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千鶴と狼の大勝負

 「陛下、何故彼では駄目なのですか。ちゃんとした理由をお聞かせ願いたい」

 狼は無感情に、そして無表情に、そして文句あるのかこら、とオーラで物を言って、王を脅す。

 それを止められる者は居ないのだが、副将候補の千鶴だけがおさめようとあたふたしていた。


「彼は、若すぎるし、経験が浅いッ」


「若いからこそよく動き、経験が浅いからこそ経験させるのでしょう? これからの国を守る手を、育てられるチャンスですよ?」


「こういうのは経験があった方がいいんじゃよ」


 口を出してきたのは、同じく副将候補の大臣。確かに、彼には戦乱の時代を戦い抜いた記録はある。だが……。


「確か、その時の戦は負けましたよね? 貴方が司令官で」


 にこりと頬笑む狼は、恐いもの以外の何者でもない。

 大臣は、うっと図星を指摘されると、咳払いをする。


「例え負けたにせよ、戦の経験があるというのと、ないというのでは全く――」


「今回のは戦ではない上に、目的が奪うのではなく、守るのです」


「……どっちも似たようなもんじゃろう」


「似てたら、僕はこんなに苦労はしねぇよ!」


 狼が怒鳴る。本気でキレているのだ。敬語を失念している。千鶴は触らぬ神に祟り無し、という言葉を思い出していた。あれは、東洋の言葉だったか。

 確かに、奪うだけが目的だったら、こんなに軍などというものを作らなくても、狼一人で事足りただろう。

 一人相手の総大将を暗殺してしまえば、お終いなのだ。

 だが、今回は相手が殺してはいけない存在のうえに、存在も知られてはいけない。

 存在を知られないのは得意だが、それなのに存在を知られた。そのうえ、その相手を保護せねばならない。何と、難しい。奪うより守り抜く方が大事と、先人が言っていたような気がする。


「僕はですねっ、忠実に自分の手足、否それ以上に動いてくれる部下が欲しいのです」


「わしでは、出来ぬというのか!?」


「貴方の古い考えと僕の思考回路は、全く違う! 第一貴方は自我が強すぎる!」


 否、それを言うなら、自分もだ、と千鶴は苦笑した。それを大臣に見つけられ、睨まれた。千鶴は、苦笑を消して、一礼する。

 それを大臣はフンと鼻を鳴らして一笑する。

 狼は、溜息をついて、大臣と王を交互に見遣る。


「もし千鶴が副将にならないのならば、僕はおります。目に見えた負け戦はしないタチなので」


「狼?!」


 流石にその発言には、王は狼狽える。物理担当者が死んだ知らせは聞いているし、今までの依頼からで彼女の力強さを知っている。

 彼女が人間の中で、勇者の次ぐらいに力があると見ている王は、その発言に狼狽える。


「君がおりたら、それこそ負け戦じゃないか!」


 王はそう言いながら、彼女の弱みを脳内で必死に捜す。軍に縛り付けるため。だが、それは狼に見抜かれ、狼は王をぎろりと睨み付ける。



「あの……僕、そんな難しいこと、言ってます?」


「あ……」


「陛下、僕はね、国って統率者が必要だけど、その代わりは幾らでも居ると思うのですよ」


 暗に其れは、自分を殺すぞと脅していることに気づいた王は、真っ青な顔で、視線だけで千鶴に助けを求める。

 狼は千鶴にちらりと視線をやる。その目は睨むようで、王を助けるなと言ってるようで。端から見ると。

 だが、今がアピールするチャンスだと訴えてる、と本当の意味に気づき千鶴ははっとして、大声を張り上げる。


「陛下! 自分は、確かに情に脆いところがあります! しかし、お言葉でしょうが、今回の件は情が何より大切だと思うのです。目的が、守る、ことですから!」


「若さは過ちを犯しやすい!」


「老いたら過ちは決して犯さないのですか?!」


「少なくとも慎重に……」


「陛下、政をするのと、今回の件は全くもって別なのです。それはもう、お判りでしょう?」


 千鶴はその言葉を最後に王へ、視線を。自分を睨む大臣、自分をもう見遣らず王を見遣る上司、そのどちらも気にせず、自分の主人へ視線を。




(御大将のお役に立ちたい。最強の暗殺者の元で、腕を磨きたい。そして磨かれたその腕でこの国を守りたい)


 その一心で、強い強い強い眼差しを。

 ……その視線に、王は負けた。


 狼は振り返り、自分の視線だけでタイミングに気づいた千鶴に、よくやったとの意味合いで頭を撫でてやったのだが、千鶴はまたしても子供扱いされたのだと少し心の中で落胆した。



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