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アイナトリーの空の下  作者: メテム
孤高の塔にレイスは住まう
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第一話

以前公開していた「タングルドの塔」の一部修正した話になります。

基本的に大筋は一切変えておらず、表現のつじつま合わせを調整しただけです。

「やっぱり愛って難しいですよね」


 そう神妙な顔をしているのはおなじみミスト。

 お気に入りのピンクの魔法書を胸に抱えている。


「そうだね、僕はあまり恋愛経験ないけれど、あの行動は女性としてどうなの?」

 

 白い魔法帽子をいじりながら答えているのはレモンだ。


 ここはいつものようにブルージュ広場。

 私は草むらで日向ぼっこ中。

 で、冒頭の彼らだけれど、一体何について話しているか。

 それは最近ブルージュの街で流行っている舞台「スタンド・バイ・ユー」について。

 何やら男と女が好きあって不幸があってどうこうというストーリーらしいんだけれど、私は性に合わないので一度も見たことがない。


「確かに愛している気持ちをいつまでも永続して信じ続けるって、口ではとても言い表せない程難しいんでしょうね。相手のことを思うと不安にもなりますし……」


 そう言いながら視線を下に移した。

 話を傍から聞いて見る限り、どうも男と女が愛しあいながら離れ離れになり、男がようやく戻ってきた時には孤独に耐えかねた女が他の男と懇ろになっているストーリーのようだ。

 まあ、しつこいけれど私は全くそんなものには興味はない、のだが。


「メテムさんはどう思いますか? 愛する男をただひたすら待つ女の気持ち……」


 と、ふらないでいいのにミストが話かけてきた。


「ん~、まあ私は見てないからなんとも言えないけれど……」


 勢い弱く話す私。

 するとミストが私の目前に迫ってきた。


「え? メテムさん、まだスタンド・バイ・ユー見てないんですか? 信じられない。あの悲劇を見てない人がブルージュにいるだなんて。こんなところで寝っ転がってないで是非今日の夜の部で見て下さいよ。なんならチケット私今から抑えましょうか?」


 ですって。


「いや、ミスト、気持ちはありがたいけれど、私はいいよ。恋愛ものはあまり好きじゃないんだ」


「んも~、いつもいつも戦ってるか、ここで牛みたいに寝っ転がってるばかりじゃないですか。たまにはこういうの見て涙を流さないと……」


 おまえね、牛みたいって……。


「分かった。分かったよ、ミスト。今度暇があったら見に行くよ」


「本当ですか? じゃ、今度二枚分抑えておきますね!」


 やれやれ。


「でもメテムさん、もう結末知ってる前提で話しますが、離れ離れになった男を、お互い信じ続けて待つってのは本当に難しいですよね。真実の愛って口に出すと簡単だけど、実際はとてもできないなと思いました」


「確かに疑心暗鬼になってしまうからね。それでも想うってのは本当に強い精神がないと難しいかもね。でもその域まで達した人がいるというのなら、人間として素晴らしいとは思えるよ」


