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第十三話 海底に潜む悪魔

 俺たちは海底洞窟の入り口にたどり着いた。


「本当に沈んでるのね……」


 アリサの声は震えている。事前情報で水中にあるということはわかっていたものの、いざ目の前にすると緊張してしまうのも無理はない。なにせ、これより先は呼吸すらできない暗闇の空間なのだから。


「……お姉ちゃん。大丈夫。……わたしもいるし、テテュスもいる」


 シルヴィアが励ますようにアリサに言った。


「そうだな。召喚がある限り俺たちにとっては水中であろうと宇宙空間であろうと何も問題いさ。――それじゃ、シルヴィア頼む」


 俺はシルヴィアにテテュスを召喚するように促した。


「テテュス……。私たちを――守って……!」


 女神の姿が現れ、俺たちの周りが水のベールに包まれた。

 シャボン玉の中に入っているような感覚だ。


「この中にいれば、水中に入っても問題ないんだよな……? 試しにシルヴィア、進んでみてくれるか?」


 シルヴィアは小さく頷き、洞窟の中へと足を運んだ。


「――水のベールが、海水を弾いている!」


 水が水を弾く。その異様な光景に俺たちは息をのんだ。


 シルヴィアの周りは水中であっても、地上にいるときと同じように呼吸をし、重力を感じることができた。

 これなら洞窟内を泳ぐ必要すらなく、ただ歩いて進めばいい。テテュスの加護があることにより、どれだけ探索が楽になるかは想像に難くない。


「さすがSランク召喚ね! わたしたちもシルヴィアちゃんから離れないように進みましょう」


 ローザとアリサがシルヴィアの後に続く。

 俺も花火が大量に入った袋を抱えて後を追った。



――――――――――――――――――――



「流石に中は暗すぎるな……」


 ここは海底であり、洞窟である。

 光が差し込むはずもない。


「ジャック・オー・ランタン! 出番だ!」


 俺がジャック・オー・ランタンを召喚すると、辺り一面が光り輝きみんなの姿が照らし出された。


「この分だと水着で来る必要なかったんじゃないかしら?」


 アリサがそんなことを言っている間に、目の前を小さなタコが通り抜けていった。


「――あれはタコか?」


 クラーケンと何か関係がありそうだな。


「クラーケンの周りには、たくさんのタコがいるという話を聞いているわ。もしかしたら今のタコは、クラーケンにわたしたちの来訪を知らせる伝令かもしれないわね」


 考え込んでいる様子の俺を見て、ローザが解説してくれた。クラーケンは近いってことだな。


 そのまま真っ直ぐ洞窟を進むと、奥の方から地鳴りのような音が響いてきた。


「――こ、これは!? クラーケンか!?」


 俺が声を上げると同時に、洞窟のわきから一本の触手が勢いよく飛び出しアリサを絡めとるように捕えた。


「きゃっ!? 何!? たすけっ――」


 アリサは一瞬悲鳴を上げるが、すぐに洞窟の奥へと引きづり込まれてしまい声は聞こえなくなってしまった。


「――追うぞ! 俺はオーディンを使って先にアリサを助ける! 二人はこの袋を運んでほしい。そして、機を見計らってクラーケンの口の中に入れてくれ!」


 無茶ぶりなのはわかっている。でも今は他に選択肢がない。早くしないとアリサが危ないのだ。


 俺はオーディンを召喚すると、テテュスの範囲からでることを厭わずに奥に向かって突き進んだ。――頼むっ! 間に合ってくれ!!



――――――――――――――――――――



 洞窟の奥へたどり着くと海底の魔物クラーケンがいた。

 八本の触手は大きくうねりを見せ、そのうちの一本の先端に捕えられたアリサの姿を確認することができた。


(アリサ! 無事か!)


 俺は水の中で声にならない声を上げ、アリサの元へと泳いだ。近くまで来ると、水着がはだけて衰弱したアリサの様子が目に映る。


(今助けてやるからな!)


