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第十一話 怪物クラーケン

「情報屋ー! いるかー?」


 俺は情報屋の暖簾をくぐる。情報屋は町の外れの掘立小屋に居を構えている。もう少しアクセスの良い場所に住めば客も増えると思うのだが、奴にとってはここが一番住みやすいらしい。


「その声はユートの旦那……! 調子はどうでやんすか?」


 情報屋は眠そうな目をこすりながら、相変わらずの口調で俺を迎え入れる。


「順調とは言えないかなぁ……。とりあえず換金を頼むよ」


 そう言って俺は討伐したモンスターの結晶を渡した。情報屋はダンジョンの紹介をするだけではなく、報酬の換金や受け渡し等の諸業務も手掛けている。


「……オークが三体、トロールが五体、スライムが三十七体でやんすね。確かに受け取りやした!」


 丁寧に結晶の数を数え上げると、慣れた手つきで会計帳簿に記載していく。


「そういえば俺たちの召喚の所持状況が変わったんだけど、名簿を更新したほうがいいよね?」


 俺がそう言うと、すぐに情報屋は冒険者名簿を取り出し、俺に差し出した。


「あいさ、ここに記入をお願いしやす!」


 冒険者名簿とは、情報屋が担当している冒険者のランクやステータス、召喚の所持状況が記されている名簿である。

 この名簿の情報を元に、適切なダンジョンを紹介するのが情報屋の主な業務らしい。


「えーっと、シルヴィアのページはここか……」


 俺はシルヴィアの情報が記載されているページを開くと、召喚の欄にテテュスと付け加えた。


「ほーっ、テテュスでやんすか。こいつはまた良い召喚を手に入れましたねー」


 情報屋は小さく伸びた髭を撫でながら話を続ける。


「テテュスを持っているなら、海底洞窟を紹介できるでやんす」


「海底洞窟……?」


「そうでやんす。ここ最近貿易船の難破が多発してるんですが、その原因がこの海底洞窟に生息するモンスター、クラーケンにあるんでやんすよ」


「……クラーケンっていうと、大型のタコみたいな怪物のことか?」


「おっ、知ってるでやんすか? おっしゃる通りタコのような姿をしているんですが……ただのタコではございやせん。その凶悪さは恐ろしいもので、小型の船なら一飲みにしてしまう程でやんす」


 船を一飲みだって……!? 俺は緊張のあまりつばを飲み込んだ。そこまで危険なモンスターを今の俺達の力で倒せるだろうか?


「クラーケンは教会の悩みの種の一つでやんす。討伐できる冒険者をやっきになって探しているみたいですが、全然上手くいってないらしいでやんす。海の中で戦える冒険者なんて、ほとんどいないでやんすからね」


 そりゃそうだろう。水中での戦いとなると普段とは勝手が違いすぎる。なにせ呼吸すらままならないのだから。


「そんな状況なもんで、クラーケンの討伐報酬は現在二千万ソルに跳ね上がってるんでやんす。これは中級冒険者が行けるダンジョンの中では破格でやんすよ」


「――二千万だって!?」


 俺は驚きのあまり、机を叩いて身を乗り出した。トロール一体の報酬が二万ソルなので、二千万ソルというとトロール千体分だ。そんなおいしい話、放っておけるわけがない。


「詳しい情報を教えてくれ!!」


「あいさー! 大仕事になりまっせ、くれぐれも慎重にお願いしやすよ――」



――――――――――――――――――――



 俺は情報屋から海底洞窟の情報を仕入れると、すぐに宿に戻ってみんなを招集した。


「……というわけでだ、今から水着を買いに行くぞ!」


 俺はみんなが集まるや否や、第一声を発した。


「――はぁ!? なにがというわけでよ。ちゃんと説明しなさい!」


 アリサがいつも通りのツンな態度で突っ込みを入れる。


「海底洞窟に行くことに決めた! 水の中だから水着が必要! 以上」


 俺は必要最小限の言葉を告げて買い物に出かけようとすると、アリサに首根っこを掴まれてしまった。


「あんたねぇ……。それだけで納得できるわけないでしょうが!」


「わ、悪かったよ……。ちゃんと説明するから――」


 俺が情報屋から聞いたことを全て説明すると、みんなは二千万ソルという額に驚いた。

 しかしとても不安そうな顔をしている、恐らくクラーケンの存在が引っかかっているのだろう。


「確かにおいしい話だけど……。船を一飲みにしてしまう程の怪物なんて、怖いわね」


 アリサがそういうと、他のみんなも顔を暗くして俯いてしまう。


「不安になるのはわかるけど、俺たちにとってこれほどの条件が揃ったダンジョンは他にないと思うんだ。シルヴィアのテテュスの加護と、俺のオーディンで上手くやれるはずさ。ターゲットが一体なら、効果時間が切れる心配もないだろうし」


 俺は力強くそう言うと、片手をあげて力こぶを作って見せた。


「わたしは賛成だわね。こんなに報酬が高い案件は前代未聞だし、いざという時はユート君を犠牲にして逃げれば何とかなるだろうから」


 ローザは笑って言った。


「ちょっ……!? それはやめてください、お願いします」


 俺が困った顔で言うと、アリサとシルヴィアはクスっと笑い、


「そうね、この程度のことに怖気づいてたら冒険者の名が廃るわね。わたしも賛成よ、やってやろうじゃない!」


「……こわいけど、できるだけ……やってみる」


 みんなは海底洞窟に行くことに同意してくれた。


「みんなありがとう! それじゃあ気を取り直して、冒険の準備を始めようぜ」


 俺達の目に、もう迷いはなかった。

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