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第五話 トロール争奪戦

「それにしてもトロールってどこにいるんだろうな?」

「たしかこのダンジョンを道なりに進めば情報屋がいるらしいわ。そこで確認してみましょう」

「了解」


 ダンジョンを歩きながら俺とアリサは次の行動を決定する。


 しばらくの間モンスターを倒しつつ歩いていくと、大きな看板が見えた


『情報屋・初級冒険者を応援します!』


 一目でそれとわかる文句が書かれている。なんだろう、競馬場の予想屋みたいなもんなんだろうか。


「あの、俺たちここに初めてきたんですけど、トロールの場所を教えてもらえませんか?」

「お代さえいただければ勿論お教えするでやんす」


 人間とは思えないほどの小柄な情報屋は髭をさすりながら金銭を要求する。

 俺は無一文なので困ったことになったぞ。これくらいは予想しておくべきだったな。


「……なあ、アリサ。お前が色仕掛けというか、体を売るってことでどうだ?」


 アリサに小声でそういうと、凄まじい勢いで俺の股間が蹴り上げられた。


「ちょっ、まっ……。痛っ……」


 俺は苦悶の表情で耐えている。


「自業自得よ」


 アリサはそっけなく言う。


「仲の良いことで。……ところで、旦那様はひょっとするとこの前異世界から来てオーディンを引いた方ですかい?」

「そうだけど、なにか?」

「それなら旦那とあっしで専属契約を結ぶってことでどうでしょう?」


 情報屋は俺たちに金がないと見るや否や、別の提案をしてきた。


「専属契約? どういうことだ?」


「冒険者と情報屋ってのは密に連携をとるものなんでやんすよ。中級冒険者以降のクラスの冒険者は、旬なダンジョン情報を情報屋から仕入れるってのがこの業界の習わしでして……。その時にちょいとばかしお金をいただくんですがね」


「なるほど。そういうことなら専属契約を結ぶので構わないよ。ただ、相場から著しく離れてる額を請求されたりはしないよね?」


「安心してくだせえ。あっしはそういったところはきっちりしてるんで。もしそこを違えるようなことがあったら首にしてもかまわないでやんす。問題なければここにサインを書いてくだせえ」


 俺はサインを書くと、すぐにトロールの出現場所について尋ねる。


「え? 出現場所ですって? あっしは出現情報について教えるとは言いましたが出現場所まではわかりませんよ」


 俺は顔が青ざめた。もしかしてこいつ……詐欺師なんじゃないだろうな?


「あっしが知っているのは出現時間(・・)でやんす」


「時間だって? ……続けてくれ」


「そう、今から大体二時間後の五時に教会がトロールを放つという確かな情報を掴んだんでやんすよ」


 二時間後か。そうなるとその間にダンジョンを探索してマップは把握しておかないといけないな。


「しかしダンジョンのどこにでるかわからないのに時間だけわかってもな……」


 俺は思わず愚痴をこぼす。すると情報屋はにやりと笑って、


「そう悲観する物でもないでやんす。出現場所は神殿最奥に存在する二つの大広間のうちのどちらかでやんす」

「え、それ出現場所じゃん。なんだ、勿体つけずに教えてくれよ」

「すんまへん、ただそれでもどちらの部屋に出るかまではわからないのでやんす」

「そうなのか、でも良い情報が聞けた。ありがとう、後はなんとかやってみるよ」

「頑張ってくだせえ旦那! 中級冒険者になるのを期待してるでやんす」


 俺たちは情報屋と別れ、神殿の最奥の部屋を目指して歩き始めた。



――――――――――――――――――――



 神殿の奥につくと、情報通り二つの部屋が隣接して存在していた。

 そして中には人・人・人、すごい人だかりができていた。


 この中で一番にトロールを仕留めなくては中級冒険者への道が開けないとなると大変だな。

 しかも二分の一とはいえ、ランダム要素が入っているとなると更に厳しい。


「まあでもここで待機するしかないか。しばらくお話でもしてようぜ」

「呑気なものね、でもこの試練にはそのくらいの心構えが必要なのかもしれないわね」

「……わたし……ユートのお話……聞きたい!」


 俺たち三人は仲良く輪を作って座り込み、しばらくの間たわいもない話をした。


 一時間ほどたっただろうか、その時ダンジョンで先程会った漆黒の剣を装備した鎧の男が再び現れた。


「ユート君、トロール討伐の事情もそろそろわかったろう? 実を言うと、このダンジョンを攻略するには俺のパーティーに入らざるを得ないんだよ」

「どういうことです?」

「ここ一か月のトロール討伐を行ったのは全て俺なんだ。そして中級冒険者に昇格できるのは俺と一緒に組んでいるパーティーメンバーだけ。つまり……君たちは今日、残念ながら失格になるということさ」


 一か月全部先にトロールを見つけて倒しているってことか? 実力も有るんだろうけど、二分の一のくじにも毎回勝ってるってことかよ?


