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羊を守らなければならない狼

 暗殺者に、たとえば子供の保育をしろと声かける馬鹿はいるのだろうか。

 それも世界でグルになって。


ろう、君を真雪保護軍の総指揮官、及び総大将と認定する」

 自分の直属の主である、国王が呼び出して命令したことは、きっとこの世のどんな物よりも馬鹿げている。


 羊や同職を喰らうことしかしなかった、血に餓えた獣が羊を守るなんて、馬鹿げた話、聞いたことがない。


*


 一見男性のような黒髪の女性が、城下町を歩いて行く。

 ろうはこの日、機嫌は悪くもなく良くもなく。ただ、この青空の下でゆっくりと太陽を浴びて昼寝がしたかった。

 自分の性分で、完全に眠りに陥ることなんて、ないのだが、うたた寝でも良いので、日差しを浴びて、この太陽の愛情に暖まれて、風に軽く嬲られたかった。

 狼はでも、街の中心部にある聳え立つ、真っ白な城へと向かっていた。

 周りの者が副流煙でたとえガンになっても素知らぬ顔をしながら、歩きタバコをしていた。

 この女は、国認定の殺し屋。城に向かっているところである。

 正直、面倒だった。

 王の命令を受けるのも、それを実行するのも。

 ただ、それを否定しなければ秘密が漏れると恐れる王が自分を殺すだろう。死ぬのだけは、何故だか厭だった。

 大体、殺し一つ、縫い物をするよりかはとても容易くて、それを一つ放り出すだけで死ぬのは、自分にとっては馬鹿らしい話。

 紫煙をはき出し、狼は鋭い目を益々細め、気怠げに歩く。

 人混みは、自分が紛れるのに有利なので、嫌いではないが、こうして自分が目指している場所とは反対方向の流れで歩まれると、その場にいる全員を殺したくなる。

 でも、それは一流の殺し屋とは言えないだろう。

 殺し屋とは、仕事を無感情にこなし、表の人間には、例え吐いた息でさえも気づかれないようにしなければならないのだ。

 軽い殺意を感じながらもそれを他の者に感じさせることはなく、狼はこの城下街を歩いていた。

「誰かぁ!私のバックが!!」

 自分の向かってる道、目先の方から声が聞こえた。

 自分の持ち物が恐らくスリに遭い、盗まれた哀れな羊の声だ。

 此方に走って駆けてくる狼になりたがっている羊、つまり此方に来る盗人を見ると、自警団が追いかけているのを確認した。



 (嗚呼、間に合わないだろうな、あの距離では)


 ほんの気まぐれだ。

 此方へ来た盗人へ、足を引っかけた。盗人は転倒する。その隙に、別の街の人が捕まえる。

 盗人が文句を言う前に、自分は立ち去った。

 ――こういう時の人混みは、とても好きだ。自分が、見えなくなるし、誰が何をしたのか判らないから。


 だが、それは一人の子羊に見られていた。


 じっと此方をずっと見てくる視線、いつもなら気にならないのだが、一般人としてはそれに気づいて、お愛想の笑みを一つあげるくらいはしなければならないのだろう、多分、行動を見られていた。行動を見ていて、それで自分に注目しているのだろう。

 振り向いて、視線が何処から来ているのか、すぐに目だけを彷徨わせ、確認する。


 向日葵色の癖ッ毛に、幸福の証とされてる赤い目。額には赤い目とお揃いのルビーが埋め込まれていて、手には木で出来た大きな杖、ということは魔法使いといわれる職なのだろうか。

 他の職に疎い狼には、魔法使いの種類など判らなかった。

 ただ、確か額に石が埋め込まれているのが魔法使いの証で、その石の色によって魔力の強さが違うというのは知っていた。

 殺しの依頼は、偶に自分の殺気を察知されるからという理由で、魔力の高い魔法使いが狙われていたからだ。

 魔力の高い魔法使いほど厄介な者は居なくて、自分の策略を交わし、かつ殺気も感じ取り、物理では対抗できない攻撃魔法で抵抗してくる。

 それでも、それを必ず最後には殺している狼の力は、それ以上で。

 (赤い石は、見たこともない。ということは、下級か中級か)

 そんな魔法使いが自分の職に気づくわけがない、だがそれでも一応念のため愛想笑いを浮かべてみると、その魔法使いは近くにいた自分のパーティ――冒険するために組んでいるチームメイト――に、何事か言っている。パーティが何を言ってるかは流石にこの位置から……何メートルもあるこの位置からは聞こえなかったが、その魔法使いの少年は怒っているようで、何か怒ってから、此方を見遣り、苦笑した。それから、ぺこりと頭を下げて、少年は去っていった。


 ……子羊に、行動を見られていたなんて自分はまだ甘いレベルなのだな、もっと修行せねば、とこれ以上強くなる決心をして、狼は紫煙を空に昇らせ、城へと歩みを進めた。


 城へ入れば、城内入場許可書なんてなくても、狼を意味する誰かが書いた絵本の想像上の文字、それが頬に刻まれてるのを見れば、城に仕える誰もが城にはいるのを黙認し、噂話するのも恐れる。近寄るのも、見かけるだけでも恐れる。


 ……ただ、一人を除いては。



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