表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイナトリーの空の下  作者: メテム
悠久の時の流れに安らぎは眠る
13/14

第六話

 レモンのことを思い出したのは数日後の事だった。

 ミストが心配そうに聞いてきたからだ。


「メテムさん、レモンさん見ませんでしたか?」


 乗っていた馬から降りるのもそこそこに、ミストが開口一番に聞いてきた。


「レモン? 見ていないけど何かあったの?」


「いやこの数日ギルドハウスに顔出してなくて、心配だったから家まで行ったんですが、留守なんです」


「そうなの? まあ子供じゃないしどこか出かけてるんじゃない?」


「それならば良いんですが……。メテムさん、何か聞いてません?」


「いや、最後に会ったのは数日前だけど、特に変わったところはなかったよ」


「そうですか……」


 不安そうなミストを前に、この間会ったレモンの嬉しそうな顔を思い出す。

 あの時なんであんな幸せにしてたんだっけ。何か渡したような記憶があるなあ……。


「って、あ!」


「あっ?」


 思わず声をあげた私にミストが食いついてくる。


「そうだそうだ。レモンさ、あの別荘に行ったのよ」


「別荘?」


「そうそう、一週間ほど前ウミーシュの近くの隠れ別荘行ったの覚えてない?」


「ウミーシュ……。あー、あのクリスタル使って行くとこですか?」


「そそ。数日前レモンがクリスタル貸してくれって来たのよ。それで断るのも面倒だから貸してあげたの」


「え、んじゃもしかしてレモンさん、あそこにまだいるんですか?」


 不安げな表情をミストが浮かべた。


「んー、分かんない。さすがにあそこに数日滞在するってことは無いんじゃない?」


「となるとやはり何かトラブルに巻き込まれたんじゃ……」


「どうだろうね。特に危険は無さそうに見えたけど?」


「そうは言ってられないですよ。メテムさん、すぐ様子を探りに行きませんか?」


「いやミスト、残念だけど私達にはクリスタルがないから行く手立てがないよ」


「あー、クリスタル、レモンさんが持ってるんでしたっけ」


「そうだよ。まあでも全く手立てが無いわけでもないけれど……」


「え? そうなんですか?」


「うん。こないだ見て分かったんだけど、あのレッドクリスタル、多分ウミーシュにいるブラッドエレメントから作ってるんだと思う。だからブラッドエレメントのレッドクリスタルの欠片を集めて結晶化し、私が入り口のテレポーターに同調させたら鍵作れると思う」


「本当ですか?!?!」


「うん。でも言うほど簡単な事じゃないよ。同調させて鍵を作るのは相当な魔力量とセンスが問われるからね。そもそもホイホイ他人が作れたら鍵の意味がなくなるし。おそらくブルージュで作れる人物はほとんどいないんじゃないかな」


「さすがです、メテムさん! それなら早速ウミーシュへ行ってブラッドエレメント狩りましょう!」


「ま、ま、ま、ちょっと待ちな。おそらくもしレモンがあそこで何らかのトラブルに巻き込まれたのなら、悠長にウミーシュ行って欠片集めてる時間はあんま無いと思う」


「ならどうしましょう……」


「うん。それが幸運なことにも、さ。今はほら、あれの時期だろ?」


 片目をつぶり、ミストに笑顔を向けた。


 無名市はそろそろ終了の日が近づいていたこともあり、開催の時に比べ幾分か人通りが減っていたように見えた。

 しかしそれでも探しものをするのには十分な出店と人だかりだ。

 早速ミストと二手に別れて探しものを始めた。

 もちろんお目当てはブラッドエレメントのレッドクリスタルの欠片だ。

 欠片自体はそこまでレアなものでもない。

 確かに上位エレメントのブラッドエレメントを倒すのは相当難儀な話だが、狩れればある程度の確率で手に入る品物だ。

 問題は結晶化するのが非常に難しいため、あまり持ち帰る人がおらず流通していない事だ。


 一件目、二軒目と虱潰しに探す。

 が、やはり見つからない。

 時間を節約するためにすぐさま店主に聞いてみたが扱っていないようだ。

 ならばどこかで売ってないかと尋ねてみても、知らないとの事だった。

 それでもひと通り無名市を見て回ったが見当たらず、折り返し地点でミストと合流した。

 念のため聞いてみたが、やはりミストの方にも無かったようだ。


「メテムさん、困りましたね……。どうしましょう……」


「そうだねえ……」


 元々無名市にそんな都合よくあるとは思わなかったが、かと言ってどこかに当てがあるわけではなく、そして狩る時間も無い。

 正直八方ふさがりとはこの事だ。

 さて、本当にどうしようか……と探していると、横から声をかけてきた人物がいた。


「おや、メテムさん。何か探しものですか?」


 そう話しかけてきたのは、先日の騒動の張本人の商人だった。


「あら、その後はいかが?」


「はい、メテムさんのおかげで問題なく解決し助かっております」


「そうなの、それは良かったわ」


「それで、メテムさんはどうしたんですか? 何かため息をつかれてましたが」


「実はね、ちょっと色々あってレッドクリスタルの欠片を探しているのよ」


「レッドクリスタルの欠片? と言うとブラッドエレメントのですか?」


「そう。どうしても結晶化してクリスタルを作らなければならないのだけれど、なかなか売ってなくて……」


「なるほど、メテムさんなら確かに結晶化できますからね。それで結晶を探していると。よし、メテムさん、任せて下さい。まさしくうってつけの人物がおります。少しそこでお待ちを」


