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第三十五話 異端審問機関

「……もうこの教会も見慣れたもんだな」


 俺は一人で教会へと足を運んでいる。いつもはガチャの見学や礼拝の客でそれなりには賑わっているのだが、今日は閑散としている。何故かというと、異端審問機関の集会があるために人払いされているからだ。


 俺は教会の扉の前で立ち止まり、手を伸ばして扉を押し開けた。床と扉がギギィと擦れる音がする。いつもは扉が開いているので少し新鮮な気分だ。


「お、きたきた。期待の新人第二号のご到着だね」


 教壇に立っている黒のライダースーツを着た女性が声を上げると、中にいる十人ほどの人が一斉に俺を見た。……服装がみんなバラバラだけど、この人たちは全員異端審問機関の人なんだろうか?


「やあ、ユート。思った以上に早い再会だったね」


 聞き覚えのある爽やかな声が聞こえてくる、アデルの声だ。


「――アデル!? お前も異端審問機関だったのか!?」


「いや、僕もユートと同じさ。今日初めてここに参加するので、まだ何をするのかも全然わかってないよ」


 そういえば入ってきたときに新人第二号って言われたよな。てことは新人第一号はアデルのことか。


「さ、これで全員集まったね」


 ライダースーツの女性は、紫色のショートヘアーをさっとかきあげて俺とアデルの方を見る。


「私はミルドレッド。一応この機関のリーダーってことになっているよ。もっとも、ここの連中は好き勝手にやってるのばかりだから、私はリーダーという名の雑用係みたいなものだけどね」


 ミルドレッドは自嘲気味に笑った。口ではこう言っているが、佇まいはいかにもできる女といった感じである。


「で、早速なんだけど新入りの二人にうちが何をしているか説明しよう。……二人ともヘルヘイムって組織については神父から聞いてるよね?」


「確かオーブ盗難とかをしている犯罪組織のことだよな?」


 俺が答えるとミルドレッドは手に持っているコインを指の上でくるくる回して頷いた。手癖だろうか? 俺も前の世界では、授業中によくペン回しをしたものだ。


「そのとおり。実を言うとヘルヘイムはこの前君たちが解決したモガディシュの事件にも関わっててね……エリーって覚えてる? あの子はヘルヘイムの幹部のひとりだったんだよ」


「――なんだって!?」


 俺とアデルはそろって声を出した。


「ついでに言うとあの事件があったあと、うちらでオーブの回収に行ったんだけど残っていたのはモガディシュに殺された男の死体だけだったんだ。……多分ヘルヘイムの連中に持っていかれちゃったんだろうね」


 せっかく苦労して取り返したのにまた盗まれたんじゃ、結局市場にオーブは戻らないってことか。俺はショックでうなだれてしまう。それをみてミルドレッドは言った。


「そんなに落ち込む必要はないよ。あの事件ではオーブこそ取り戻せなかったけど、君たちはもっと重要なことを成し遂げてるからね」


「……重要なこと? モガディシュを捕まえたことか?」


 ミルドレッドは首を横に振る。


「そいつは不正解。ほら、さっきも言ったでしょ。エリーはヘルヘイムの幹部だって」


 あ、そうだった。モガディシュじゃなくてエリーのほうか。


「……でもあのエリーが幹部とは、ちょっと信じられないな。確かにメドゥーサは厄介な能力ではあるけど」


 俺の頭には手錠をつけられて子供のように暴れていたエリーの姿が浮かんでいる。


「あの子が幹部になってる理由は簡単さ。シスターだからだよ。神父やシスターってのは貴重でね、なんせ召喚の儀を行えるのは彼らだけだから」


 へぇ……、それは初耳だな。儀式って適当にやってるように見えたからそんな風には全然見えなかった。


「でも代わりとなる神父やシスターだっているんじゃないの? この教会にだって神父とかローザとかいるし」


「確かにいるにはいるけど、それみんな教会に所属してる人でしょ? そういう人はどこに住んでるかとかどんな活動をしてるかとか筒抜けだから、そうそう犯罪に手を染めたりはできないの。……問題なのはエリーのように教会を辞めた者、いや、抜け出した(・・・・・)者だね」


 ……抜け出しただって? 俺は固唾を呑んでミルドレッドの言葉に耳を傾ける。


「その辺でポンポン召喚の儀が行われたら教会としてはたまんないのさ。管理ができなくなるからね。だから、原則教会に所属している神父やシスターは辞めることはできないんだよ。まあそういうわけで、ヘルヘイムはエリーという駒を失ったから盗んだオーブを持て余してるだろうね」


「そっか、それにしてもなんでヘルヘイムって連中はオーブをそんなに集めてるんだ?」


 ミルドレッドはよく気づいたといった顔で俺を指差した。


「いい質問だ。――やつらの目的はズバリ、エリート召喚士(・・・・・・・)を作ることにある」


「……エリート召喚士?」


 また変な単語がでてきたな。エリートっていうからには優秀な召喚士のことなんだろうけど。


「そう、エリート召喚士。定義は簡単さ、Sランク以上の召喚を最終開放させている召喚士のことさ。……ユート、君もそれにあたるわけだね」


 勝手にエリートにされてしまった。まあオーディンをとってからは注目されてばかりだから、いまさら何といわれても驚かないけど。


「といっても最終開放、しかもSランクやSSランクのとなるとそう簡単にできるものじゃない。だからやつらは選択と集中を行ってそれを解決しようとしているんだよ」


 ――選択と集中? 新しい情報が入りすぎてそろそろ話しについていけなくなりそうだ。隣を見るとアデルは下を向いて寝てしまっている。……こいつ、初日から寝るとか大物だな。


「オーブには種類があるだろ? ――答えてみろアデル」


 ミルドレッドは指でコインを弾いて寝ているアデルのほうに向かって飛ばした。


 コインはくるくると回転しながらアデルに向かって直進し、そのままアデルの顔に当たる――かと思われたその瞬間、アデルは下を向いたまま右手を前に伸ばしてコインをキャッチした。


「……赤・青・緑・茶・黒・白・無・虹――これで全部ですよね? ミルドレッドさん」


 アデルは答えると、顔を上げてミルドレッドのほうを見た。


「ちっ……、聞いてるならちゃんと上向いててな? もし聞いてなくて後で知らない言われてもこっちは困っちゃうんだからさ」


 ミルドレッドは頭をかいてやれやれといった表情をしている。


「すみません。今後気をつけます」


 アデルは爽やかに笑って謝った。……笑って謝っているのに嫌味に感じないのはある種の才能だろう。


「で、どこまで説明したっけ? ……あー、選択と集中の話か。やつらは数あるオーブの中でも比較的集めやすい赤・青・緑・茶――火・水・風・土に対応するオーブだな――それら四種類にそれぞれ担当の人物を決めて召喚の儀を行ってるらしいんだよ」


「――つまり、その選ばれた四人の人物をエリート召喚士にするってことですね」


 アデルがミルドレッドの説明を補足するように答えた。


「そういうこと。それで戦力を整えて、裏の世界だけでなく表の世界も牛耳ろうとしてるのがヘルヘイムって組織という話なんだ。そしてうちらはなんとしてもそれを阻止しようって機関なわけ。わかった?」


 俺とアデルは共に頷いた。結構大きな話なんだな、気合入れてかからないとやばそうだ。

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