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アイナトリーの空の下  作者: メテム
孤高の塔にレイスは住まう
6/14

第二話

 いつものように光りに包まれ浮遊感を味わった後、私達はダンジョンの中にいた。


 ナイトアイをかけて辺りを見回すと、なるほど聞いたとおりこれは人口のダンジョンだということが分かる。

 壁は手入れがされているし、足元も平らに固められている。

 進みやすいので嬉しい半面、これは巨大迷路の作りならば非常に進みづらいことを意味している。

 これからのことを考えると些か憂鬱だ。

 それを察したのかミストが話しかけてきた。


「メテムさん、なんだか厄介そうなとこですね」


「そうだね、どれだけ深い迷路なのか。地上だか地下だかが何階層になってるのか分からない。でも後には引けないし、進むしか無い、ということね」


「ですね。幸い食料も物資も十分すぎるほど持ってきましたからね。とりあえず壁に目印をつけて進みましょう」


 そう言いながらチョークを使い壁に印をつけはじめた。

 巨大迷路を当てもなく進む。

 一応六分儀を試してみたが、やはり異空間なのか座標や方向を示すことはなかった。

 また最初の方はまだ方向などを認識していたのだが、しばらく進むとその入り組んだ作りに、すぐにそれを放棄せざるを得なかった。

 要するに完全に闇雲状態ということだ。

 もちろん分かれ道の度にチョークをつけているので、帰ることはできるとは思うのだが……。

 そしてしばらく進むと、報告のあった通りインプに遭遇した。

 羽を着けた小さな緑色の悪魔インプは、単体で出会うと全く脅威ではない。

 が、厄介なのは群れをなす習性があるということだ。

 幸い私達が出会ったのは一匹だけだったので、すぐに私達のエナジーボルトで仕留めることができた。

 今回は簡単だったが、この狭い通路で群れをなして襲ってこられると若干辛い。

 まあ今回は私達三人に加えハムがいるから、こちらの戦力も少しは上がってはいるが。

 インプと戦闘後も私達はひたすら進んだ。

 時には三叉になり、時には階段があり、文字通り上下左右関係なくだ。

 たまに行き止まりにあたった時は通路を引き返してまた進む。

 果たして私達は奥にある何かに向かって進んでいるのか、それとも見当違いの所をすすんでいるのか、それすらも分からない。

 これは一人で進むと気がおかしくなるな。

 そう思うと周りの仲間が頼もしく思える。


「フフフ」


 場違いだが思わず口から出た微笑みにミストが不思議そうに顔を覗きこんだ。

 それからさらに進むと今度は翼を持った魔人ガーゴイルに遭遇した。

 配下にインプを二匹程度従えている。

 敵を認識すると私はすぐにエナジーフィールドを張って敵と私達の間を遮断した。

 もちろんエナジーフィールド越しにも魔法は飛んでくるが、かき消されるまでは侵入してくることは無い。

 その間に私達四人は全員でエナジーパペットを召喚した。

 エナジーパペットが召喚されても暫くの間はエナジーフィールドが残った状態で、エナジーパペットとガーゴイルが睨み合う形になった。

 そしてエナジーフィールドが消えるのと同時に攻防が始まった。

 幸い敵の注意はエナジーパペットが惹きつけているので、私達は安心して次の攻撃魔法を詠唱し、ガーゴイルにぶつけることが出来た。

 ガーゴイルはそこそこの魔法抵抗力を持つモンスターだが、この人数で一気に攻撃するのならば問題はない。

 あっという間に地に臥した。

 そして次の詠唱を唱える必要もない様にエナジーパペットがインプを倒していた。

 それからも幾度かの戦闘があったが、出てくるモンスターはインプとガーゴイルばかりで、たまに群れをなして襲ってきたものの、特に問題もなく迎撃することが出来た。

