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してはいけない邂逅

 そんな声が微かに聞こえた。聞こえたと同時に首を絞める物は無くなっていて、魔王も消えていた。

 代わりに駆け寄ってきたのは、嗚呼、向日葵色の髪の子。

 拙い。

 助けて貰って何だが、非常に拙い状況だ。

 真雪保護軍の、総大将である自分が、真雪自身に見つかるなんて!

 何故真雪を魔王が恐れるのかは知らないが、逃げようと思った。

 息もまばらに、狼はその場を立ち去ろうとした、が、腕を掴まれる。


「何だよ!?」


 少しキレながら、狼は自分を掴む真雪へ睨みをきかせる。

 真雪は少し驚くが、それでも怖々と大丈夫ですか、と声をかけてきた。

「平気だ、有難う、これでいいか!?」

 相手が満足しそうな答えを述べた。だが、それでも相手は離さず、今度は死んだ部隊長を指さした。

 

「あの人、仲間ですか? 置いていくのですか?」


「……嗚呼」

 そこで、道徳心に欠けていたことに気づいた。自分を助けようとしてくれていた部隊長を自分は置いて逃げようとしていたのだった。

 総大将失格だ、狼は少し恐い顔を歪ませて更に恐い顔を作る。それに怯えかけた真雪に、安心させるように、何でもない、と言って、頭を撫でてやってから、部隊長を片腕で担ぎ上げ、真雪に剣を拾ってくれ、と頼む。

 真雪はにこりと微笑み、剣を拾い、頼んでも居ないのに、鞘へと戻そうとしてくれた。

 ……ええと、此処での通常の反応をせねば、怪しまれるだろうか。そう狼は心の中で溜息をついて、愛想笑いを浮かべて、真雪に有難う、と言った。


「助けてくれて有難う、死ぬところだった」


 それは正直な気持ちだったが、本音を言うならば別の人物に助けて貰ったらこうもややこしい事態にならなかっただろうに。

 愛想笑いに真雪は照れて、ぼっと顔を赤くする。女みたいな反応だなーと、真雪のうぶさに顔の筋肉が引きつる。


「恩人のお前の名が知りたい。僕は……ええと……」


 迷った挙げ句、この子供には嘘は通じないだろうと思い、素直に狼だ、と名乗った。

 片手しか腕はないので、握手は出来ない。

 真雪は、視線を下に向けて、真雪です、と名乗る。少年、自分は此方だ、此方を見遣れ。


「あの、“僕”って……男の方なんですか?」


「いや、女だ。しゃべり方は気にするな。自分のことを、僕と言うのは可笑しいか?」


「いえ、別に……! ええと、友人が、前に貴方のこと男って……」


 嗚呼、そういえばそんな会話をしていると抹茶が言っていたなと思い出し、苦笑する。

 それを別の意味に捉えたのか、真雪は慌てて、違うんです! と、何が違うのか判らないが、否定をした。


「……ええと、以前から、この街で貴方を見かけていて、あ、それで今日も見かけて視線があったのですが、覚えてますか……?」


「いや、すまない、記憶にない」


 嘘だ。だが、こうでも言っておかないと、印象に残りやすくなってしまう。


 今の狼は冷静さを欠いていた。

 こういう時、どうすればいいのだろうか、と脳内で必死にシミュレーションをしていた。

 助けて貰ったことなど、初めてなのだ。どう対処して良いのか判らない。

 何を言えばいいのか困っていたところ、通りの道で、抹茶と千鶴が此方を見つめているのを見つけた。よく目を細めると、遠くの方に庵もいる。

 狼は抹茶を睨み付ける。千鶴はそれを不審に思い、抹茶と狼を交互に見遣る。抹茶も、何故だか此方を睨んでいる。

 睨まれる覚えはないのに、何故睨むのだと益々苛々が募る狼は、真雪に営業スマイルを浮かべてから、シミュレーションした結果の行動をした。


「今度、また会ったら礼をさせてくれ。僕はもう行かなければならない、それではな?」


「え、あ、はい! お気をつけて! 貴方の先に精霊の加護を!」


 狼は、魔法使いの口癖である、「精霊の加護を」という挨拶が嫌いである。

 お前は幽霊の加護がありすぎるんだよ、と真雪を背後に溜息をつく狼だった。

 狼は暗がりの道から出るなり、三人へ城へばらばらへ戻ろうと、指の合図で指令する。

 各自部隊長に伝えるように、とも付け足したかったが、それは流石に無理だろう。



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