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第六十二話 ナイトパーティー

「ただいまー」


 アリサとの買い物が終わって家に着いたので挨拶をする。

 ちなみにアリサは俺と一緒に帰るのを見られたら嫌だとかで、先に家に帰っている。


「おかえりなさい、遅かったわね」


 手にミトンをつけたローザが出迎えてくれた。

 ロビーのほうからはグラタンのいい香りがするので、料理中だったのだろう。


「ちょっと店が混んでてな」


「今日はアリサちゃんとレイチェルちゃんも買い物に行ってたのよね、セール中だからかしら? お店は大繁盛ね」


「そうだな、そうとう儲かってると思うぞ」


 アリサとは一緒に買い物に行ったんだけどな。

 アリサに怒られるかもしれないからこの事は言わないでおこう。


「それで、アリサとレイチェルはもう家にいるのか?」

「アリサちゃんは帰ってきたけどレイチェルちゃんはまだよ」

「そっか。取りあえず俺は部屋に荷物を置いてくるな」


 俺は部屋に入ると袋に包まれたジャックフロスト抱き枕を置き、それと入れ替えでプレゼント交換用のアロマオイルとハンドクリームの包みを手にもってロビーへと戻った。


 調理場の方を見ると、ローザとエリーがケーキにトッピングをしていた。料理はそろそろ完成しそうである。


「もう料理ができるから、ユート君みんなを呼んできてもらえる?」

「了解! それにしてもレイチェルは一体どこまで行ってるんだ……」

「そうね、あまり遅いと心配だわ」


 ローザは手についたクリームをペロッと舐めながら困ったような表情をしている。


「みんな集まってもまだ来ないようなら、俺がちょっと探しに行ってくるよ」


 俺は取りあえず部屋に居る人を呼びに行き、ロビーにはレイチェルを除く全員が集まった。


「うーん、帰ってこないかぁ。……なにか事件に巻き込まれたのかもしれない、探してくる!」


 俺が玄関のドアに手をかけて開けようとしたその時、独りでにドアが開いた。


 ドアの向こうにはレイチェルの姿が見える。なんだ、外側からレイチェルが開けたのか。


「お、ユートであるか。ただいまなのである」

「遅いぞレイチェル、どこ行ってたんだよ」

「オーブフェスタ限定のウィル・オ・ウィスプグッズを買いに行ったのだが、凄く並んでいてな。でも買えたのである! これはとてもいいものであろう?」


 レイチェルは得意そうに買ってきたものを俺に見せる。

 ガラスの中にウィル・オ・ウィスプを模した物がいくつもキラキラと輝いて動いている。恐らくスノードームと同じような仕組みだろう。


「確かにこれは凄いな」

「そうであろう、そうであろう」

「でもみんなを待たせたんだから一応謝っておくといいぞ」

「うむ……、すまなかったのである」


 レイチェルは鼻高々といった様子から、一転してしょぼくれた顔をした。


「あ、俺は別に気にしてないから。そもそも帰ってきたのついさっきだしな」

「ふむ、そういえばそうであったな」


 レイチェルはそのままロビーに歩いて行って皆に謝っている。『そういえばそうであったな』ってどういうことだ? さっきまで俺と一緒にいたわけでもないしなんか引っ掛かるな。でもまあいっか……これでようやく全員揃ったし、オーブフェスタ本番の始まりだ。



