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第八十一話 蟹の親玉

 メルは三人を包んでいる網を丁寧にほどくと、俺にした時と同様の凄まじい勢いの土下座をはじめた。


「本当に……この度は……も、申し訳ございませんでした~!!」

「はぁっ……。別にいいけど、私たちから奪ったクリスタルオーブは返しなさいよ」


 アリサが眉を釣り上げてメルに詰め寄る。

 苦笑いを浮かべながらメルは両手を前に出して五個のクリスタルオーブを手渡した。


「おー、五個もクリスタルオーブ見つけてたんだ。凄いじゃないか」


 俺が褒めたのに気をよくしたのか、ローザは嬉しそうに腰に手を当てて胸を張る。


「あら、ユート君わたしに惚れ直しちゃったかしら? ローザさん調べによると、どうやらクマラヤン岬の奥に行けば行くほどクリスタルオーブの結晶が多くなってるみたいね。今頃アデル君たちはもっと集めてるかもしれないわよ」


 アデルとエルは既にクマラヤン岬の最深部までたどり着いているに違いない。

 クリスタルオーブが全部刈り取られる前に早くそちらに向かわなくてはいけないな。


「よし、馬に乗って出発しよう! メルはローザの後ろにでも乗ってくれ」


 この提案にメルは驚いたようで、目を真ん丸にしている。


「えっ!? いいんですか? 私も連れて行ってもらって」

「――? メルを一人だけおいて行ったら危ないだろ? サタンの持続時間だって一時間しかないんだから」


 あぶみに足をかけ手綱を握ったところで、後ろからむぎゅっと柔らかい感触が背中を伝わった。

 メルが俺の後ろに乗って抱きついてきたのだ。


「ユートさんだ~い好き! 本気で好きになっちゃいましたよ、わたし!」

「お、おい! メル!? ローザの後ろに乗れって言っただろ!?」

「いいじゃないですか~。さぁさぁ出発です!」

「まったく、調子のいいやつだな……」

「そうですわ、反省の色が全く見られないですの!」


 メルの様子にエリーは明らかに苛立っている。

 捕まえられてクリスタルオーブも奪われていたとなると当然か。


「気持ちはわかるけどここで説教してる時間はないから、とりあえず行こう」

「わかったですの……」


 エリーは納得いかないと言った表情をしつつも渋々了解してくれた。



――――――――――――――――――――



「お、あれはファフニールじゃないか。意外と早く追いつけたな」


 エリーとのいざこざがあった場所から十分もしないうちに大きな翼竜の姿が見えた。


「アデル~! そこにいるのか~!」


 大きな声を出して呼んでみると、アデルの声が返ってきた。


「ユート! 丁度良いところに来てくれた、ちょっとこっちへ来てくれ」


 何やら困った様子のアデル。

 指示に従い近くまで行くと、その原因がはっきりとわかった。


 百匹は優に超える数のジャイアントクラブが徘徊していたのだ。


「これはやばいな……でもその前に俺達に言うことがあるんじゃないか?」

「……何の事だい?」


 さすがにさっきメルにされたことを黙ってはいられないので問い詰めることにした。


「メルを使って俺たちを足止めしたことだよ」

「メルには少し前の地点でクリスタルオーブを集めるように言っていただけなんだが……」

「えっ!? メルから聞いた話と違うぞ!?」


 後ろに座っているメルのほうを振り返ると、彼女は目をそらしてかすれた口笛をふかし始めた。


「しらばっくれるな! さては夕飯抜きにするだとかなんだとかの話も嘘だな?」

「な、なんのことですかね~? それより早く目の前のジャイアントクラブを私達のイフリートで一網打尽にしちゃいましょう♪」

「……その声はメル!? ユートの後ろに座っていたのはメルだったのか。ユート、何があったのか聞かせてもらえるか?」


 事の顛末を説明すると、アデルは心底申し訳なさそうに謝罪してきた。


「本当にすまない、戻ったらギルド全員で正式に謝罪させてくれ」

「いや、そこまでしてもらわなくてもいいよ。メルをちゃんと反省させてやってくれな」


 その様子を見ていた双子の姉のエルは無表情でぼそっと呟いた。


「大丈夫、わたしがしっかりメルのことを調教しておくから」


 調教って、いったい何をするつもりなんだ……。

 アデルのギルドはとんでもない双子を招き入れてしまったのかもしれない。


「まあメルの話はここで一旦終わりにして、このジャイアントクラブの大群をどう打破するか考えなくちゃな。さっきメルが言っていたようにイフリートで片付ける作戦でいけるかな?」

「――ちょっと待った! その作戦は問題有り!」


 どこから話を聞いていたのか、いつの間にかローザが馬を止めて横に立っていた。


「ジャイアントクラブの異常なまでの大群が現れるとそれはジャイアントクラブの王様、ジャイアントクラブキング出現の兆候よ。……ジャイアントクラブキングは装甲が他のジャイアントクラブと比べてとても硬くて分厚いので、イフリートの炎をもってしても倒せないらしいわ。だから迂闊に群れを刺激しないほうがいいわね」

「じゃあどうしたらいいんだ? 流石に攻撃もせずに群れの中に飛び込んで探索を始めたら餌にしてくださいといっているようなものだし……」


 せっかくここまで来て撤退するのは癪だ。

 すがるような思いでローザに解決策を聞いてみたが、返ってきた言葉は残念なものだった。


「どうしようもないわね……。ジャイアントクラブキングに殺された冒険者もいるくらいには危険なの。見つけた場合には撤退、それが基本よ。レアモンスターなので普通は会わないんだけど、運がなかったわね」

「……仕方ないな。撤退しよう、クリスタルオーブも多少は手に入ったしここらが潮時だな」

「――ちょっと待った! 撤退する必要はないですよ!」


 みんなに叱られて大人しくなっていたメルが急に手を挙げて宣言した。


「みなさんわたしの最強召喚サタンをお忘れじゃないですか!? ジャイアントクラブが百匹居ても千匹いても同じです! 刺激しないで進むことなんてわたしにかかれば朝飯前ですから! さっきの罪滅ぼしをここでさせてください!」

「メルちゃん? わかっているとは思うけど、ジャイアントクラブキング程の大物にサタンは効かないわよ?」

「わかってます、ローザさん! サタンにも限界があるってことは。でも周りのジャイアントクラブを全部操ればどうにだってできますから!」


 確かにメルの言うとおりかもしれない。

 いくらジャイアントクラブキングが強くても、数の力で圧倒できるはずだ。


「よし、その作戦乗った! ただ、危険なことには変わりないので探索するのは俺とアデル、それにメルの少数精鋭でいこう。報酬はギルド単位で半分個な」

「……わたしは空から援護する、もし危なかったら助け出すから」


 ファフニールの頭を撫でながら、エルは自信ありげに言った。


「うん、これで作戦は決まりだ」


 うちのギルドメンバーは皆不安そうにしてはいるが、異存はないようだ。


「それじゃあ日が暮れる前に行くとしますか! メル、頼んだぞ」

「任せてください! サタンの力を思う存分見せつけてあげますからね!」


 メルの力強い言葉と共にアデルチームとの共同探索が始まった。

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