第五十六話 ブレイン、アスカ
「ねぇ、この城建てた人って誰なの? あっ、人でいいのよね?」
「ああ、多分人でいいんだと思うけど、建てた人が誰かまでは……」
「それは私がお答え致しましょう。この魔王城は今からおよそ1500年ほど前、先代魔王様自らが建てたと聞いております。もちろんですが、もうこの世界にはおりません。その魔王城が捨てられているのを私共が再利用させて頂いている形となっております」
「そう……会ってみたかったわ。それにしてもいい造りね、これは私でもひとりじゃ落とせないかもね」
おっと、ひとりで魔王城攻略しようと思ってるぞ? しかも魔王城の造りが甘かったら行けると豪語していますね。相当な自信家なんだろう。実際執事さんのテレポートは見ているのにこの感想なんだからだいぶ強いんだろうな。ミツハたん同様心を読むことも出来ないし。
「なあ、めっちゃ城のこと褒めてるけど実際なにが凄いんだ?」
「あなた、そんなこともわからないの? Sランクが聞いて呆れるわね。ブレインなんて呼ばれてるけどバカじゃない」
クッ、バカだから反論できない。
「仕方ないわね。説明してあげるわ。まずあの魔王城の近くにある高く尖っている塔みたいな部分あるじゃない? あれによって雷系の魔法がそちら側に引き寄せられるの。おそらく強烈な磁場とかもあるでしょうから戦闘時には意外な伏兵となりうるでしょうね。私は引っかからないけど」
「よくおわかりですね。強力な磁場を張り巡らせるための装置があの下に埋め込まれております」
「それからあの扉ね。あれは曲者よ。強力な攻撃でもあの扉は壊せないわ。中から鍵をかけられたら他の所から登って入るか、忍び込むとかしないと入れない。そのやって攻めあぐねている間に城のあの窓から弓とかで攻撃されてしまうわ。まあ無茶苦茶な馬鹿力だったら話は別でしょうけど」
アスカさんは、シャルティアたんの方を向いて、嫌味のように最後の言葉を言った。やっぱりSランク同士でなにか思うこともあるんだろう。俺は敵意剥き出しすぎだと思うけどさ。
「わっはっはー、褒められたのだー」
シャルティアたんは華麗にスルーしていく。まあ、シャルティアたんの事だから本当に褒められたと思ってるんだろうけど。ってか思ってます。俺心読めるんで。
「このアホは放っておくとして、まだまだ色々あるけどとりあえず最後に上空、つまり飛んでくる敵対策が周到にされてあるのが素晴らしいわね。普通は陸軍が多いから陸のことばっかり考えて上空は手薄になることが多いのに、流石だわ。エルフ対策とかなのかしら?」
「そうでございますね。1500年ほど前はエルフと敵対関係にあったと聞いております」
そんなことまでわかるのかよ。アスカさん、頭脳プレイヤーだな。
「上空には地雷が置かれているわね、それも無数に。弓も上に向けて発射出来るようになっているし、上空から来て着陸出来るところを集中砲火出来るよう練られている。しかも、あれは電磁フィールドよね。向かってきた敵のみを認識して自動で発動する設定になってあるのかしら。1500年前のまま残っていたらの話だけどね。あれで機械系で上空から侵入するものを拒むと。見れば見るほど褒め言葉が上がってくるわ。だけど……惜しいわね」
「惜しいとおっしゃいますと?」
「私なら今の技術を使ってもっと良く出来る。あなた達、その辺に詳しい技術者はいないのでしょうね。まあまだ協力するとは決まっていないけど、もし協力するのならまずは守りを固めてあげるわ」
まさかの改善点まで出してきたよ!? この人本当に凄いな。
「なあ、もうそろそろ行くぞ。魔王様に会って協力するかどうか判断するんだろ?」
「わかったわよ! ちょっと興奮してただけじゃない、うるさいわね!」
おうふ、怒られた。
「待っていたよ、アスカさん。私の仲間になる気はないかい?」
「そのためにお話に来たのよ。あなたもわかっているでしょう? 私の心読んでるんだし。あっ、わかったわ。あの荒巻とかいう奴に読心術教えたのあなたでしょう?」
「よくわかったね。そういう観察眼、凄くほしい人材だな」
「それで、あなたは私に何を提供してくれるのかしら?」
「提供?」
「ええ、報酬のことよ。まさかタダ働き指せるつもりじゃないでしょうね?」
「ああ、そうか、人間は報酬なんてものがいるのか。それは困ったな。アスカさんに報酬を渡してしまうと他の者たちにも報酬を渡さなければならないけど、そんなに報酬と呼べるようなものなんて持ってないのよね、いざとなったら私がアスカさんをボコボコにして無理矢理従わせようと思っているのだけれど、どうかな?」
「へえ、そこまでは心読ませてないつもりだったんだけどね」
「読んでないよ、読心術では……ね」
「わかったわ。私はあなたを手伝う。だけど、脅威がなくなったらその後は自由にさせてもらうわよ」
「ええ、ありがとう」
うん、何言ってるかよくわかんないけどよかったよかった!




