拳で解り合え、拳で決着を
「僕はこれでも、剣士の一端でね、嗚呼、片腕は無くしたが……まぁ、腕には自信がある。だから魔物を倒して、少しの間、冒険者にでも転身しようかな、なんて」
「……冒険は危険ですよ」
親身に心配されると居心地が悪いが、口だけの礼を告げる。
そして、でもね、と口元を綻ばせた。
「それでも、葬式がしたいんだ。それに、彼を殺したのは――魔物だ」
そう告げると、僅かに真雪の目が見開かれた気がした。
今まで人型の魔物を見たことが無いのだろう。聞いたことは……あるのだろうか。
念のため、彼女は魔物だということを教えておく。それも三大魔王だということを。
何故知っているかと問われれば、彼が彼女について調べていた魔物探求家だったからと答えた。それは嘘ではない。
その頃合いにデザートが運ばれてきた。会話の途中に頼んだ物が運ばれるのは自然なことの内の一つで。今度は満足そうな視線を送る。すると店員はにこりと微笑み、ごゆるりとと口にして他の客の接待をする。といっても、その客は軍兵なのだが。
「……餡蜜って、……あの、餡蜜?」
「そう、餡蜜。恐らく顔を見て生き残ったのは、最初の最後で僕だけだろ。あと、お前」
「……狼さん、街の噂をご存じ?」
「……? 何だ?」
「……なんか、最近、餡蜜は他の魔王に殺されかけて、ぼろぼろで縄張りに閉じこもっているらしいです。そう、今はぼろぼろ」
「……そう、なのか?」
「なんか人間に姿を見られたから殺されかけたそうです。……賞金も高くて、仇、そして何より今がねらい目なのです」
「……でも、僕一人じゃ……魔法も、罠も……」
「ふふっ、運が良かったですね、狼さん。見てお判りでしょうが、俺は魔法使いです。あんまり使えませんが、それでも死んでませんよ? そして、俺の仲間の二人は一人は剣士で一人は、なんと、罠解除が出来る弓士なのです!」
「……僕は、人見知りが激しいぞ?」
そういって、一応、戸惑うふりをしておく。それでも真雪は作戦通りに、大丈夫ですよと頬笑んで、任せてくださいと頷いた。
「一緒に、倒しましょう。俺、貴方と相性が良い予感がするのです」
「……! ……子供の世話をしなくては、ならないのか」
そんな皮肉を言って置かなくては不自然だろう。それでも拒否するオーラを出さず、差し伸べられた友好の意、握手をする。
そしてそれから二人はデザートを口にしながら、軽く談笑をする。
此方では和やかに話しているが、店の外では店に入ろうとして必死に軍兵に止められている抹茶の姿があった。抹茶曰く、「あれは、デートです」だそうだ。人間の情報に、よく詳しい獣人だ。
その時だった、店の中に一人の客が入ってくる。
「大変だッ、喧嘩、喧嘩だッ」
その大声に流石に驚いたのかそれまで楽しそうな顔で話していた真雪は其方へ視線を。自分も釣られるように見遣る。
「今、茶髪の剣士と、東洋の剣士が……ッ」
「東洋……! 狼さんっ、あの、ちょっといいですか!?」
「どうしたね、喧嘩を見に行くのか?」
狼は首を傾げて不思議そうな顔を作る。
庵の言葉を思い出しながら。
(冒険者というのは、正義感が強いです。でなくば、魔物退治なんてしません。そしてより強いという気持ちで溢れています。そこに、一人不安を投じてみてはどうなりますでしょうか?)
