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第六十一話 特別な日

 家のロビーのソファーに座って落ち着きなく貧乏ゆすりをしていると、通り掛かったアリサに声を掛けられた。


「あんた何そわそわしてるのよ」

「夜のパーティーが楽しみで待ちきれないんだ。プレゼントも準備したし」

「はぁ……。あんたやっぱり子供ね」


 アリサはいつも通りの呆れ顔でため息をついた。


「まあいいわ、ちょっとわたしの買い物に付き合いなさい」

「えっ、まじか!?」


 俺は驚きで目を丸くした。

 アリサが俺を誘うなんて天変地異の前触れだろうか。


「……行くの? 行かないの?」


 アリサは目を細めて俺を睨んでくる。

 行かないとは言わせない、そんな気構えを感じる。


「勿論行くけど、誘うのは俺だけでいいのか? 今日はみんな家にいるのに」

「いいから、来るなら黙ってついてきなさい!」

「――い、痛いからやめろって」


 アリサはイライラした様子で俺の足を踏みつける。

 機嫌が悪いのか? それにしては妙に気合の入った服装をしている気もするが。


 黒地にレースをあしらったニットのセーター、下は同系色のスカート。首にはネックレスがきらりと輝いている。

 まさによそ行きの格好って感じだ。言い換えるとデートにでも行くかのような……いや、まてよ。


「アリサ、質問なんだけど。オーブフェスタってさ、恋人と過ごす日でもあったりするんじゃないか?」


 ミルドレッドは家族やギルドメンバーと過ごす日だと言っていた。

 しかしクリスマスみたいなものだとしたら、恋人と過ごす日であってもおかしくない。


「なっ、何言ってるのよ馬鹿! 早く出かける準備してきなさいよ! わ、わたしは部屋で待ってるから」


 アリサは耳を真っ赤にすると、部屋に戻ってドアをバタンと閉めてしまった。


 この反応、わかりやすい。

 やっぱり恋人と過ごす日でもあるんだな。



――――――――――――――――――――



 俺は外に行くための支度を終えると、アリサの部屋をノックした。


「お~い、アリサ。準備できたぞ」


 ドアがそーっと開かれてアリサが出てきた。

 そして彼女はロビーの中をキョロキョロ見回した。


「……よし、誰にも見られてないわね」


 小さな声で呟くと、彼女は恥ずかしそうに俺の手を引いて玄関まで連れ出した。


「それでさ、アリサ。どこに買い物に行くんだ?」

「……これよ」


 アリサはポーチからチラシを取り出した。


「えっと、なになに、『カップル限定販売! ジャックフロスト抱き枕』だって。お前これが欲しくて俺を誘ったのかよ」


「そう……悪い? そ、それ以外の意味なんて全然これっぽっちもないんだから勘違いしないことね」


「わ、わかったよ。でもこれ二個のセット販売じゃないか、アリサが二つ買うのか?」


「そうよ、だからあんたはお金の心配はしないで大丈夫。さ、売り切れる前に行くわよ」


 アリサは俺を置いてさっさと歩いて行ってしまう。


「おい、アリサちょっと待ってくれよ」


 俺は慌てて追いかけた。


 ジャックフロスト抱き枕が販売される店は近くの商店街ではなく、ウィル・オ・ウィスプ通りなのでそれなりの距離がある。


 その長い道のりで、イチャイチャしているカップルが嫌というほど目に付いた。


「は~、全くあいつら全員爆発すればいいのに」

「……爆発? あんた何物騒なこと言ってるのよ」

「あ、ごめん。爆発しろって言うのは元の世界では祝福するという意味なんだよ」


 ついいつもの癖で呟いた言葉を取り繕うために嘘をついてしまった。


「ふーん、そうなの。あんたの世界、あんたと同じでちょっとおかしいのね」

「……せめて変わってるとかそのくらいの表現にしてくれよ」


 でもよく考えたら俺たち二人も周りからはカップルのように思われてるんだろうな。


「あれ? あそこにいるのってオーディン使いのユートじゃね? あいつあんなに可愛い彼女がいるのかよ、糞がっ!!」


「オーディンも引けて可愛い彼女も引けてってか? 世の中って本当不平等だよなぁ」


 カップルを冷やかしに来ていた若い男の集団が俺に気付いて愚痴をこぼす。


 そういえば俺って顔が結構割れてるんだったな。

 これもしかしたら変な噂になってしまわないだろうか。

 でもアリサと噂になるなら自慢になるよな。

 元いた世界だったらこんなこと願っても有り得なかった。

 異世界さまさまだな。


「ユート、そろそろ店に着くのでカップルのふりをするわよ」

「――へっ!?」


 アリサは俺の掌をぎゅっと握り俺たちは手をつないだ。


「お前とは一緒に寝たこともあるはずなのに、なんかドキドキするな」

「……誤解を招くような発言はやめてもらえるかしら?」


 アリサは怖い笑顔で俺を見つめる。


「すみません、調子に乗りました」


 アリサと適度にイチャイチャしていると、先の方に長い行列が見えた。


「あそこに並んでる列が多分そうじゃないか?」

「間違いないわね、みんなジャックフロスト抱き枕が欲しくてたまらないって顔をしているわ」


 それってどんな顔だよ、とツッコミを入れる前にアリサは俺を引っ張って走り列に並んだ。


「アリサ? 今更急いだってしょうがないだろ」

「……そうね。でも、もし売り切れてしまったらと思うといても立ってもいられなくって」

「俺よりアリサのほうがよっぽど子供なんじゃ……」


 アリサは無言で俺にゲンコツをした。

 痛いけど、ある意味期待通りの反応をしてくれる。

 うちのギルドでからかうと面白いのはシルヴィアだが、アリサも違った意味でからかい甲斐があるんだよな。


 それから一時間ほど並ぶと、ようやく俺たちが購入できる順番になった。


「お、若くて初々しいカップルだね!」


 店員のお兄さんが、ジャックフロスト抱き枕を二つ抱えて爽やかな笑顔で迎えてくれた。


「ど、どうも。これお代です」


 アリサが四万ソルを支払った。

 人気の抱き枕だからだろうか、結構高いんだな。


「まいど! 末永くお幸せにね!」


 店員のお兄さんに見送られて俺たちは店を出た。


「ユート。はい、これ!」


 アリサは持っていたジャックフロスト抱き枕を一つ俺に向けて差し出した。


「え、家まで運んでくれってことか?」

「違うわよ! 一個あげるって言ってるの」

「なに、いいのか?」

「つ、付き合ってくれたお礼なんだから、黙って受け取りなさいよ!」

「それじゃ遠慮なく。これでお揃いだな」

「もう、あんた本当馬鹿じゃないの? 爆発しなさいよ!」


 耳を真っ赤にして悪態をつくアリサ。


「いいのか? 爆発って俺にとっては祝福って聞こえるんだが」


 ニヤニヤしながら俺はアリサに言った。

 爆発が祝福って言うのは嘘ではあるが、もはや訂正する必要はないだろう、思う存分使ってやるぞ。


「うるさい、馬鹿、死ね!」


 アリサは俺に今日何度目かのゲンコツを食らわせた。

 これは予想通り。本当アリサと一緒にいると退屈しないな。


「アリサ、誘ってくれてサンキューな。それに抱き枕も」


 アリサは俺に返事はせずに、いそいそと家路を進んでいってしまう。


「お~い、待てったら~」


 家に着く頃には丁度パーティーの時間だ。

 それまでの時間をこんなに楽しく過ごせて感謝だぜ、アリサ。

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