表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/81

第五十三話 個人差

 なんとかあれから誰にも合わずに家の前までたどり着くことに成功した。


「……遠回りをした甲斐があったってもんだな」


 とりあえず一安心だがまだ問題は残っている。どうやって俺の部屋に入るかだ。

 いつものように玄関からロビーを経由して入るのはなかなかに危ない。


 アリサやエリーがロビーにいる可能性は高いし、場合によってはローザが戻っててロビーで待ち構えてるってことも考えられる。


 幸いなことに俺の部屋は一階なので、ここは窓から直接俺の部屋に入ってしまおう。不用心ではあったけれど、たしか鍵はかけないで出かけた記憶がある。


「抜き足、差し足、忍び足っと」


 周りに人がいないことを確認して慎重に部屋の窓の近くまで歩いた。すると窓の中から聞こえるはずのない声が聞こえてきた。


「あぁ……。ユート君、ユート君、ユート君!! 好き!」


 ローザの声だ。ローザはひときわ強くパールバティーの魅了を受けているから完全にキャラが崩壊している。


「はぁ……。この枕ユート君の匂いがする! クンカクンカ! 早くユート君を抱きしめてあげたいわ」


 もうどうしようもない。

 俺の部屋にローザが侵入しているのは予想外だったけど、ここで気付けたのは結果オーライだ。

 

 方針を変えてプランBを使うことにしよう。代替プランの概要はこうだ。

 呼び鈴を鳴らさないようにこっそりと玄関からロビーに侵入して、誰もいないことを祈る。

 そして二階にあるシルヴィアかレイチェルの部屋に急いで移動して隠れる。


 ロビーに誰かいると前提から崩れるから問題だけど、最大の問題児ローザが俺の部屋に隔離されているという事実がプランBを実行する俺の決意を固くした。



 ――ガチャリ


 できる限り音を立てずに慎重に玄関を開ける。

 そしてロビーを見ると――――誰もいない! 神は俺を見捨てなかった! ダッシュで二階への階段を上りシルヴィアの部屋の扉を開く、


「あんた、何してんの?」

「ひぃっ!?」


 アリサから声を掛けられ、思わず情けない声を上げてしまった。


「ちょっとシルヴィアに貸してた本を取りに……」

「だからって勝手に人の部屋、しかも女の子の部屋に入るなんて本当デリカシーないわね」


 アリサは呆れまじりのため息をこぼす。


「私が代わりに取ってきてあげるわ。なんて本?」

「いや、やっぱ本はいいや。急を要する物じゃないしな! あはははっ……」


 これはめんどくさいことになった。しかしおかしなことにアリサの様子はいつも通りに見える。


 ――よし、ここは今咄嗟に考えたプランCで行こう!


「アリサ、頼む! しばらくでいいんでお前の部屋に匿ってくれ! 事情は後で話す」


 悲壮感漂う表情で脇目も振らず土下座する俺を見て、アリサはただ事ではないと感じたようだ。


「なによ急に……。変なことしないなら別にいいけど。でもわたしに手を出したら極刑だからね!」


「ありがとうアリサ! アリサのおかげで俺の貞操は守られた!」


「はあっ? 貞操? 馬鹿言ってると入れてあげないわよ。……ほら、こっちにきなさい」


 アリサにグイっと手を引かれて部屋に連れ込まれる。


 アリサの部屋はピンクで統一された部屋の装飾、四大精霊のぬいぐるみ、ハート型の小物、などのもので一杯の女子力抜群のファンシーなところだった。


「そういえばお前、意外と可愛いもの好きだったもんな」


「意外ってなによ、可愛いもの好きで悪かったわね! ちなみに嫌いなものはガサツでデリカシーのないあんたみたいな人よ!」


 アリサは聞かれてもいないのに俺が嫌いだと主張してきた。


「もしかして、パールバティーの効果がもう切れてるのか……?」


 俺はちょっと魔力を込めてパールバティーの姿を顕現させた。まだ効果は続いているようだ。


「なに、その女性の召喚? これがあんたの新召喚ってわけなの?」


「そうだぞ。パールバティーっていってな、異性を魅了する加護があるらしい」


 アリサは口を押えて「なっ!?」と驚いている。この反応、デジャヴである。


「あんた、見損なったわ! そんな召喚で私を惚れさせようだなんて……。馬鹿でスケベで変態だけど、そんなことまでするとは思わなかったわ、最低!」


 アリサは泣きそうな目をしながら俺を両手で押して部屋から追い出そうとしている。


「ち、違うんだアリサ! 誤解だ。このパールバティーはオンオフができない暴走気味の召喚で、一度試しに使ったらずーっと効果が止められなくて困ってるんだよ」


 俺の必死の弁解を聞いてアリサは泣き顔から今度は顔をカーっと真っ赤にして恥ずかしそうにしている。


「え、そうなの。わたしを惚れさせようとしたわけじゃなかったのね……」


 アリサは早とちりしてしまった事に後悔しているようだ。


「いや、でも不思議だよなぁ。なんでアリサには魅了が効いてないんだろう」


 俺の率直な疑問にアリサは同意する。


「確かに、いつもと変わった様子はないわね。そのパールバティーっていうのがそんなに強い効果じゃないんじゃないの?」


「そうなのかな、ローザの変わりようは驚くほどだったけどな」


「ふーん、個人差があるのかもしれないわね。まあいいわ、持続時間が切れるまではここにいていいから。あ、部屋のものに触ったら殺すから覚悟しておきなさい!」


「へいへい、デリカシーなくてガサツな俺でもそのくらいは分かってますよ」


 いつも通りの軽口を叩きあいながらアリサと二人でしばらくの間過ごしたのであった。



――――――――――――――――――――



 そしてついにパールバティーの効果が切れた。


「お、ようやく終わったらしい。助かったよアリサ、サンキューな」


「そ、終わったならとっとと出て行きなさいよ。こっちはあんたの顔を見過ぎて頭が痛くなってきたんだから」


 俺はアリサのツンな態度に苦笑いを浮かべながら部屋を後にした。


 それと同時に一階の俺の部屋からローザがフラフラの足取りで出てきた。


「お、ローザ。なんか辛そうだな。大丈夫か?」

「『大丈夫か?』じゃないわよ! ああ、わたしったらなんてことをしてたのかしら……」


 魅了にかかっているときに行ったことを覚えているようで、ローザは顔を抑えて悶え苦しんでいる。


「それにしてもローザがあそこまで積極的に俺を求めてくるとはな、俺の事好きすぎるだろ」


「あのね、パールバティーの魅了の度合は元々の好感度と相関関係はないという研究結果がでてるのよ。ユート君は変な勘違いしないように!」


「そうなんだ。そいつは残念」


「あ、でもね。研究にはもう一つ結果が出ていてね、例外的に本当に心から好きあっている者同士の場合にはパールバティーの効果は出ないらしいわよ。……お姉さんを落としたいならもう少し頑張る事ね!」


 心の奥が覗かれたようでドキッとしてしまう。好きあっている者同士には効果がないだって? ……そんな馬鹿な、あり得ないだろう。


 俺は頭では否定しつつも、心臓の鼓動が高まっていくのを感じるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