 この程度のモンスターならば安心だな。

 そんな考えが頭をよぎった。

 そうしてしばらく進むと今度は休息所のような場所に出た。

 そこにはベンチが置かれ、ご丁寧に泉まで設置されていた。

 ここに注がれる水は一体どこから出ているのだろうか。

 飲むことはとても出来そうにないが、顔を洗ったりすることはできそうだ。

 私達は辺りを警戒しつつここで休息を取ることにした。


「ひゃー、歩き疲れた~」


 そう言いながらレモンはブーツを脱ぎ、素足を泉に浸した。


「うわ、これ冷たくて気持ちがいい~」


 足をばたつかせ飛沫をあげながら言う。


「確かに結構歩きましたよね」


 隣ではミストもベンチに腰を下し体を休めている。

 足をローブの上から揉んでいる所を見ると、随分疲れているようだ。


「でもメテムさん、こんなに深い巨大迷路を作るだなんて、この先にいる何者かは何の意図があるんでしょうかね」


 足をさすりながらミストが問いかける。


「そうだねえ、私には皆目つかないけれど、もしかしてミストの好きな芝居みたいな展開が待ってたり?」


「うわー、それならここは誰かに捧げる愛の迷宮ってことになりますね!」


「でもメテムさ、それならなんでここにモンスターが放たれてるわけ?」


 と、興奮しているミストを尻目に冷静にレモンが突っ込んだ。


「確かに……。誰かのためならモンスターなんている理由無いし。でもここを足がかりに悪魔が侵略をしようとしてるとは考えられないね。何があるんだろう……」


 そう答える私。

 実際のところ、この先に何が待ち構えているかは行ってみなければ分からない。

 平和的なものがあるのならば良いのだけれど、とてもそんな風には思えないので、気が重くなる。


「そうそう、皆、食料はまだ十分あるでしょ?」


 場の雰囲気が重くなったので、若干変えるためにも別の話題を持ちかけた。


「えぇ、メテムさん。私はまだまだ十分あります。秘薬を相当持ってきてるのでいざとなったらクリエイトフードでも唱えれば一週間程度はもちますよ」


「僕も大丈夫だよ。同じく秘薬たっぷりあるし」


「メテム~、俺もまだまだいける~。迷路を楽しむぐらいの勢いで持ってきたからさ~」


 皆でそんな事を話しながら適当に体を休める。

 まだどれぐらい道が続くのか知らないが、定期的にこういう場があるのならば嬉しいものだ。


「でもメテムよ~、一体俺達は先進んでんのかね」


 ハムが皆が感じていることを口にした。


「んー、正直私にも分からないよ。でもこうやって休息所があるってことは少しは近づいてると取っていいんじゃない?」


 もちろんそういう根拠は全くないのだが。

 それでもある一定の安心感を与えたようだ。

 皆の顔が少しだけ明るくなったような気がした。


 それからも私達はひたすら進んだ。

 すでに時間の感覚はなくなっていたので、今が昼なのか夜なのかが定かではなかった。

 体感的にはまだ日はまたいでいないとは思うのだが。

 そんな状態の中、遭遇した敵を捌きつつ、いい加減疲労がたまってきたところで、ようやく通路の奥のほうから強烈な光が差し込んでいるのが見えた。


「メテム、光だ!」


 心の底から本当に安堵したようにレモンが叫ぶ。

 そして止める間もなく光の漏れる先に駆けていった。

 レモンが光の中に埋もれたと見るやいなや、すぐにまた声が聞こえた。


「うわ~、すごい! 皆、早く来て!」


 私達はその声に導かれるかのように通路を進んだ。

 そしてその先に見えたものに思わず声を失った。


 そこはダンジョンの中だとは思えなかった。

 まず頭上には青々とした空が広がっていた。

 そしてその空の下には一つの高い塔があり、近くには作りのしっかりした小屋があった。


「メテムさん、これは一体……」

 

