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幽霊からの警告

「あれ、庵部隊長は見に行かなくていいのですか?」


 一人、城で次の策を、そして情報を待っている庵に、通りかかった部下が聞いてきた。

 庵はにこりと王女とは質の違う妖艶な微笑みを部下に向けて、それから、自分の匂いは勘づかれたくないと口にした。

 千鶴は指揮を執るのを任されたので現場に居なければならないのだが、自分は別だ。

 自分は、今の段階では居なくてもいいのだし、それならば、と此処で策を練ることにした。それには狼も、頷いていたので、安心してこうして策を練っている。狼曰く、あの子供は勘が鋭すぎる上に記憶力が良いので、見ない顔もいた方が良い、だとか。


「ねぇ」


 通りかかり、そして上司が大丈夫と言えば立ち去ろうとしていた軍兵は、突如庵に話しかけられて、何でしょうか、と慌てて彼女が策を練って見つめている書類の束が出来ている机に駆け寄る。

 庵は、その様子を見もせず、ただ資料を見て、言葉を口に乗せる。


「……まだ、真雪くんの親元は判らないの?」


 こんなにも数ある資料。それなのに、一切、親に関する情報だけが抜けていた。

 それだけが、きっと幽霊が何故真雪に構うか判る判断材料だと、庵は見ているのに。


 ……役に立ちたい。役に立って、狼の満足のいく結果も出したいし、千鶴とも話が出来る切っ掛けを作りたい。副将と決定した日から、女子が千鶴で騒ぎ出したので、中々接触できないのだ。抹茶、狼、真雪という関連でないと。それに、千鶴はもう候補ではなく、立派な副将。自分なんかが気軽に話しに行ける立場ではないのだ。


 まるで抹茶の狼へのかまい方のようだ、と自分でも少し呆れてしまうくらい、気づけば彼女は千鶴に恋いこがれていた。抹茶はきっと、狼への思いは無自覚だろうけれど。……彼、千鶴も自分に対し好意があるのは自負できる。だが、難関がある。王女の存在だ。彼にとって、何よりも大事な存在だ。本来なら仕えるべき主の親族であるし、何より王女とのやりとりを千鶴は頬を僅かに染めて話してくれた。


 気ままにパーティを組んだり、禁呪の書と戦っていた自分には、仕えるとかそういうのはあまりよく判らないが、それでもそのかけてくれた言葉のありがたみだけは、何となく判り。


(だからといって、手加減はしないわ)


 庵は予想していた、まだ不明ですという部下の報告を聞くと、有難うと頷いて、もう行くよう命じた。

 それから、給仕の何時間か前に入れてくれた紅茶を飲み、一息つく。

 ……ふと、空気のざわめきに気づく。精霊達が何かを囁いて、騒いでいることに気づく。

 恐らく魔力がダイアモンドクラスでないと気づかないほどの囁きだが、異質な空気に思わず立ち上がり、純銀の錫杖を手にする。


「……何方のご来訪?」


 庵は冷や汗をかきながら、笑みを取り繕った。此処には自分以外居なくなってしまった。そして何より、こんな異質な気配に此処へ近づかれるまで気づかないなんて。それほどの力の持ち主。



(……まだ、死ぬわけにはいかないのよ)


 びゅおおと風で窓ががたがたといっている。此処の窓は少し古いので、少しの風でもがたりと鳴る。だが、この音の鳴り方は、尋常でないし、タイミングが良すぎる。悪い意味で。

 庵は錫杖を構えて、慎重に窓をあけた。

 窓を開けると、暗雲が立ちこめていた、城の上だけに。

 不吉な前兆ね、何か最悪のことが起こる条件は揃ってるじゃない、なんて考えながら、外から気にすればひしひしと感ぜられる気配に、庵は睨み付ける。




 “それ”は、漸く返事をした。



「誰か霊能者を呼んだ方がいいのではないか?」


「大丈夫、姿は見えなくても声は耳に出来てよ」


「……だが、震えている」


 そう言われ、ふと錫杖を持っている自分の手を見遣る。僅かに震えているが、この霊圧を感じれば、どんな魔法使いでもそれは普通の反応だろう、と判断し、心配有難う、と何処へとなく微笑みかけてみる。


「……こうして笑う余裕はあるのだから、安心なさって?」


「承知した。それならば、用件だけ言おう。今の作戦はやめさせろ。残酷だ。これは脅しではない、道徳を説いている」


 “それ”が言ってる言葉は簡易に理解はし難くて、言われていきなりはいそうですねと頷けるものではない。だから、庵は代わりに何故と素直に疑問を口にした。


「彼は冒険者よ、魔王に挑むことは今回とは別に無いとは言い切れないじゃない。作戦をやめても、彼らは動くかもしれないわよ? それでも、止める?」


「その問題は、別の魔物を魔王に仕立てるだろう、“彼ら”も」


「……“彼ら”……ですって?」


 個人ではなく、団体を示し、尚かつ真雪を特別扱いしているのは幽霊だけではないことに庵は気づくと、その特別扱いをしている者を考え、導き出す。

 その思考回路は早くて、流石は魔法使いといったところだろうか。

 それに気づくなり、すぐに“それ”は消えていて、その気配が無いのだと判るとすぐに庵は千鶴の元へ知らせに行こうとした。



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