな得体の知れない、それも嫌な予感のする男よりかは、自分が信じていて、その意見が聞きたい副将の千鶴の意見が聞きたかった。

 庵は、溜息をつきながら、狼のする鋭い視線を真似て、睨み付けてみる。


「聞いていたのなら、私と話すことなんてないでしょう?」


「そうだねぇ……じゃあさ、副将に言いに行くついでに、大将に一言言って置いてくれないかな」


「……何を?」


 庵はその場から去ろうとしながら、背は見せず、後ろ歩きで千鶴の居ると思われる方角へ足を向ける。

 それを見遣り、男はくすくすと笑いながら、異質の空気を隠そうとはせずに、庵を睨んだ。睨みながら、笑っている。

 その鋭さが、自分の知っている人物と同じ鋭さであり、体が震えたが、気のせいにした。


「誰かに蹴落とされないようにねって。その地位。今度負けたら、体全部持ってくから」


 その言葉は大胆不敵な、犯行予告のようで。

 地位の略奪を、わざわざ宣言しろと言っているのだ。

 陛下直々、ということは狼は彼の存在を知ってるわけではないという事だ。

 だが、恐らくは知人。それも――……。





(何故似ているか、判った。この人も、この人も、暗殺者なんだわ)



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