 俺はアリサを捕えている触手に対し、買ったばかりのナイフで切りつけた。


「――ギシャァァァ」


 気持ちの悪い叫びが聞こえてくる。一応ナイフの攻撃は効いているようだ。

 クラーケンはひるみ、触手を緩める――――今だ!


 俺はアリサを抱きかかえ、後ろにいるシルヴィア達の元へと運んだ。


「――お姉ちゃん大丈夫!?」


 シルヴィアがいつになくはっきりとした声で呼びかける。


「大丈夫よ……。それより早く、あいつをやっつけて……」


 か細い声でアリサは言った。


「――任せておけ! 手筈はさっき言ったとおりだ、俺がクラーケンの注意を引くから、その間に花火を口の中に入れてくれ。口の中に入れるまでは花火を濡らさないように気を付けてくれよ!」


 俺はそう告げると、再び泳いでクラーケンの方に向かう。


 触手の鞭をかわしながら接近してナイフで攻撃してみるが、決定打にはならない。


(やはりナイフじゃだめか。――それなら、これでどうだ!)


 俺はイフリートを召喚し、火の弾丸をクラーケンに打ち込んだ。しかし、無情にも火は一瞬にして消えてしまう。


(水中じゃこうなるよな……。シルヴィア、ローザ! 急いでくれ!)


 俺は触手の猛攻を耐え忍びながら、祈るようにクラーケンの口元を見た。


 そこに見えたのは、シルヴィアが花火の袋をクラーケンの口に入れる瞬間であった。


(でかした!)


 シルヴィア達がクラーケンから離れたのを確認するとすぐに、俺はイフリートによる炎弾をクラーケンの口元目掛けて発射した。


「――――ギィャァァァ――――ィィャァァ」


 燃え盛る炎と共に、クラーケンの悲痛な叫び声が鳴り響く。クラーケンは徐々にしぼんでいき、最後には鈍く光る結晶になった。


(――勝った)


 俺は水の中でガッツポーズを取る。


 水中では火に酸素が供給されないから消えてしまうということを小さいころに教わった。


 しかしある日行った理科の実験では花火が水中でも燃え続けていた。

 何故火が消えないのかを先生に聞いたら、花火の成分には燃えると同時に酸素を発生させる物質が入っているからだと教えてくれた。


 その時の知識がこんなところで活きるとは全く思ってなかったけど、とても役に立ったな。ありがとう、小林先生。



――――――――――――――――――――



 俺たちはその後なんとか地上に戻ると、とたんに気が緩み地面にへたり込んだ。


 大変な戦いではあったが、無事クラーケンを倒して冒険を終えたことをようやく実感したのだ。


「いやー、まじできつかったけどこれでギルド資金が溜まったな! 後はメンバーだけだ。みんな今日は本当にありがとう! そしてお疲れ様」


 俺が感謝の言葉を述べると、アリサは少し恥ずかしそうにこちらを見ながらボソっとつぶやく。


「……あのさ、助けてくれてありがとう。ところでさ、あんた見てないわよね?」

「ん? 何を?」


 何の事だろうか? 俺はアリサを助けたときのことを思い出す。


「何ってあれよ、私の……。いや、見てないならいいわ」

「あ、そうだ! あの時は水着がはだけてて、アリサのおっ――」


 俺が言い終える前にアリサのげんこつが飛んでくる。


「痛っ!? あの時見たのは不可抗力だろ! 助けるのに必死でそれどころじゃなかったし!」


 実際あの時は本気で焦ってたからなぁ。


「いーから、あの時見たものは忘れなさいよ! 忘れなさいったら忘れなさいよ!!」


 アリサは顔を真っ赤にして言う。

 俺は窮地を助けたヒーローなのに、アリサの態度はいつもと変わらないな。そのことに妙な安心感を覚え、口元がにやけてしまった。


「あ、今わたしのおっぱいのこと思い出したでしょ! この変態!」


 先ほどまでの疲れはどこへやら、アリサは俺を追いかけ、俺は逃げる。それを見て笑うシルヴィアとローザ。


 ダンジョン攻略は大変だけど、こんな楽しい冒険生活なら、いつまでも続けていきたいと俺は思ったのだった。

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