「ちょっと待て、このダンジョンって初級冒険者専用じゃないのか? 何回も倒してるってことはあんたもう初級冒険者じゃないだろ?」


「その通り、俺は上級冒険者のモガディシュだ。俺を好まないやつは《初級荒らしのモガディシュ》とか呼んでるらしい」


 モガディシュはにたっと笑って言った。


「それで、結局お前はなにがしたいんだよ?」

「ふっ、はじめにも言っただろ? ユート、お前を勧誘しに来たんだよ。ギルドに入れば、今日は無理だが明日一緒のパーティーに入れてやる」

「アリサとシルヴィアは?」

「我々は弱い者には興味がないのでな」


 こいつ、俺だけ勧誘して引き抜こうって腹か、元々やり口が気に食わなかったが更に気に食わねえ。


「そうか、それじゃあ……」

「お、入る気になったか? ……歓迎しよう」



「――――断る! お前みたいなおっさんと女の子なら女の子取るに決まってんだろ!」


 俺は部屋中に響くほどの声で思いっきり断ってやった。


「き、貴様! 後悔してもしらんぞ!」


 モガディシュは顔を真っ赤にして俺たちから離れて行った。


「ここまで言ったからには、俺たちで力を合わせてトロールを先にブッ倒そうぜ!」

「ええ、そうね!」

「……うん」


 俺とアリサ、シルヴィアの三人は手を重ねて気合を入れなおした。



――――――――――――――――――――



 そしてついにトロール出現の時刻になった――が、一向にトロールが姿を現す気配はない。


「これ、もしかしてハズレの部屋なんじゃ……」


 アリサが不安そうに言う。


「間違いない、ハズレだ! 隣の部屋までダッシュするしかないな、急ぐぞ!」


 焦る俺たちを尻目にモガディシュが声をかけてくる。


「隣の部屋までの距離は数百メートルはある。俺の能力があれば一瞬だが、お前たちは果たして間に合うかな?」


 なに、モガディシュの召喚は瞬間移動でもできるのか?


 モガディシュの周りには煙のようなものが立ち込め、横には四つ足の不気味な召喚獣が現れた。俺は即座にルーペを取り出し覗き込んだ。



『Sランク召喚獣 ティンダロスの猟犬』 ●〇〇〇〇

"角度"を起源に持つ四つ足の不死の生物。

目をつけた人間を次元の壁を越えて追いかけ、喰い殺すと云われている。

加護を受けたものは九十度以下の鋭角がある場所であれば、どこへでも瞬時に移動することができるようになる。

【召喚持続時間:一時間】



 なに、何て便利な召喚なんだ。これなら隣の部屋でも一瞬で移動できるな。やつにとってはどちらの部屋に出たところで関係ないってことか。


 モガディシュはそのまま煙と共に消えてしまった。おそらく隣の部屋に移動したのだろう。


「アリサ、頼むシルフで俺を思い切り吹き飛ばしてくれ」

「――え!? そんなことしたらあなた体を打ち付けて酷いことになるわ」

「大丈夫だ、それくらい耐えて見せるさ――早く!」


 アリサはぐっと息を飲み込みシルフによる風を巻き起こし、俺を隣の部屋まですっ飛ばした。

 ほとんど風速と変わらないスピードで飛ばされた俺は一秒程度で隣の部屋までたどり着いた。

 しかし、代わりに壁に思い切り体を打ち付けてしまう。


ってえぇぇぇぇぇ!!」


 しかし悶えている時間はない、部屋の中央ではモガディシュが大剣を振りかざし、まさに今トロールに止めを刺す直前だった。


「――おらあああああああ」


 俺はオーディンを召喚し、地面がえぐれるほどの勢いで強く蹴り出してトロールの元に向かう、


「おい! こっちを見ろ!」


 俺は大声でモガディシュに声をかけると、声に気を取られてモガディシュがこっちを振り返った。

 その隙を見て俺はトロールに突撃する。


「これがオーディンを使った全力のただのパンチだーー!!」


 トロールの頭を目掛け放ったそのパンチは、自分でも驚くほどの威力を発揮してトロールの頭は粉々に砕け散り、やがて結晶に変わった。



 部屋は一瞬静寂に包まれ、やがて歓声の渦にまきこまれる。


「す、すげぇ……。あれが例の異界からきた新人か!!」

「あれ見せつけられちゃ諦めるしかねぇ、完敗だ」

「あいつこの部屋にいなかったよな。別の部屋から来たのか? この短時間で!? 嘘だろ」


 いやぁ、なんか照れますなあ。アリサの協力あってこそなんだけどね。


「くそっ、俺を出し抜きやがったな!」


 モガディシュは大剣を地面に叩きつけ怒りを露にする。


「いや、声かけただけですよ。ふふふ」

「許さん! お前はともかく、あの女子供まで中級冒険者にあがるとはなんたることだ」

「ふん、お前みたいな差別主義者が上級冒険者に上がってることの方が問題だろうよ」

「くそ、覚えていろ。いずれかならずこの借りは返す……」


 典型的な雑魚キャラの捨て台詞のような言葉を吐いてモガディシュは煙とともに消えてしまった。

 ティンダロスの猟犬を使ったのだろう。


 しかしみんなに注目される中でオーディンをつかって活躍すると気持ちいいもんだなぁ。

 今夜は気持ちよく眠れそうだ。


 手におさめたトロールの結晶を見つめ、俺は満足気に仲間の元へと戻るのであった。

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