 ミストが驚きながらそう呟く。

 確かに驚いて当然だ。

 私達はダンジョンを進んでいたと思っていたのだが、ここに来て空のある広場が広がっていたのだから。

 一瞬幻影かと思ったが、この質量感はリアルだ。

 落ち着いてこの広場を観察する。

 と、結構な広さがあり、そして四方を壁に囲まれているのが分った。

 おそらくこの壁の中が今まで右往左往してきたダンジョンなのだろう。

 そこを抜けるとこの広場に出られるという寸法のようだ。

 ただ具合の悪いことに、四方からおそらくインプのものだと思われる耳障りな声が聞こえてきた。

 この広場にも随分敵が放たれていることだろう。

 そう感じた私はすぐに皆に指示をだした。


「皆、おちついて。敵もいることだし、まずはあそこの塔と小屋を調べましょう。中には誰かが住んでるかもしれない」


 そう伝えると、ハムが口を挟んだ。


「敵がこれだけ放たれているところに住んでいるとなったら、普通に考えて敵意を持ったメイジとかになるんじゃない~?」


 なるほど、ごもっともだ……。


「ま、まあ何にせよ、私達はこのモンスターが湧き出る状況を解決するために来たのよ。とりあえず調べてみる他はないんじゃない?」


「そりゃそうだけど……」


 ぐずるハムを押しながら私達は慎重に塔へと向かった。

 傍から塔を眺めてみると、塔には根本に一つの扉があるのが分かる。

 手前には小さな庭も広がっている。

 そして他には最上部にテラスになっているのか開けた空間があるみたいだ。

 もし中に誰かがいるのならあそこからこちらを一望することができるだろう。

 何者かが顔を出さないかと思ったが、残念ながら誰も出てこなかった。


 少し歩くと塔の入り口に辿り着いた。

 扉の手前に広がった庭をかき分けるように入ってく。

 庭には沢山の花々が垣根に沿って咲いていたが、それは手入れされている状態とはとても言えない程、無造作にのびていた。


「誰もここの手入れをしている節がありませんね」


 と、ミストが言った。


「確かにとても長い間放置されてるみたいだね。自然のままあるがまま、って感じだし」


「となると、この塔には誰も住んでいないんですかね」


 そう呟きながら塔を見上げた。


 庭を進むと扉にたどり着く。

 念のため私達は補助魔法をかけた上に、三人には攻撃魔法を詠唱させておいた。

 そして注意深く扉のノブを回す。

 が、若干予想していたとおりだが扉は開かなかった。

 鍵がかかっているようだ。

 すぐにアンロックの魔法をかけてみるが、こちらもやはりそれでも開かなかった。

 私の魔力を上回るとはあまり考えられないので、おそらくキーワードが必要なのだろう。

 まずはそれを探さなければ。

 そう思っていた矢先、庭の入口で見張りをしていたミストの悲鳴が聞こえてきた。


「キャッ」


 慌てて皆で向かった所、そこにはガーゴイルとインプ、そしてレッドデーモンがいた。

 レッドデーモン自体は下級の悪魔なのでこの人数ならば余裕で対応できる相手だが、問題はその数だ。

 私達の声に惹かれてきたのか、ガーゴイル、インプを合わせるとその数は優に十匹はいる。


「メテムさん、一体どうしたら……」


 三人共すでに詠唱自体は完了しているが、どう対応したら分からないようだ。

 その為すぐに指示を出した。


「皆、一旦ここを離れよう。あそこにある小屋まで走れ!」


 そう告げると、私を殿にして敵を払いながら遠くにあった離れの小屋まで向かった。

 小屋に到着した私達は、すぐに扉に手をかけた。

 何とか開いていてもらいたいと願いながらノブを回すと、嬉しいことにカチャリと音を立てて扉が開いた。

 急いで三人を中にいれ内側から鍵をかける。

 これで一応の時間稼ぎは出来そうだ。

 次に出る時にはエナジーパペットを中で召喚しながら扉を開ければ良い。

 そう思案していた私だったが、次の瞬間ミストが上げた小さな悲鳴が私の考えを遮った。


「ひっ」


 決して大きな声ではない。何かを見つけたみたいだ。


「どうした、ミスト?」


 改めてこの小屋を見まわす。

 どうやらここは食料やら何やらの物置小屋だったようだ。

 木材などが無造作に置かれている。

 そしてミストの視線の先を追ってみたところ、ボンヤリと光る人の形をした何かが見受けられた。


 ……これはレイスだ。


 視認してすぐに戦闘態勢を取る。

 見たところ敵は一匹だし、たかだかレイス程度私一人ですぐに殺せる。

 そう思ってフレイムストライクを詠唱し、さて開放しようとレイスに近づいたところ、後方からハムの少し間延びした声が聞こえる。


「メテムよ~、そのレイス、殺す前にちょっくら考えたほうがいいんじゃない?」


「え? どういうこと?」


「うん、こんなところで一匹でいるんだから事情があるはずだろ~。そういうのを聞いてみた方がいいと思うんだよな~」


