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アイナトリーの空の下  作者: メテム
悠久の時の流れに安らぎは眠る
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第三話

 さて肝心の目的地だが、ざっと頭の中に入っている。

 ブルージュの北西にある山を一つ超えて、そこに広がる森林を通り、次の山沿いにあるダンジョンウミーシュのそばだ。

 もっとも地図が見えているのは私だけなので、レモンとミストには把握することが出来ない。

 まあ大雑把な位置は伝えてあるので距離感的なものは分かっているだろう。

 この分なら夕刻前には着きそうだ。

 三人共戦闘用の赤い軍馬に跨っているので馬の体力の心配もないだろう。


「メテムー、一体テレポート先には何があるのかな?」


 もう何があるのか待ってられないような口ぶりでレモンが話しかけてきた。


「知らないねえ。まあこれだけ純度の高いクリスタルを使ってるんだから、そりゃお宝がある可能性もあるだろうね」


「うひゃひゃ、楽しみー」


「でもレモンさん、その分危険だってあるかもしれませんよ?」


 ミストが口を挟む。


「大丈夫大丈夫。メテムもいるんだし、そういうのは三人で何とかしよう。あーどんなお宝があるんだろう」


 すっかりお宝のことで頭が一杯のようだ。

 こういうのを取らぬ狸の皮算用というのだが……。


 面倒臭いのでレモンをそのままにして進む。

 最初の山を通り越したところで一旦休憩を挟んだ。

 馬に餌を与える。

 様子を見て見るにまだまだ体力はありそうだ。


「メテムさん、目的地には何があるんですかね」


「なに、ミストまでそんな事言ってるの?」


「あぁ、いやいやそうじゃなくて、クリスタルを使う場所はどうなってるのかなって。そんな神殿とかテレポーターがあったんならとっくの昔に見つかってるはずですし」


「そうだねえ、神殿とかじゃないと思うけど、木の幹にカモフラージュされたテレポーターでもあるんじゃないかな」


「そうかもしれませんね。それなら探すのが結構手間ですねえ」


「大丈夫。一人尋常じゃないほどやる気の奴がいるから」そう思ってレモンを指差す。


「えっ? えっ? 何か言った?」慌ててレモンが振り返る。


「なんでもないよ。そら、目的地まで後半分。頑張っていこうか」


 そう言うと同時に勢いをつけて立ち上がり、私はまた愛馬に跨った。


 またしばらくの間馬を走らせる。

 広大な森林の真ん中を横切る。

 この辺りは地面もぬかるんでいるし、枝木が多いので馬だと若干移動が辛い。

 少し速度を落として進んだ。

 地面から跳ね返る泥のせいで馬の足が汚れてきたが、今は進むしかない。

 道中特にモンスターなどに遭遇すること無く進んでいるのがせめてもの救いか。

 それから程なくしてウミーシュのある山にたどり着いた。

 ここを山沿いに反対側まで向かうとエレメントの住まうダンジョンウミーシュに着く。

 おそらく、これは想像だが、このレッドクリスタルを作る際に狩ったであろうブラッドエレメントはウミーシュのブラッドエレメントではないか。

 何の気無しにそう思った。


 ウミーシュが近づいたことで、改めてクリスタルから地図を見直す。

 よく集中してみると地図が指し示している場所はウミーシュ側ではなく、今いる側の森林地帯だ。


「良かった」


 ウミーシュ側まで進まないで良いことが分かると思わず安堵の声が出た。

 その声を不審に思ったのか二人が顔を覗きこんできた。


「いや、何ね。場所がそろそろ近づいてきたってことよ」


「そうなんですね。正確にはどこらへんですか?」


「おそらく今いる側の森林のどこかよ」


「森林のどこかって、メテム、この広大の場所から探せっていうこと?」レモンが大声をあげる。


「まあそうなんだけど、そこまで中程じゃないよ。地図も山沿いに近いエリアを指してるし、そう遠いところじゃないはず」


「いやほら、問題は範囲以外にさ、何を探せばいいのか、何があるのか分からないのが問題なんじゃないの?」


「うるさいなあ。レモンが言い出したんでしょうが。とりあえず木樹の幹に何か無いか、地面にテレポーターが隠されていないか、頭上に隠された枝に入り口がないか、そういうのを注意して探そう。ここら辺だから各自散らばって効率よく探すように」


「はあ、分かったよ。んじゃ探そう」


 三方に散って散策を開始する。

 先ほどミスト達に言ったように、幹に魔法陣が組み込まれている可能性もあるし、地面に消えかけているテレポーターがあるのかもしれない。

 つまり注意深く全てを観察しろ、ということだ。

 やるしかない。


 そういうわけで散策を続けていったのだが、なるほど、これはレモンが不満の声をあげるのも分かる気分になる。

 そもそも無数の木樹が生い茂っていてどこまで見たのかがわからない上に、ちゃんとすべて観察できているかも分からない。

 あまり考えたくはないが、この純度の高いクリスタルを使う程のテレポーターなら感知できない程うまく偽装されている可能性もある。

 これならば偵察能力の高い仲間でも連れてきたら良かったかもしれない。


 散策を続けて小一時間ほど経ち、途方も無い作業に嫌気が差し掛かってきたところ、離れた場所から歓声の声が上がった。


「メテム――っ、見つけたよ――」


 意外にもそれはレモンの声だった。

 聞いて見る限りでは何かを見つけたようだ。

 慌ててミストと共に向かった。

 満面の笑みというよりしたり顔で待ち受けていたレモンの指し示す先には、幹にくぼみのようなものがある木があった。


「メテムさ、これじゃない? これにクリスタルを押し付けながらテレポートするんじゃないかな?」


「……レモン、驚いてるよ。まさにあんたが言ってるその通りだと思う」


「でしょでしょ~。もうなんて言うの? この財宝への執念が功を奏したというのかな」


「本当にあんたときたらその執念をもっと違う所に活かせば……」


「はいはい、とりあえずさ、行こうよ。先に!」


 もう一秒たりとも待ってられない勢いのレモン。

 それに押されるようにして私はクリスタルを軽く木の幹に押し付けた。

 ピッタリとハマるように合う。

 確かにこれはこの使い方であっているようだ。

 そして意識を集中して私はテレポートの魔法を唱えた。


 ……強い光に包まれ軽い浮遊感を覚えた先には、何があったか。

 財宝の匂いがする宝物庫や冒険に包まれたアビスなどではなく、それは果たして一軒の小奇麗な家だった。


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