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第七十五話 冤罪

 ――チリリリィィン


 辺りはもう真っ暗になった頃に、俺たちが帰宅したことを告げるベルがなる。


「ユート、その他三名帰ったぞー」

「なにその他にまとめちゃってくれてるのよ」


 間髪入れずにアリサの突っ込みが飛ぶ。

 こういうジョークに付き合ってくれるはアリサの良いところの一つだと思う。


「あら、ユート君達遅かったわね。サモンランドは楽しかった?」


 ロビーのソファーに座って一人で紅茶を飲んでいたローザが俺たちの方を見て言った。


「勿論限界まで楽しんできたぜ! そっちはどうだった?」


 ローザはティーカップに紅茶を追加してスプーンでかき混ぜながら答える。


「う~ん。特に進展はないかなぁ。仮説はたってきているんだけど」

「仮説だって? どんな仮説だ?」

「――妖虫よ」

「ようちゅう? 芋虫とかの事か?」


 ローザは『はぁっ』と一回ため息をついてから紙に文字を書いて見せた。


「ユート君が言っているのは幼虫(・・)。わたしが言っているのは妖虫(・・)という召喚よ。シャッガイからの昆虫とかシャンとか言われたりもするわね」


「で、その妖虫ってのはどんな召喚なんだ?」


「対象の人やモンスターの同意があればそれらを操ることが出来るっていう、とても変わった加護を持っているわ。これを利用して今回のフェニックスを操った別の人物がいるんじゃないかって言う話が出てきているの」


「ふ~ん。でもそれはおかしいな。だってフェニックスの召喚士は妖虫について知っている様子はなかったし、召喚を発動した瞬間に意識が途切れたとか言っていなかったか? 操られることを同意していたようには思えないんだが」


 俺とローザは向かい合って意見を交わしている。

 議論に夢中でローザのティーカップの紅茶はほとんど減っていない。


「そこなのよね。わからないのは。……やっぱりフェニックスの召喚士の虚言かなぁ」


 そう言って、ローザは部屋の天井を見つめて固まってしまった。彼女は今日のゴタゴタで疲れているみたいだ。


「フェニックス騒動で一日中振り回されてるだけに、ローザはお疲れモードだな。今日は俺が飯でも作ろうか――待てよ、ちょっと思いついたんだけど」


 俺の頭に電球が灯ったように一つの考えが閃いた。


「その妖虫なんだけどさ、最終開放されてたら効果が変わるんじゃないか?」


「そうね、多分変わるでしょうね。でもどう変わるかは知られていないわ。最終開放の加護が判明している召喚なんていうのは半分くらいしかないのよ。……それに妖虫はSランク召喚よ。ヘルヘイムがつぶれた今、最終開放できている人がいるとは思えないわね」


「オーブの値段は最近高止まりだもんな。よっぽどの金持ちで、かつ世界各地を回れるような人じゃないと高ランク召喚の最終開放はきついよな。――まあ俺はやってやったけど」


 俺は得意げに最後の言葉を付け加えた。


「オーディンの時の話かぁ。あれは凄かったわね~。あんなにざわついた教会はもう二度と見ることが出来ないでしょうね」


 昔の思い出話で盛り上がる、俺たちにとっては出会いの日でも会ったわけだから感慨深い。


「とりあえず、操られていたという決定的な証拠がない限りはフェニックスのオーブを没収する形で彼を処分するわ」


「犯人と決めてかける処分にしては随分と甘いな」


「うーんとね、フェニックスはサモンランドの目玉商品。それを契約期間中に放棄することになると損害額が凄いのよ。それが賠償命令として全部あの召喚士に行くわけだから社会的制裁としては十分すぎるくらいなのよ」


 ふーん、てことはあのフェニックスの召喚士の人生は可哀そうなことになるんだな。


「教会って結構えぐいよなぁ……」


 自分で暴走させたなら自業自得だけど、冤罪の可能性があるのでなんか釈然としない。


 調査してあの男が無実かどうかを証明してみせたいな。



――――――――――――――――――――



 ローザから情報を聞き終わった後は、みんなそれぞれ部屋に戻っていった。


 俺はというと尿意が催していたので家のトイレに向かい、そのドアノブに手をかけたのだが……


 ――ボロッ


 根元が腐っていたようで、ドアノブが崩れ落ちてしまった。メイルシュトロムの奴に水浸しにされた影響だな……。(※五十八話~五十九話参照)


 このままじゃトイレのドアが開けられずに漏らしてしまう。この年にしてトイレの前でおもらしとあってはギルドマスターの威厳もくそもなくなってしまう。いや、元々威厳がないような気がするのは置いといて。


 限界ぎりぎりまでトイレを我慢していたため、膀胱はパンパンで痛いくらいだ。これ以上我慢するのも難しい。


 ――格なる上は、扉を破壊するしかない!!


 不幸中の幸いで、家全体が水による腐敗で脆くなっているため、フェニックス戦でオーディンを使ってしまった今の状態でも簡単にドアを蹴破ることが出来るだろう。


 俺は床を目いっぱい踏みしめて力を溜めてからトイレのドア目掛けて渾身の蹴りを繰り出した。


 ――バターーーン


 蹴りの衝撃で蝶番ちょうつがいが吹き飛んだようで、扉が手前に向かって倒れてきた。


「うおっ、アブね」


 俺は軽やかにバックステップを交わすことで扉の直撃を受けることなくすんだのだが……


「いやあぁぁぁ! なんてことするのよ!」


 さやかの悲鳴が家中に響き渡る。

 トイレの中にはスカートを下ろして椅子に座っているさやかがいた。


「ちょっと待て、待ってください! 中にいるなんて知らなかったんだよ、すまん!」

「鍵をかけてたんだから中に誰かいるなんて明らかじゃないの! それを蹴破って覗き見ようなんて見損なったわ!」


 さやかは小用の最中なので立ち上がることもできずに、大声で怒鳴り散らした。

 羞恥と怒りが合わさって、顔はゆでだこのように真っ赤に染まっている。


「違うんださやか、ドアノブが壊れてたから鍵がかかってるかどうかなんてわからなかったんだよ!」

「――いいからもうこっち見ないで!」


 俺は慌てて顔を背けた。


「なにっ! なにがあったの!? もしかしてまた透明のスライムでも現れた!?」


 さやかの悲鳴を聞きつけたのか、アリサがトイレの方にやってきた。

 その他の面々も『なんだ、なんだ』と言った様子でこちらに駆けてきた。


 そしてトイレの前にたどり着いた彼女らに映った絵面は、トイレに座っているさやかと、そのドアを蹴破って突っ立っている俺の姿だ。まずい、まずすぎる。


「あのー、皆さま。これはですね……。――うっ、もう限界だ。さやか! 終わったならすぐにトイレ変わってくれ。――後で、後で釈明するからなにとぞ!」


 女性陣みんなからの冷たい視線を受けていても、俺の膀胱が限界なのは変わらない。


 その後なんとかギリギリで漏らさずにすんだのだが、要らぬ誤解を招くことになってしまったのであった。

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