「事情を聞く? どうやって?」


「おいおい、俺の職業忘れた? ネクロマンサーだぜ? サイレントトークならお手の物さ」


 そう呟くと茶目っ気たっぷりにハムは片目をつぶった。

 それからネクロマンサー特有の複雑な呪文を口にする。

 程なくして詠唱が完成したのか、それを端っこで佇んでいるレイスに向けて開放した。


「さて、と、そこのレイスさん~。一体あんたはどこのどなたさんなんだ?」


 レイスに話しかけるハム。

 するとレイスが口を開いた。 


「ぼ、僕の声が分かるのか?」


 普段なら会話が成り立たないはずが、ハムのかけたサイレントトークによりレイスの声がそのまま変換されて私達に聞こえてくる。


「な? これで会話ができるだろ?」


「すごいわね、さすがネクロマンサー。これなら話が早いわ」


 そう言いながら、私はレイスに質問をした。


「私の名前はメテム。リテンの国の者よ。そしてあなたは誰? ここは一体何なの?」


 するとレイスが答えた。


「僕の名前はチェリン。ここに住んでいた者だ」


「ここに住んでた?」


「そう、ここは僕とラピーの二人だけの楽園だったんだ。あの忌まわしい出来事が起こる前は……」


「忌まわしい出来事?」


「そう。というかそれより君たちは一体どうやってここに入ってこれたんだ? 入り口は誰にも見えないようになってるはずだし、何よりモンスターが多数いたと思うのだけど」


「入り口は見えないようになってはいなかったわ。平原に無造作に置かれていたの」


「そうか、カモフラージュの魔法が切れていたのか。となると想像以上に月日が経ってしまっているということか。あぁ、愛しのラピーは今何をしているのだ……。そうだ、君たち、ここで美しい女性を見なかったか?」


「いえ、そんな女性は見なかったわよ。というか塔に入れずここしか来れなかったのよ」


 そう告げると、明らかにチェリンが落胆したのが雰囲気で分かる。

 レイスだから見た目には変わらないのだが。


「そうか、やはり……」


「それより悪いけど一度最初から全て説明してもらえない? ここは何? なんでモンスターがいるの?」


 そう質問すると、チェリンが少しずつ事情を語りだした。


「……ここは僕とラピーの隠れ家なんだ。僕はイレヴィーの街で暮らす普通のメイジで、そしてラピーはキニッシリの名高い貴族の一人娘。僕らはキニッシリのイースターのお祭りの時に知り合い、そして恋に落ちたんだ。彼女といる時間は本当にかけがえのない貴重な時間だった。日々研究ばかりの僕を外に連れ出し、沢山の場所に出かけた。明るく笑いかける彼女に僕がどれだけ癒やされたか。本当に今まで体感したことがない感情が僕を包んだんだ。そんな風に過ごす僕たちは、自然に結婚して一つになろうという感情が芽生えた。そして僕は彼女の父親に挨拶に行ったんだ。……だが、結果は散々だったよ。一介のメイジに過ぎない僕には、貴族の跡取りであるラピーとの結婚は許さないってさ。もう取り付く暇もない感じだったよ。途方にくれた僕たちはそしてある決心をしたんだ。それは誰も入ってこれない自分たちの楽園を魔法で作って、そこで暮らそうということさ」


 そこまで一気にまくしたてると、チェリンは一息をついた。


「なるほど、それがこの巨大迷路ってわけね」


「そう、そもそも入り口も絶対見つからないようにカモフラージュの魔法を幾重にもかけた上で、さらに巨大迷路とモンスターで侵入者を防いでいたんだ」


「あのインプとガーゴイルはどうしたの?」


「あれは近くに魔界と繋げるテレポーターを作って、そこから定期的に少数召喚していたんだよ。広場の外れに祭壇を設けたから、そこから定期的に出るようになってるんだ。だけどそれが全ての出来事を崩す最悪なきっかけになってしまったんだ……」


「と言うとどういうこと? 暴走でもしたってこと?」


「うん、最初から話させてくれ。まず僕とラピーはここで暮らすことを選んだ。ラピーは家を捨ててね。幸い物資は使い切れない量を持ち込んだし、何かあったらどうとでも対応できる自信はあった。最初の何年間の生活は本当に素晴らしいものだったよ。塔で二人で誰にも邪魔されること無く暮らし、綺麗な庭で心を落ち着かせる。これこそが僕達の求めていたものなんだ。本当に心の底からそう思ったよ。一生続けばいいなって思ったもんさ。でもそんな幸せは長く続かなかった……。異変に気づいたのは本当に些細な出来事がきっかけだったんだ。ある日、普段ならこの広場にはモンスターが入ってくることはないインプが、塔の付近で飛んでくるのを見かけたんだよ。おかしいなと思いつつも迷路から紛れて抜けてきたんだと思った。でもそれからしばらくすると明らかに多数のモンスターが辺りを闊歩するようになったんだ。しかも呼んだ覚えのないデーモンまで現れるようになってね。さすがにこの時点で僕は異常を察したんだ。設置したテレポーターが何かの拍子でおかしな挙動になっている、と」


