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第六十六話 脅迫

「よくもこんな痛い思いをさせてくれたなぁ!」


 全身の痛みに耐えながら今回のダイブの原因を作った敵を見据える。


「ち、近寄るなオーディン使い! 近づいたら気球を風圧でバラバラにす、するぞ……」


 敵は中性的な顔の美形だが気弱そうな男で、明らかに俺が地上に降りてきたことに動揺している。

 本当にバラバラにできる程の召喚を使ってるのか確認してみよう。俺はルーペを覗き込む。



『Sランク召喚獣 エンリル』 ●●●●●

バビロニアの三大主人であり風の王。

嵐を司る神であり性格も嵐のように獰猛であった。

エンリルは人間を嫌っており、

滅ぼすために天変地異を巻き起こしたが

父親であるエアに阻止されてしまった。

エンリルの加護を受けたものは、強力な竜巻を起こすことができるようになる。

【召喚持続時間:一時間】



「この召喚……風のエリート召喚士か!? いよいよ敵の本拠地に来たって実感がわいてきたぜ」


「お、おれが風のエリート召喚士だとわかっても動揺しないだと……。さっきもいったが一歩でも動いたら気球をバラバラにしてやるからな!」


 敵はじりじりと俺から距離を取るように後ずさりながら脅し文句を言ってきている。


「おっと勘違いするなよ。あんたは脅迫できる立場ではなくされる側(・・・・)なんだよ。今俺とあんたの距離は十メートル程度、オーディン発動中の俺にとってはこの距離はあってないようなもの。あんたは喉元にナイフを突きつけられていると思ったほうがいいぞ」

「く、来るな! 本当にバラバラにするぞ!」

「くどいな、取りあえず気球を解放しろ」

「ヒッ、ヒィ」


 俺が逆に脅迫をしかけると敵はビビッて上ずった声を上げる。


「……お、おれは風のエリート召喚士。降伏するなんてことになったらボスに合わせる顔がない。やるしかないんだ……やるしか」


 敵はまるで自分に言い聞かせるかのようにぶつぶつと独り言を言っている。


「――うあああぁぁぁぁ! シルフ!」


 突然敵はシルフを召喚して俺に向かって風を飛ばしてきた。しかしシルフの風はアリサと戦った時に問題ないことは証明済み、別段問題はない。


「く、くそっ! くそっ! なんでこの風でも吹っ飛ばないんだ! ……こうなったら」


 今度は気球をターゲットとしていたエンリルの竜巻の軌道を変更し、俺に向けてきた。

 エンリルの竜巻は予想以上に強く、俺は上空に飛ばされそうになる。


「――さすがにこれはきついな」


 俺は飛ばされまいとして四つん這いの姿勢になって地面にしがみついた。


「――オ、オーディン使い! こ、これが最後の警告だ! 俺にはもう一つかまいたちという強力な召喚がある! できれば使いたくはなかったが、身動きの取れない今のお前は切り刻まれて死ぬことに……なるぞ!」


 敵は必死の形相で俺に向かって叫んでいる。


「あんた、本当はいいやつだろ。何も言わずにそのかまいたちってやつを使えば決着がつくのに――まるで俺の事を心配してくれているように見えるぜ。……お礼に俺からも一つ教えてやるよ。オーディンを使っている俺にとっては、実はこんな竜巻へっちゃら(・・・・・)だってことをな」


 俺はそう言って四つん這いの姿勢から短距離走の選手がやるようなクラウチングスタートのポーズをとった。


「こ、こっちに来るつもりか! や、やめろぉぉぉ!」


 しかし本当の所、エンリルの竜巻を突破して敵に一瞬で近づけるほどの脚力が俺にあるわけではない。

 故に俺は相手の元に行くと見せかけてサルガタナスを召喚して姿を消した。


「――き、消えただと! 見えないほどのスピードなのか!」


 敵は俺が一瞬で移動したと勘違いして周囲をぐるぐると見まわしている。


「どこだ! どこに行った!」


 そうだ、もっと焦ろ。焦ってくれ。

 時間さえ稼げればいいのだから。


「こ、こいつらを取り逃がしたとなったらおれはボスに殺されてしまう。な、なんとかしないと」

「安心しなさいリギル。ボスはわたくしたちが責任をもって捕まえて差し上げますわ」


 エリーの声が後ろから聞こえる。

 なんとかバレる前に間に合ってくれたようだ。


 リギルと呼ばれた風のエリート召喚士はエリーのほうに振り向いた。


「そ、その声は! ――うっ、動けない」


 エリーは既にメドゥーサを発動しており、目が合ったリギルは動きを止められてしまう。


「エリー、助かったぜ。エリート召喚士はどいつもこいつも強くって困るぜ」


 俺はサルガタナスを解除して姿を現した。

 それを見たリギルは落胆の表情を見せる。


「――なっ!? オーディン使いは姿を消して隠れていただけだったのか……。そんなことにも気付かないとは、なんておれは馬鹿なんだ」


「リギル……。ボスの小間使いでしかなかったあなたがエリート召喚士になったなんて驚きですの。ボスへの忠誠心が厚かったからかしら?」


「や、闇シスターのエリーめ。……教会に寝返っていたなんて」


 リギルは恨みがましそうに呟いた。


「わたくしは元々教会の人間ですの。裏切りなんて人聞きが悪いですわ」

「いや、十分裏切りだろ。ただ単に二回裏切っただけで」

「正義の心を取り戻しただけですの」


 俺が突っ込みを入れてもエリーは動じない。


「よくやったぞユート。五点着地を使ったとしても五十メートルは無理があるんだけど、お前ならできると信じてたよ」


 ミルドレッドは俺をねぎらいつつもさらっととんでもないことを言った。


「――ちょっ!? 無理があるとわかってて俺に飛び降りるように言ったのかよ、酷い上司だな。落ちた時めっちゃ痛かったんだからな!」


「ははっ。あのまま放置してたら全員落下してたんだから許してくれ。オーディンの加護ってやっぱり凄いな」


 ミルドレッドはニカっと笑って言った。


「……全く他人ごとだからって。でもこれでエリート召喚士は全員倒したし、後はボスとか言われてるやつを倒すだけだな」


「そういうことだ。――ユート、少し休憩したらリギルに変身してボスを外に連れ出してくれ。立て続けに仕事を与えて悪いな」


「わかってるって。上手くやるよ」


 ついにケリドウェンを使った潜入任務の始まりだ。

 緊張するけど失敗しないように頑張ろう。

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