「ですよね~、私もそんな恋愛してみたいな~」


「メテムにはそんな相手できないだろうね~」


 と、横から口を挟んだのはレモン。


「うるさいなあ、ほっといてよ」


 そんなくだらないやり取りを交わしながらマッタリしている私達。

 いつまでもこんな平穏が続けばよいのだけれど。

 そう願っていると、その想いをかきけすように何やら西の橋の方で歓声が聞こえてきた。

 一体なんだろう。

 スタンド・バイ・ユーの役者でも現れたのか。

 そう思って眺めていたら、人の群れをかき分けるように運ばれてきたのは役者ではなく、傷ついた様子の男女のペアーだった。

 男は皮鎧で身を固め、背中にはハルバードを背負っている。

 女の方はクラシックなメイジの装いで、魔法帽子を被りプレーンローブにマント、そして手には魔法書を抱えていた。

 両者ともその出で立ちから冒険者だと分かる。

 ただ二人共所々血がついていたり、鎧が切り裂かれていたりなどから、何かしらのアクシデントに見舞われたようだ。

 道中厄介なモンスターにでも襲われたのかもしれない。

 が、まあ今日の私は体を休めているだけなので、何か関わるつもりは一切ない。

 向こうから何か頼まれても断るし、自分から首を突っ込むなんてまっぴらゴメンだ。

 そう思い顔を逆の方に向けて横たわっていると、程なくしてその男女は治療院の方に運ばれたらしく、また街にはいつもの喧騒が戻った……。


 次の日も私は相変わらずブルージュ広場の草むらでゆっくりと体を休めていた。

 戦いを生業にしていると休める時は休めないといざという時うまく体が動かないからだ。

 目の前ではいつものように行商人がせわしなく露店を出している。

 そしてそれを目当てに多数の人々が行き交っていた。

 が、今日はいつもと少し様子が違うようだ。

 何やら街人の間でおかしな噂話が流れているのだ。


「よっ、メテムさん、例の話聞きました?」


 そう話しかけてきたのは果物売りの店員だ。

 ここは美味しいリンゴや桃をいつも売っているので、愛馬用によく買ってるうちにすっかり馴染みになってしまった。


「例の話って言うと、なんかはっきりとは分からないんだけど、どんな内容なの?」


 と、並び始めたリンゴを一つ手に取り答えた。


「それがね、昨日、狩猟都市イレヴィーから来たっていう男と女の冒険者がいたんですよ。で彼ら曰く道中の草原の中に荒んだテレポーターを発見したっていうんですよ」


「テレポーター?」


「そうみたいなんです。で、どうせ機能してないだろうと思って乗ったらなんと動いたらしいんです。で、動いた先にあったものというのが問題でして……」


「何? 一体何があったの?」


「それがですね、なんとダンジョンにつながっていたらしく、それがもう巨大迷路のように入り組んでいたらしいんですよ」


「巨大迷路?」


 思わぬ言葉が出てきたので、少し大きめの声を出す私。


「みたいです。それでちょっと進んだところでモンスターに襲われたらしいんです。慌てて引き返そうにも迷ったらしく、這々の体で逃げ帰ってきたんだとか」


「なるほど、それはどのへんにあったの?」


「さぁ~、細かいことは本人たちに聞いてください。ほら、治療院の方にまだいるみたいですよ」


 そう言って治療院の方に顔を向ける。

 なるほど、確かにこれは話を聞いてみる必要がありそうだ。


「ありがとう、早速行ってみるわ」


 私はリンゴの代金を手渡し、足早に治療院へと向かった。


 聞いたとおり治療院には二人の冒険者がいた。

 様子を見る限りそこまで重症でも無さそうだ。

 この分なら今日中にも開放されるだろう。

 少し迷った後、私は元気そうな戦士の男に声をかけた。


「こんにちは、私はメテム。あなたが遭遇したダンジョンについて話を聞きたいんだけど……」


「メテムだって? そうか、あなたが有名なシャニムのメテムか」


 私のことを知っていたのか、男はすぐに体を崩し緊張をとった。


「そう、私がシャニム指揮官のメテムよ。で、あなたが襲われた巨大迷路というのかダンジョンというのか、それについて教えてもらえない?」


「もちろんですよ。これはブルージュの人々にも関わってきますからね。僕達は、達というのは相棒のこいつの事ですが、二人でイレヴィーからブルージュに向かってたんです」

 

 そう言いながら、横で寝ていた女メイジのことを指差した。


「それで道中は街道を歩いていたのですが、途中で何かが空をはためいていたのを見たんです。最初は目の錯覚かなと思ったのですが、冒険者の性分気になっちゃいましたね、二人でその辺りを見に行ったんですよ。そしたらなんとそこに一匹の羽の生えた小さな魔物インプがいたんです」


「インプですって?」

 

 予想だにしない展開に思わず声が上がる。

 治療院にいた皆が私に視線をうつしたのが分かった。

 が、それを気にしないで私は続けた。


「インプだなんて、あのへんにそんなのは絶対いないはずよ。いえ、このレマート大陸においてはソロシーとかの一部ダンジョンを除いては見ることはないのよ。あなたの見間違いじゃないの?」

 

