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珍妙な反応であり、女性らしい反応の狼

「どうかしたです?」


 普段ならいきなりの後ろからの抹茶の呼び声も、今の彼女にはとんでもない凶器で、思わずきゃぁああと叫んでから振り向き、後ろへ下がった。

 それを一瞬きょとんとして抹茶は見たが、次の瞬間頬笑んでいた。

 あの狼が、真っ赤になり、そして普通の女のような――実際女性だが――叫び声をあげたのだ。

 面白い。そう抹茶が考えるのは、自然なこと。


「ろーくん、かぁいい」


「か、かかか可愛い!? 僕はッ、僕は可愛くなんかねぇ!」


「ろーくん、可愛いです」


「僕が可愛かったら、世のむさい男ども全員愛くるしいわ!」


 何せ男顔! と、むきになって否定する彼女を、げらげらと笑うと、彼女は益々顔を赤くして、笑うなと必死に止めさせようとする。その姿が余計笑いを注ぐのに。可愛く見えるのに。

 誰にも見せたくない顔だなぁ、態度だなぁとぼんやりと抹茶は思った。



「ろーくん、本当は女らしいです?」


「女らしかったら、ドレス代わりのワンピースにレギンスなんか履かねぇよ!」


 それは確かに。この時代、この世界でワンピースの下にレギンス、というのは異質だった。

 でも、レギンスを履くのは動きやすくするためで、ワンピースを着るのは女だと判らせるためだと知っている抹茶は、にやにやと笑って何も言わない。

 それが返って腹立たしい。


「何処か行け!」


「厭です。他の人、此処通ったとき、ろーくん隠せないです」


「何故隠したいんだ?」


「何故隠したいです?」


「僕が聞いている!」


 真っ赤なまま怒鳴る相手に、何処まで鈍感なのだか、と抹茶は苦笑する。

 本当に隠したい。

 この真っ赤になって狼狽える姿は、貴重すぎて狼を知る人物を見たら、不気味、か、可愛いかの反応に分かれるだろう。

 特に見せたくない人物が、一人居る。



 真雪。


 あの子供なら、かっこいいと思っていた狼のこんな姿を見たら、もう胸を弾ませるだろう。ただでさえ、怪しい節がある。


「……ろーくん、死なないです?」


 そうしたら、死んだら、真雪のことなんて考えさせなくて済むのに。いっそ餡蜜に頼もうか。

 でも、そしたら自分とは会えなくなり、更に言うと真雪が自分の能力に気づき、狼を自分の所にだけ会いに来させることが可能だ。

 ……それだけは、絶対厭だ。


「やっぱり、死ぬ、厭です」


「お前はさっきから、何なんだよ。死ねとか、死ぬなとか……!」


 嗚呼、と溜息をついて、狼は冷静さを取り戻そうとした。

 そこで抹茶に悪戯心が疼いた。

 今の彼女になら、キスしたらその意味は判るのではないだろうか。

 あの時は服従の意味で、戯れでキスしたが、今は別の意味でキスがしたい。理由は、ただ多分、オモチャが欲しいのだろう。このオモチャが。


「ろーくん、目閉じて?」


「誰がお前相手に閉じるか。殺してくるだろ」


 きっぱりと自然に言い放ち、しかもそれが密かに自分を敵と見ている宣言だという事に気づくと、少しだけイラっとした抹茶は、強制的に実行することにした。

 実行したら、親の敵のように睨みつけるところは前と同じ。冷静に自分を押しのけるのも、同じ。違うのは、彼女の言葉と、やはり真っ赤な顔。



 「ばばばばばば」


 どもりすぎだ、と内心大爆笑の抹茶は、彼女へ不敵な笑みを向ける。


「馬鹿者ッ!! エロ兎めが!」


 嗚呼、そんなすぐに口を強く服で拭わなくてもいいのに。

 益々、そんな顔をされると、虐めたくなる。嗜虐心を刺激される。

 だが、それは出来ないと言うことに気づいた。足音で判る。王女が近づいてきているのだ。


(嗚呼、面倒くせぇー)


 舌打ちしかけて、でも、それは途中で思いとどまって、自分は健気なフリをして、王女の元へ駆けていく。


「モネちゃぁん」


 そういって、王女へと抱きつく。

 王女は自分に抱きつかれるなり、きゃあと笑い、嬉しそうな笑みを見せる。

 真っ赤になる姿。

 それを見ても、狼への思いのように盛らないのは、何故だろうか。はて、と自分の中で抹茶は疑問を抱きつつ、無邪気に笑いかける。


「モネちゃん、久しぶりです」


「抹茶、あのね、あのね、今度、お城で私の誕生日パーティーがあって…」


 王女の話を聞きながらも、そこで一つの視線に気づいた。

 此方を見遣る――狼の視線。

 彼女が唇の動きだけで呟く。「どういうつもりだ」と。

 抹茶は、王女に話しかける唇の形で「判らない」と答えた。


 正直な気持ちだ。

 自分が何をしたいか、本当に判らないのだ。

 ただ、強く思うのは。



(またあの真っ赤な顔見られないかなぁ)


 仄かなくすぶる未発達の心。



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