 そう力強く宣言すると商人は喧騒へと消えていった。


 しばらくして戻ってきた商人だったが、後ろに見覚えのある戦士が一人ついてきた。

 どこかで会ったのだが果たして……。

 と、訝しっていると後ろの戦士が話しかけてくる。


「メテムさん、先日はお世話になりました。ほら、こちらの商人と揉めていた者です」


「あー、こないだの!」


「そうです。エレメントスレイヤーの剣の者です。ブラッドエレメントのレッドクリスタルを探していると聞いてやってきました」


「エレメントスレイヤー、ってことはもしかして?」


「はい、エレメントの巣窟ウミーシュで狩りをしてました。もちろんブラッドエレメントも殺してたので、レッドクリスタルの欠片も十分に持っておりますよ」


「おぉ、渡りに船とはまさにこのことね。それでクリスタルを作れる分は都合つけてもらえて?」


「もちろんです! 前回のお礼をいつかしたいと思っていたところですから。ちょっと待っててくださいね。銀行の倉庫にいれておりますので」


 そう言うやいなや彼は銀行の方へ足早に向かっていった。

 慌てて追いかける私達。

 銀行で無事に合流した時には、すでに彼は倉庫を漁っていた。

 程なくして戻ってきた彼の手には一つの袋があった。


「お待たせしました、メテムさん。レッドクリスタルの欠片です。結晶化するには十分な量だと思います」


 そういって開いた袋の中を覗いてみると、赤く光るクリスタルの欠片が無数に積もっていた。

 なるほど、これならクリスタルぐらいは作れそうだ。


「たしかにこれは十分な量ね。っと、全部いただけるの? お幾ら?」


「いや、お世話になったメテムさんからお代をいただくわけにはいきませんよ。それに私は商人でも無いですからね」


 そう言って袋をこちらに押し付けてきた。


「そう、それは本当に嬉しいわ。色々とお礼をしたいのだけれど、ちょっと今トラブってて。また後日何らかの形でお礼をさせてもらうわ」


「お気持ちだけ頂いておきますよ。トラブル、解決すると良いですね。それでは」


 そう告げると彼はどこかへと歩いて行った。


「やれやれ、これで解決のようですね。私もそれではまた無名市へ行きますゆえ……」


 と、紹介してくれた商人もまた無名市の方角へと消えていった。


「無事に欠片が手に入りましたね!」


 後ろからミストが明るい声を出した。


「そうだね、まあ今回は運が良かったのよ。たまたまだもん」


「それにしたってメテムさんの日頃の行いが良かったからですよ」

「まあ、良いこともあるもんだ。さて、それではさっさとクリスタルに結晶化させて目的地へ向かいますか!」


 そう告げると、私達は第一広場を離れ、街の外れへと向かった。

 特に何かを目指しているわけではないが、結晶化させるには強い集中をしなければならない。

 喧騒あふれる広場前では都合がわるいのだ。


「さて、ここらで作ろう」


 手に持っていたスペルブックを腰に引っ掛け、代わりにレッドクリスタルの欠片を両手一杯に広げた。

 これだけの量があれば一つは作れるはずだ。

 万が一失敗しても、欠片の量から見てあと数回はチャレンジできる。

 そう思い幾分リラックスした状態で意識を集中させた。

 魔力の渦を手に起こし、欠片隅々にまで浸透させ、一度全てを溶かし再結合させるイメージを思い浮かべる。

 それをそのまま魔力に変換し、両手を閉じて一気に力を入れた。

 しばらく手一杯に熱いエネルギーを感じたが、やがてその熱も引いていった。

 そして手を広げてみると、そこには結晶化されたレッドクリスタルがあった。


「おぉー、さすがメテムさん。結晶化なんて初めて見ましたよ!」


「……いや、成功してよかった。というか疲れた……」


 正直結晶化に相当精神力をもっていかれ、かなり疲れていたのだが、今はそんなことで休んでいる暇はない。

 レモンの行方が気がかりだ。

 何とか力を振り絞って私はミストに一声かけた。


「よし、無事クリスタルも手に入ったし、急いで向かおう」


「はいっ!」


 勢い良く声を上げたミストに若干の元気をもらいながら私達はまたウミーシュの森へと向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