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第六十八話 決着

『ユート、聞こえるか? 首尾はどうだ?』


 ミルドレッドからの通信が入った。

 俺はボスと向き合いながら、ミルドレッドに返答する。


『ただいまボスと接触中。ボスの居る部屋は入り口から一番左奥の部屋だ』

『わかった。すぐに向かうので時間を稼いでくれ』


 ミルドレッドの通信はそこで終わった。


「リギル、なにをボーっとしている。余の元へ参れ」

「は! し、失礼いたしました」


 近くに寄れだって? 一体何をするつもりなんだ?


「リギルよ、余はお主の事を高く買っておる。高い忠誠心に高い能力……もっとも能力の方は余が緑のオーブをたくさん与えたからではあるが――そして一番大事なのはその美しい顔。儚げですぐに消えてしまいそうなその表情が余の心をくすぐるのじゃ」


 急に何を言い出すんだ!? どう反応したらいいんだろう。リギルとしてはついさっきまでは野太い声の男のボスをイメージしていたはずだから……。


「た、大変光栄です。まさかボスからそのような言葉を頂けるとは……」


 困惑していると、ボスは俺の右手を取ってそっと口づけた。


「――――!! ボスっ!?」

「……嫌じゃったか? 余はリギルを婿に迎えたいと考えているのだが」


 ――これはもしかして愛の告白!?

 そんな大事な場面に俺は立ち会ってるのか。

 しかし告白している相手はリギルではなく俺、いくら敵とはいえそれはあまりにも不憫だ。


「別に嫌という訳ではありません――でもそういうことは本人に言うべきです」

「――むっ!?」


 その時、アジトの入り口と裏口の二か所から爆発音と思われる大きな音が鳴り響いた。

 ミルドレッド達が突入を始めたのだろう。


「――リギルよ、裏切ったのか!?」


 まだ自体が把握できていないボスは慌てて召喚を行う。


 現れたのはティンダロスの猟犬。

 ここから逃げ出す気満々の召喚だ。


「リギルの名誉にかけて言っておくと裏切ったのではないよ。俺が彼の姿に化けてるのさ」


 俺は今まで演技でおどおどした表情をしていたが、一転してニタリと笑みを浮かべる。


「――貴様、何奴じゃ!! 出ていけ!」


 不思議な事に、ボスは逃げようとしているにも関わらず俺にも出て行けと言う。


「俺は出て行かないし、あんたも逃がさない。――くらえ、エンリル!!」

「ぐぅ……!?」


 リギルのエンリルとは比較にならない程の弱さの竜巻だが、ボスの隙を生むには十分だった。

 俺は即座にボスのか細い腕を掴み取り、彼女の体の後ろにその腕を回して絡めとった。


 それと同時に部屋のドアが開きミルドレッド含む四名が入ってきた。


「へぇ、ヘルヘイムのボスがこんなに可憐なお嬢ちゃんだったとは意外だな。組織をまとめ上げるのは大変だっただろう? 今までご苦労さん。……でも君がやったことは悪いことだ、お縄についてもらうよ」


 ミルドレッドが冷酷な表情でそう告げる。

 彼女は飄々としているが、やるときはやる女だ。


「くぅ……。ここまでか。――リギルは、リギルはどうなったのじゃ?」


 ボスは不安そうな目でミルドレッドを見つめる。


「奴なら無事だ。一緒にグランノーヴィルまで連行するよ。それより、盗んだオーブの在処を教えろ」

「…………」

「しらばっくれても無駄だぞ。言わないなら吐かせるまでだ」

「……拷問など余にはきかぬ」

「ふぅん、それじゃあヘルヘイムのお仲間のリギルといったっけ? 彼に代わりに吐いてもらうよ」


 この一瞬のやり取りでミルドレッドはボスがリギルに入れ込んでいることを見抜いたようだ。さすがである。


「……や、やめるのじゃ。オーブの場所なら言う、言うからもうやめるのじゃ」


 蚊の鳴くような声でボスは言った。



――――――――――――――――――――



 その後ボスの供述により、オーブはこのログハウスの地下室に大量に保管してあることが分かった。


「これでヘルヘイムの件はようやく終了だな。ユート、エリー、アデル、エリシア、四名ともご苦労だった」

「ミルドレッド、帰るまでが遠足だろ? まだ油断するなよ」

「……遠足ってなんだ? でも確かに帰りも油断はできないか。良い事を言うなユート」


 前にアリサにも遠足という言葉が通じなかったのを思い出した。この世界に学校ってないのだろうか。


「今日はもうエリシアのシルフが持たないから、一旦セレナード大陸の教会で宿泊するぞ。ユートとエリーとエリシアは地下室のオーブを回収しておいてくれ。アデルと私はボスとリギルの見張りをしておくから」


「「了解!」」


 オーブの回収を命じられた俺含む三人は地下室への隠し扉を開けて降りて行った。



――――――――――――――――――――



 地下室に置いてあるオーブの量はそれはもうとんでもない量だった。しかもオーブの質も良い。

 十連ガチャができる虹のオーブがざっと見ただけで十個以上もあった。


「これだけの量、もしガチャれたらどんなに幸せだろう」

「ダメですわユート。これは盗まれたものだから持ち主の元に返すだけですの」

「……わかってるって」


 俺は渋々と袋にオーブを詰めていく。さやかに虹のオーブを奢る約束をしてるから、俺が次に十連を回せるのはまだまだ先になりそうだ。

 でもこれだけの数の虹のオーブが出回れば、いつかきっと買うことが出来るだろう。


「……また冒険生活をして金を稼ごう」


 俺は再び心に決めたのであった。

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