……――計画は。
(剣士のプライドをくすぐり、そして剣士同士をぶつけあいさせる。そこに現れるのは、貴方と真雪くん。そして――)
順調だ、と内心呟いて狼は頷く真雪に続く。代金をテーブルに置いてから。
外に出るなり、兎姿でない抹茶を発見し、軽く睨み付けてから、「にっくん、おいで」と端から聞くと優しい声色で呼びかけてから、背中を見せる狼。彼女は、先に走ってる真雪を追いかけ、そこらにいる軍兵に「第二試練成功」という口ぱくをした。
抹茶は不満そうな顔をして、そして兎の姿のまま追いかけては潰されるし、人が邪魔で追いつけないのでその姿のまま追いかけて、現場で兎に戻ろうと思った。
現場に着けば、そこに居るのは野次馬と、黒髪青目の剣士と茶髪黒目の剣士。
真雪はそれを見るなり、自分の相棒でないことを確認し、ほっと息をついた。美闇の手の早さは、知っている。だからこそ、彼は心配だったのだ。美闇は野次馬に混じっていた。
黒い細毛に、柄の悪そうな少し崩れた顔立ち。見るからに、けんかっ早そうだ。服装は、今は冒険中じゃないからか、軽装だ。
美闇を呼びかける真雪、その視線の先の人物を見るより、その先の人物の獲物を確認する。ちゃんと、腰に着いている。それから、人物へ視線を合わせる。真雪につられるように。
「真雪? あ……この前の男じゃねぇか」
「……男?」
少し首を傾げるふりをする。その様子に、怒らせないうちにと思ったのか、真雪が美闇は狼を男だと思っていると説明しだしたのだ。
「男だったら、ワンピース着てないだろ」
「いいや、男だね。喋り方も、なんか妙に芝居がかった感じだし。あ、判った、雄んなってやつだろ!」
「……悪かったな、僕は元よりこういう喋り方しか出来ん。真雪、彼は君のパーティなんだろ? 僕は彼とは気が合いそうにない。この話は無かったことに……」
「ええ!? そんなぁ!! だ、大丈夫ですって! 美闇! 謝れよ!」
「ああー? この話って、どういうことだよ」
そこで自分の判らない交渉が真雪と狼の間で交わされていることに気づく。真雪は少し離れた場所まで美闇を引っ張る。丁度その頃合いに、抹茶が兎の姿でやってきて、狼の足下にすり寄る。
(蹴りてぇ。これ、蹴ったら、絶対幸せになれるって)
などと思いつつも、彼らの会話を予測してみようとしたが、それは必要なかった。美闇が周りにも聞こえるほど大きな声で喋っているからだ。
「剣士ならオレが居るし、あんな男いらねぇし、分け前減るだろ、あの魔物相手にするにも!」
「美闇ッ、女の人だってば! 怒るよ!? 今度、あの魔物を相手にするのなら、三人じゃ役不足だよ」
「……あんな片腕しか使えない雄んなに何が出来るってよ?」
その言葉に、よし、いいタイミングだ、と口の端をつり上げて、二人に近寄る。
兎がまとわりつくが、踏まれても仕方がないだろう、これは。
「誰が使えないって?」
「え、あ、狼さん……!」
嗚呼聞こえてしまった、と真雪は溜息をつき、狼狽える。
美闇はというと、好戦的な目をして、狼を睨み付ける。その目の鋭さは、まだまだ死線をかいくぐったようには見えない。まだ、迫力が足りない、と勝手に内心で評価しながら、狼は本当の鋭さを出さない程度に睨み付ける。
「僕は男に負けない自信はあるんだけれど?」
「女は結局最後には男に負けるんだ」
庵が聞いたら怒りそうな台詞だ、とその場にいた軍兵は軽く思ったという。
狼は少し怒ってるように見させ、尚かついつものような鋭さを消して、フンと鼻を鳴らして見せた。
「それなら、この喧嘩を静まらせてみようか?」
「……つまりは、力ずくで取り押さえるってェ? っは、無理だ、過信するなよ」
しているのはお前だ、と毒づきかけて、狼はにこりと頬笑んで……美闇を片腕で殴った。
その衝撃に周りは驚き、今度は新しい喧嘩か、と目をやる。喧嘩が飛び火するのはそう珍しいことではないが、またしても剣士同士だと知ると、周りの者は場を少しあけた。
一言で言うなら、避難。
美闇は立ち上がり、口の中の歯が一本折れているのに気づくと、片腕のくせに良い腕していると少し悔しがりながら、睨み付けて笑う。
「そういうのはな……静まらせるっていうんじゃなく、火を注ぐっつうんだよ!」
あえて、避けずに殴られる。それもその早さについていけない鈍さというものを、見せながら。本来の彼女自身なら、避けるどころか簡単に相手を殺せていただろう。
だが、此処は女らしくなってはいけなく、そして尚かつ自分もある程度力があることを判らせるところだ。
狼は殴られた衝撃にも耐えて、一歩さがってから、何も言わずに今度は回し蹴りを。
少し飛びすぎる姿を見て、力をもう少し加減すべきだったかと思うと同時に、鍛えろと狼は同じ剣士を見る視線を向けた。
否、自分は剣士とは少し違うだろう、自分は、と少し顔を顰めた狼。顔を顰めた彼女を蹴れたのに何故そんな顔をするのだろう、と真雪は首を傾げた。
そんな真雪の様子にも気づかず、狼は無表情に顔を戻し、思いっきり倒れている美闇へ指をちょい、と手招くように煽った。
美闇はプライドを刺激され……上等だ、と狼と喧嘩し合った。
(そこに現れるのは、真雪くんと狼様。そして……剣士の美闇。けんかっ早いのなら、喧嘩好きでしょうからね? 見るのも。そこで貴方は貴方を軽く見ている美闇くんを挑発するのです。ほら、よく言うじゃないですか)
抹茶はつぶらな瞳で、その様を、くだらない茶番だと呆れて見ていた。
(――下手に話し合うより、男の方は拳同士で語り合った方が打ち解けると)
計画はすこぶる、順調だ