 私の大きな声に幾分慌てたのか、少し身を引きながら男は続けた。


「いや、メテムさん。僕達もそう思ったんですよ。でも実際インプが一人いたんです。これはまずいと思って二人で殺して、しっかりその死体まで確認済みです」


「インプがそこらの草原にいるなんて、そんなはずは無いと思うのだけれど……」


「そこで続きがあるんです。続きというか本題というのかな。僕達もインプがどこから来たのか気になったので、そこら辺を調べたんです。そしたらそこにあったのが……」


「テレポーターね」


「そうです。幾分荒んだものでしたがテレポーターが草原にあったんです。で、どうせ壊れてると思って二人で乗ってみたところ、これが機能してたようで、気づくとダンジョンにいたんですよ」


「なるほど、あの辺はとうに探索されているから、まだ未発見のテレポーターがあったなんて、にわかには信じがたいけれども。いいわ、続けて」


「はい、それでダンジョンなんですが、これが自然を利用していたようなものではなく、明らかに人工的なものでした。壁もしっかりしてるし、地面も整ってまして。ただ、聞いての通り構造が非常に複雑で、左右に分かれていたり三叉だったり、上行ったり下行ったりと本当に巨大迷路そのものだったんです。最初は何か宝が隠されているのではと思い興奮していましたが、途中から帰りの道を心配するようになり、一旦入り口まで戻ることにしたんです。で、帰りの道を進んでいる途中、羽の生えた魔人ガーゴイルに遭遇しちゃいまして、勝てそうにないので何とか命からがら逃げ帰ってきたというわけです」


 男はそう一気にまくし立てた後、喉が渇いたのか近くの机に置いてあった水を口に含んだ。


「この人の言っている事は間違いありません。メテムさん」


 男に変わって私に告げたのは、ベッドで横になっている女メイジだった。


「私達が欲を出しておいてなんですが、あれは放っておくといずれはあの近郊では魔物が住み着くようになるかもしれません。何とか早めに原因を探り解決した方が良いかと思います……」


「なるほど、事情はよく分かったわ。とりあえずその一帯を私達が調べてみるわ。解決できそうならしてみるから。まずはどの辺りで見たか地図で教えてもらえない?」


 そう答えると、二人の顔が和らいだのが分かる。

 そして男に地図上で位置をマークしてもらった。

 この位置なら馬で半日とかからずたどり着けるはずだ。

 二人に礼を言って、私は治療院を後にした。


 広場に戻ると、私はまずミストとレモンを呼んだ。

 二人共すでにこの噂話は知っていたようで、不安そうな顔をしている。


「ミスト、レモン。知っての通りこの問題は放っておくと結構大変な問題になるかもしれない。オーガやトロルならまだしも、インプやガーゴイルのように魔界の住人が出たとなったら、この国の治安が悪くなり混乱を招くだけよ。だから国を支えるシャニムの私達が解決するわ」


 そうやって二人に力強く伝えた。

 すると、意外なことに二人共ある程度予想していたようだった。


「そうですね、メテムさん。私達が解決しないと街の人達が安心しませんよね」

 

 いつもなら泣き言を言うはずのミストが勇気を出しながら返事をする。


「そうだよ、ミスト。その通り。よし、それなら準備をしよう」


 そう告げ、さて準備をしようとしていた私に、横から一人の人物が話しかけた。


「メテムー、俺だよハムだよ」


 それはシャニムの仲間ハムだった。


「ハムじゃないの、一体どうしたの?」


「ん? さっきからそこにいたぜ。てか巨大迷路行くんだろ? 俺もついてくわ」


 と、飄々とした態度で乗ってくる。


「え、本当? ネクロマンサーのあなたがついてきてくれるなら大助かりなんだけど、一体どうしたの?」


「うん、あのさ~、怪我した二人組、あれ俺の友達なんよ。だから仇討ちっつーの? まあそんなところかな」


 そう告げるとネクロマンサーの象徴でもある死神のマークが入ったスペルブックを握りしめた。

 これは思わぬ加勢が入った形になる。


「よし、それじゃ今回は四人で巨大迷路を攻略しよう。まずは各員準備を整えようか」


 そう言いながら私達はそれぞれ仕度を始めた。


「ミスト、秘薬は十分ある?」


 手元の鞄を漁りながら問いかける。


「はい、大丈夫です。ただ解毒用のキュアポーションがちょっと足りないですね。ヒールポーションならあるのですが。今からギルドハウスに取りに行くのも手間なんで、ちょっと露店で購入しましょうか」


