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第二十九話 潜入

「……お、見えてきたな」


 町を出てから十分ほど歩いたところにそれはあった。モガディシュのギルドのホームポイントである。俺たちのギルドとは異なり、家と言うよりは要塞と言うのがふさわしい風貌だ。


「……こんな町はずれにホームポイントを設定するなんて、なんというか……物好きね」


 アリサは額の汗を手で拭いながら言った。


「……ここは各地のダンジョンに向かうのに便利な立地なのさ。だけど、人が住むには不便でね……君たちのギルドとは違って、ここに住んでいるのはモガディシュただ一人さ」


 アデルはみんなに解説した。ここら一帯には草木が生い茂り、所々に岩が見え隠れしている。……確かにここで暮らすとなるとかなり不便そうだ。


「――よし、ここからは僕とユートだけで行こう。君らはここに待機して、僕たちがモガディシュを捕まえてきたら連行するのを手伝ってくれ」


 アデルは俺以外のみんなのほうを向いて言った。


「……ユート……きをつけて……」


 シルヴィアは不安そうに言った。


「――大丈夫さ。早いとこ片付けて、終わったらまた買い物にでも行こうな」


 俺はシルヴィアの帽子の上に手をのせてくしゃくしゃっと頭を撫でた。


「――しっかりね! 捕まえてきてくれればわたしたちがその後のことはするから、安心して暴れてきなさい!」


 ローザは腕を手前にぐっと曲げてガッツポーズをとって言った。


「任せとけ! それじゃあ行ってくるぜ!」


 俺はみんなに軽く手を振ってから、モガディシュのいるギルドへと歩き出した。



――――――――――――――――――――



 俺たちがギルドの入り口にたどり着くと、アデルは周りをキョロキョロと見まわした。


「……ユート、今なら周りに人がいないから姿を消すチャンスだ。……できるかい?」


「――いけるぜ、いいんだな?」


「――ああ、頼む!」


「了解! ――サルガタナス!!」


 サルガタナスを召喚すると、以前呼び出した時と同じように俺の姿が背景と同化していった。


「……ははっ! こいつは凄いや! これなら確かに見つからないな」


 アデルはまるで子供が新しいおもちゃを貰った時のように嬉しそうに言った。


「とりあえず今からギルド内に入るけど、僕が合図するまではそばを離れないでくれよ」


「……わかってる。大丈夫だ」


 俺は姿を消したままアデルに返事をする。はたから見ると、アデルは姿の見えないお化けとでもしゃべっているように見えただろう。


「――それじゃ、扉を開けるから。……次会話をするのは、モガティシュを捕えた後だね」


 アデルは親指をグッとあげてそう言うと、ギルドの扉を開けて中に入っていった。――俺もアデルの後に続き、ギルドの敷地を跨いだ。


 中に入ると、来客用のソファーが並んでいるのが見えた。入り口にロビーがあるのはどこも変わらないようだ。――アデルが玄関近くのソファーに腰掛けたので、俺は足音を立てないように気を付けながらその横まで歩いて待機した。


 しばらくすると、奥の部屋の扉が開き無精ひげを生やした男が現れた。


「――ん? 誰かと思えばアデルじゃねえか。なんで休日なのにギルドにいやがるんだ?」


 こいつは誰だろう? ……アデルの仲間だろうか?


「……いや、特に何かあるってわけじゃないんですけどね。暇だったから来週以降のスケジュールを確認しにきたんですよ。先輩こそどうしたんですか?」


 アデルは焦る様子をみせずに返事をした。


「……ん、ああ、俺か? 俺はあれだよ、その、お前と同じだよ」


 質問を返されることを予想していなかったのか、男の返事はぎこちない。……こいつも、もしかしたらモガディシュの共犯者かもしれないな。


「……と、とにかく、確認が終わったならさっさと帰りやがれ!」


 男は声を荒げて言う。アデルはそれにも動じず、


「まあまあ、少しくらいはゆっくりさせてくださいよ。――よかったら一緒にお話でもどうですか?」


 そう言うと男に対してソファーに座るように促した。


「……ちっ、お前は本当にマイペースなやつだな。――いいか、俺はこの後ここでもう一つ用事があるんだ! わかったら邪魔しないで大人しく帰れ!」


 男は明らかに苛立っている。――俺の予感は当たっていそうだな。こいつも召喚の儀に立ち会う予定なんだろう。


 ――その時、入り口のドアが開いた。


「わたくし、シスターのエリーと申しますわ。――ここがモガディシュ様のいらっしゃる屋敷で間違いないかしら?」


 教会のシスター服とは違う、白いデザインのシスター服を着た育ちの良さそうな金髪の女性が入ってきた。俺は自分の姿が消えているのをいいことに、顔や胸を凝視してしまう。……これまた凄い美人だな。おっぱいもローザに負けてないくらいあるし、是非ともお近づきになりたい!


 ――はっ! いかんいかん! 明らかにこの人が例の元教会のシスターだろ! 俺はアデルのほうに視線を移すと、アデルが頭を掻いているのが見えた――これは俺に行けという合図だ。


「おう! よく来てくれた! 俺がモガディシュのところまで案内するぜ! ……それにしても、こいつはまた偉い美人じゃねえか、ゲヘヘっ」


 無精ひげの男は下品な笑いを浮かべながらエリーを奥の部屋へと連れていく。――俺も遅れないように後をつけて行った。

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