-言い訳ばかりの遺書ー
2017年7月31日 午前8時43分。携帯電話が鳴った。相手は派遣会社の女性社員からで、派遣先への出発メールがないとのことで心配して連絡をくれたそうだ。と、いうより今朝に限らず、先週頭から出勤していない。休日を省いて出勤日に休みの場合はこちらから連絡するが、それがなければ派遣会社と派遣先から連絡が入ることになっている。
彼女は誰もが心配している、そんなことをいっていた。ただ派遣先の企業間で問題が起きれば後々面倒だから、そっちのことを気にしているのだろう。今のこの状況のことなど、だれも本気で心配などしていない。そう考えてしまうのだが、ここ数日、誰とも話していない。本音はありがたい。
彼女からの連絡はベッドの上で受けた。壁に背を持たせ、好きな作家の小説を読んできたのだ。今朝は5時半に目を覚ました。節約の為にいつも準備している煮だしの麦茶は100均の水筒に入れ、弁当まで作って専用の手提げに保冷剤と一緒に入れておいた。着て行く服も選んでいる。派遣会社の女性社員がが電話してきた時間であれば慌てて出勤しても遅刻ではあったが、その数時間前に目を覚ましていた。
しかし出かけようとすると目まいがして足が動かない。
休みだした先週から、いや今の派遣会社に登録するずっと以前から目覚めは早く、忘れ物はするが毎日準備はしている。ただ伝習から出勤しようとすれば目まいがして息が苦しくなり、外に出れないだけなのだ。断言するが、仕事に問題はない。不満を言ってもきりがない、という意味だ。
こうなってしまった理由は……、どこま時間を戻って話せばいいのかわからない。とりあえず、今回、参ってしまっている理由は耐えかねたストレスを彼女にぶつけてしまったことだ。結果、彼女とは別れることになった。その程度で40過ぎの男が引きこもって病んでいるのか、言い訳でしかないし、彼女に対して失礼だろう。確かに、今はただただ彼女に対して申し訳ないと思っている。申し訳ないと思うことをここに書くこと自体が、どこか女々しくて情けない。確かに。
彼女へは何度か連絡を取ったが、全く相手にされなかった。最後の彼女からのメールでは警察に相談し、ストーカーとして扱われるそうだ。お前がやったことだろう、仕方ないじゃないか。確かに、俺が何をしたんだろう。それですら考えること自体、言い訳を探しているのだろう。
部屋から出ることができないくせに、じっとしていることができない。外は猛暑、エアコンをつけて涼んでいるがそれも嫌になって外の熱い空気を入れ汗をかいた。アルコールを抜きたかった。
酒におぼれることは多々あった。何もかもが思い通りにいかなくて、酒の酔いで誤魔化してきた。今までこんな文章を書くこと自体ありえなかった。依存はしていない。していたとしても、酔って冗談いって騒ぐだけで酒のせいで失敗はしたことはない。酔って忘れているだけだろう、何度も酒で失敗したじゃないか。確かに、相手が絡んできたから跳ね返した、それですら揉め事を起こしているのであって酒癖が悪いというレッテルを覆すことはできない。
夏は好きだ。全身が汗びっしょりになって水を浴びて、冷えたビール、今更飲む気はないが、思い出した、数日前から酒と煙草以外なにも口にしていない。当然、食事もとっていない。米や卵、インスタントのラーメンと贖罪はそろってはいるし、それなりの時間になればつくりはするのだが食べない。食べれないのだ。異に押し込んでもすぐに吐き出してしまう。麦茶を飲んでも滝のように便器に流し込んでしまうだけだ。当然、これも誰が悪いのかわかっている。頭がぼうっとしてきた。
エアコンのスイッチを入れ、すぐに室内を冷やすも気分が悪くて、少し電気代が気になりリモコンの停止ボタンを押す。
インターネットで『餓死』というキーワードで検索してみた。熱中症とは別にして、数日食事をとらなければその人の体格にかかわらず意識を失うそう。水を飲めばもっと生きられるそうだが、細かいことは別にして意外に安易に餓死できる手段を得ることができた。内臓が機能しなくなる点など、こういうことか、と理解することができた。
エアコンをつけたり切ったり、汗をかいたり冷やしたり、食事や水分を摂ったかと思えば吐き出したり、生きたいのか死にたいのかわからなくなってきた。
こんな内容の文章を書いて、人の気を引こうとしている、死を意識して一時的に逃げようとしている。人生はそんなに甘くない。これも言い訳だ。確かに、もう何も言えない。
最後に、今までの人生、言い訳をさせてもらえばすべてが思い通りにいかない裏目に出てしまうことばかりだった。これも言い訳だけど、許して。
大学を卒業し、大企業に就職して、結婚し、子供を作り育てる人生。言い訳に常にくっついてくる素晴らしい人生。しかしそんな人生を望まなかった。
夢があったから。
この夢も病んで引きこもっている今の言い訳というなら、そういわれてもいい。
否定されるからずっと言わずに、言えずに生きてきた。
遺書として言葉を遺すなら、
『小説家になりたかった』
三沢龍樹