「そうね。キュアポーションぐらい樽で売ってるでしょ」


 やり取りをしながら、私達は広場に集まっている露店を巡った。

 首都だけあってここの露店の品揃いは本当に豊富だ。

 地ビールやアップルパイなどの食料品から、魔法効果のついたバトルアックスや反射魔法がかかったミスリルフルプレートアーマーなど様々な物が売っている。

 が、今日用事があるのはそういった類の物ではなく、単なるキュアポーションだ。

 可能ならば樽で手に入れたいところ。

 が、何故かこの日に限ってポーション屋がそもそも出店していない。

 広い通りを往復してみたのだが、見当たらなかった。


「困りましたね、メテムさん……」


 少しうなだれた様にミストが言う。


「参ったね、こりゃ。まさかキュアポーションが売ってないだなんて」


「どうします? ギルドハウスになら大量に樽があるのでとってきましょうか?」


「う~ん、どうしようか……」


 そう困っていた所、先ほどの果物屋が話しかけてきた。


「メテムさん、何か探しもの?」


「そうなの。巨大迷路をさ、探索することになったんだけど、準備してたらキュアポーションが足りないのよ。だから買おうと思ったんだけど売ってなくてね……」


「そうだったんですかー、そういうことなら任せて下さい。確かあそこの雑貨屋が売ってたと思います。昨日店頭に出してましたから。ちょっと待っててもらえます?」


 そう告げると、果物屋が雑貨屋に向かい、二言三言交わすとこちらに手招きをしながら呼んだ。


「メテムさーん、ここにありますってー!」


 そう言われて雑貨屋に向かうと、店主が奥からオレンジの樽を持ち出してきた。


「メテムさん、探しものはこれかな?」


「そう、それそれ! 悪いんだけど樽ごと売ってもらえない?」


「う~ん、残念だけど在庫がもう殆ど無いんですよね。だから樽で売るのは無理なんです」


 そう渋る店主。


「そう言わずにさ、お金多めに払うから」


 と、拝むようにお願いする私。

 すると店主がこんな提案をしてきた。


「それならこういうのはどうです? 同じポーションでも爆弾のボムポーションが随分余ってて不良債権になってるんです。こちらを二十個程買ってくれたらキュアポーションを樽ごと販売しますよ」


「う~ん、ボムはギルドハウスに結構余ってんだよなあ」


「おねがいしますよ。長いこと売れずに困ってるんです。困ったときはなんとやら。ねっ、ねっ」


「ミストどう思う?」


 困ったようにミストに話を振る。


「こないだギルドハウス整理したんですが、まだまだ在庫あるんですよね。でも今ボム持ってないから、ここで買って巨大迷路に持っていくと何かの役には立つかもしれませんね」


 そうミストが答えると嬉しそうに店主が続けた。


「そうですよ、メテムさん! 備えあれば憂いなし。探検に出るならボムぐらい持たなきゃ。よーしついでに大サービスでボーラもつけちゃう。これも随分売れ残って……じゃない、良い品ですよ!」


「ボーラって……戦争に行くんじゃないんだからそんなん持って行ってもしょうがないでしょうよ……」


「そう言わずに、ほら、鞄に詰めておきますね。はい、毎度あり!」


 と、最後の方はもう半ば押し付けられるようにして購入する私達だった。

 というか本当にボムはともかく馬上落としアイテムのボーラなんて一体何に使うんだ。

 廃品回収じゃあるまいし……。

 そんなわけでようやく準備が整った私達は、ブルージュから軍馬にまたがり件のテレポーターへと向かった。


 テレポーターの捜索。

 それ自体はそこまで労力なく簡単に見つかった。

 事前に地図にマークしてもらったのが随分役にたった。

 懸念していたインプの群れだったが、こちらも幸いにして遭遇することはなかった。

 まだテレポーター越しにこちらには来てはいないということだろう。

 そうなると早く中に入って一掃しなければならない。

 各自それに気づいたのか、幾分重い空気が広がった。


「メテム~、探しものがあったね~」


 一人だけ気が軽いのはハムだ。

 場違いではあったが、存外こういう方が気が楽になる時もある。

 連れてきて良かった。

 私達は乗っていた軍馬を近くに放し、テレポーターに集まった。


「よし、んじゃ、一気に行くよ!」

 

 そう告げると、私達はそれぞれ乗り込んだ。

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