――――――――――――――――――――



「それでは、はじめるわよ! オーブに幸あれ、かんぱ~い!」


 ローザが乾杯の音頭を取ると、みんなで酒やジュースの入ったグラスをコチンと合わせる。

 そして俺は並べられた料理をガツガツと食べ始めた。


「ユート君凄い食べっぷりね~! 朝殴られて倒れてた人には見えないわ」

「いや、今日の戦いはまじでやばかったよ。てか今も後遺症あるしな。あ、俺じゃなくて家にな」


 メイルシュトロムに水浸しにされてしまった家はとてもしけっぽくなってしまっていた。


「まあまあ、そこは今度のリフォームまで我慢よ。エリーとさやかちゃんの部屋も作れるしいい機会と考えましょう」


 ローザが話を通したら、満場一致でリフォームに賛成だったらしい。


「ふむ、部屋であるか……。ユートとアリサの部屋は一緒にしたほうが良いのではないか?」

「――ゴフッ!?」


 レイチェルの唐突な爆弾発言に、俺は頬張っていたグラタンを喉に詰まらせむせてしまった。


「――何言ってるんだよ急に!」

「――何言ってるのよ急に!」


 俺とアリサは声をそろえて言った。


「やはり、息ピッタリであるな。今日ウィル・オ・ウィスプ通りに買い物に行ってるとき、偶然見てしまったのである」


 そう言ってレイチェルが取り出したのは、薄い一枚の手鏡のようなものだった。

 レイチェルがそれに魔力を込めると、ガラス面に俺とアリサが昼間買い物に行っている時の様子が映し出された。


「な、なんだよこれ!?」

「ユートは知らないのであるか? これは映像を記録できる魔鏡なのである。たまたまお主ら二人を見かけたので面白くてつい記録してしまったのである」


 俺たちが買い物に行ってたことがバレてたのか!?


「こ、これはなんですの!? アリサはやけにオシャレをしてますし、今日はオーブフェスタ……そんな日にデートをするということは……」


 そこまで言ってエリーはこの世の終わりを見たような顔をして青ざめる。


「――う、浮気ですのね! ダーリン、見損ないましたわ!」

「いや、ちょっと待て。俺とエリーは別に付き合ってないだろ」

「な、なんですってーー!」


 エリーが悲鳴を上げる。ダーリンって勝手に言ってたけど、もっと前にきっかりと否定してあげるべきだったな。なんか可哀そうだ。


「ちょっとユート! 否定するところそこじゃないでしょ! わたしとあんたが付き合ってるみたいな空気ださないでよ!」


 アリサが体を前のめりにして俺を睨んでくる。


「そ、そうだな……。俺はただアリサの買い物に付き合っただけで――」

「否定しても無駄なのである。シルヴィアよ、ちょっと良いか?」


 レイチェルがシルヴィアになにやら耳打ちをしている。


「……うん……わかった」


 シルヴィアは頷くと、たたっと走ってアリサの部屋に向かった。

 そしてレイチェルも同時に走り出して、彼女は俺の部屋に向かった。


 二人は戻ってくると、それぞれ同じものを抱えている。……あ、あれは、ジャックフロスト抱き枕だ!


「二人でお揃いの抱き枕をオーブフェスタの日に買いに行っていたのである! 言い逃れできないのである!」


 レイチェルはドヤ顔でフフフと笑っている。


「……お姉ちゃん……グッジョブ」


 シルヴィアは姉に向かって親指を立ててポーズをとっている。シルヴィアにしては珍しいリアクションだ。


「ふーん、あなた達そういう関係だったのね」


 さやかが珍しいものを見るような顔をして俺とアリサを一回ずつチラッと見て言った。


 あれ、この流れやばくないか? 俺は勝手に話が進んでいくことに危機感を覚え、アリサに言った。


「――そうだっ! あのチラシを見せてやれば納得してもらえるだろ!」

「ナイス案よユート! みんな、ちょっと待ってなさい!」


 アリサはダッシュで自分の部屋に行くと、今朝俺に見せたチラシを持って戻ってきた。


「ほら、この抱き枕はカップル限定でカップルじゃないと買えないの! だからしかたなくユートを誘ったってわけ! わかったでしょ?」


 アリサは早口でまくし立てると、これで終わったと思ったのかほっと一息ついて席に座った。


「うーん、カップル限定……」


 エリーがボソッと呟いた。どうやらみんなはカップルという言葉に目がいっていて、納得している様子はない。


 これ以上いたずらに話をしても誤解を広げるだけな気がするので俺は話題を変える。


「そ、そんなことよりさ、プレゼント交換しようぜ! みんな準備しているだろ?」

「そ、そうね! それがいいわ! こ、交換しましょう」


 アリサが俺に便乗する。そんなしどろもどろに喋られると余計に誤解が広まりそうで怖いんだが。


「みんな、アリサちゃんが困ってるようだしこれくらいにしてあげましょう」


 ローザが助け舟を出してくれた。


「さすが最年長! 締めるところはしっかり締めてくれる、素敵!」

「あら、ユート君? 最年長は余計だわよ。わたしはもっと追及してもいいのよ」


 ローザの乾いた笑顔が恐ろしい。


「ご、ごめんなさい!」

「わかればよろしい」


 褒めたつもりだったのに……。うーん言葉って難しい。


 俺が恐怖のあまり汗をダラダラ垂らしてる横で、みんなはプレゼント交換の準備を始めだした。


 何はともあれ、アリサと俺の熱愛疑惑はなんとか見逃してもらえたみたいだ。

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