「なるほど、確かに広場には随分モンスターがいたわね。とても平和的な空間だとは思えなかったわ」


「そう、本来ならそんな感じでは無いんだよ。巨大迷路を見まわるように数匹がいる程度なんだ。で、僕としてはラピーとの楽園が壊されるのを避けるために、何とかテレポーターの様子を見に行こうとしたんだ。でもラピーは危険だからと反対してね。でも僕は大丈夫だからと外にでることにしたんだ。今から思えばラピーのいうことを聞いておけばよかったと本当に後悔しているよ。取り返しの付かない事になってしまったからね」


「取り返しの付かない?」


「そう、僕はまず塔を出て様子を見に行く時に、ラピーの安全のために塔にキーワードをかけてロックしておいたんだ」


「やはりそうだったの。どうりで私のアンロックで開かないはずね」


「うん、あれを外すのは無理だよ。キーワードがどうしてもいるんだ。それで扉をロックしてすぐにテレポーターに向かおうとしたんだけれど、僕が考えていた想定より随分沢山のモンスターが外にいたんだ。何とか食い止めて原因を解明しなければと思ったんだけど多勢に無勢。先に進めなくなってしまったんだ。それで襲われた僕は……あぁ……何とかこの倉庫に逃げ込んだんだけれど……」


 そう告げると力なく黙るチェリン。

 そして倉庫の奥へ譲るように体をどけた先には、随分昔に死んだと思われるチェリンの躯があった。


「そうだったの……。それでレイスになったあなたはキーワードを唱えても当然塔に入ることができず、ここにいるというわけね?」


「そういうことさ……。もうそれが何年何十年前の出来事なのか、思い出すことが出来ないほど昔のことだよ。ああ、僕のラピーはどうなったんだろう……」


 そこまで話すと、今まで横で聞いていたミストが口を挟んだ。


「メテムさん……」


「何? まあ言いたいことは分かってるけどね」


「はい、ここは私達が頑張って塔に入ってラピーさんの元へチェリンさんを送りましょう」


「簡単にいうけれど、外は敵だらけだよ?」


「でもいずれにせよ出るためには倒さなければなりませんし。ここは皆で解決しましょうよ」


 そう珍しくしっかりと意見を言うミストに今度はチェリンが申し訳無さそうに口を挟んだ。


「旅の人たち、本当にありがとう。気持ちは嬉しいよ。でも塔に入る前に僕はどうしてもテレポーターの件を解決したいんだ。こんな状態で塔への道を作ってもラピーにとって良いことはないからね。厚かましいようで申し訳ないのだけれど、一度祭壇を調べてもらいたいのだけれど構わないかな?」


「それはもちろん大丈夫よ。私達にしてもこの自体を解決するために来たわけだし、モンスターが召喚されるのを止めないと困るわ」


「ありがとう、本当に恩に着るよ。祭壇は倉庫の裏手の奥にあるんだ。ひとまずそこに向かってみよう」


 そうチェリンは告げる。

 それから私達は一呼吸入れた後、外に出かける準備をした。

 エナジーパペットを扉の内側付近に召喚する。

 これで扉の外に待ち受けているであろうモンスターは対処できる。

 まあ十匹程度ならこの面子ならエナジーパペットなしでも何とか対応はできるが念には念を入れてだ。

 そして準備が出来た我々は、呼吸を整えて一気に扉を開けた。


 扉の先には果たして先ほどのモンスターたちがいた。

 目論見通りエナジーパペットがモンスターに襲いかかる。

 通常ならばここでモンスターを処理するのだが、今は他のモンスターが来ないうちに祭壇へ行かなければならない。


「皆、祭壇に向けて走れ!」


 そう告げるとチェリンを先頭に私達は一目散に祭壇まで向かった。

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