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アイナトリーの空の下  作者: メテム
文官はいつも頭を悩ます
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第一話

「……であるからして、然る後に調査隊を率いてメテム様には事態の解明及び解決に尽力をお願いたいのです」


 目の前にいる文官の無駄に長い口上を聞きながら、私はこれで何度目か分からないアクビをした。


「ふぁ~~」


 度に文官が非難の目を向ける。


 仕方ないよな。

 もう言いたいことは分かってるし、後はお前が黙ってくれれば仕事をするっての。


 私の名前はメテム。

 リテン国の軍隊シャニムの総指揮官をしている。

 役割は様々で他国との戦争はもとより、国の治安維持から政治的な打ち合わせまで、色々やってる。

 で、今回首都ブルージュの城で退屈な話を聞いてる理由は、ざっくり言うと、最近リテン国内においてモンスターの動きが活発になり、その様子自体もおかしいので調査して欲しいって事らしい。

 まあ私が個人的なコネで聞いた限りでは、リテン国だけでなく隣の国々でも様子がおかしいみたいだけどね。

 早い話この世界アイナトリーのレマート大陸全体の問題のよう。

 まあこれを言うと各国との連携がどうたらと面倒なことになるから言わないけど。


「分かった、分かった。とりあえず部下と一緒にちょっと調べてみるよ」


 そうやって文官に向かって手をヒラヒラさせる。

 これで堅苦しい場所から出れる、そう思ってたところ、文官が何やら食い下がってきた。


「メテム様、メテム様、暫しお待ち下さい。今回の調査で同行させたい人物がいるのです」


「同行? 正直慣れた部下だけの方が楽なんだけど?」


「まあそう言わずに、少々お待ち下さい。我々より事情を知っていて、事態解決のお役に立つと思いますので。……デュラック、こちらに来なさい」


 文官が手招きをすると、通路からオズオズと一人の男の文官が出てきた。

 頭に被っている三角の帽子と茶色のガウンから察するにおそらく学者か。

 そう思っているとデュラックと呼ばれた人物が私に近づいてきた。


「は、は、はじめまして、メ、メ、メテム様。ととと、言っても、僕は、ちょくちょく貴女の事を、お見かけはしていました、が。た、た、ただ実際にお話するのは今回が初めてでして……」


 そのどもった言葉遣い、落ち着きのない態度、弱々しそうな体躯。

 あまりこういう感じの奴は性に合わない。


「そう。それで? なぜ貴方が私の旅にひっついてくるわけ?」


 誰が聞いても私が好感を抱いていない事は分かる様なぶっきらぼうな態度で応える。


「は、は、はい……、じ、じ、実は今回の事件で少し思うことがありまして……、も、もしそれが原因ならば、ぼ、ぼ、僕でも何らかのお力になれると思いまして」


「思うところ? それはどういうこと?」


「は、はい。私は見ての通り、普段は、いや、いつもですが、この城に勤務する学者なのです。で、あの、その、思うところと言うのはですね、あの、同僚の学者の事なのです……。同僚の名は、エ、エ、エドマンドと言いまして……。その、彼は、大変聡明な人間でして、専門は、国を守る、八徳の、研究をしております」


「それで?」


「で、その、彼ですが、実は、今、行方不明なんです」


「行方不明?」


 意外な展開と、そしてその話使いにイライラして大きめの声を私はあげた。


「っは、はい、すみません。で、ですね、彼の行方が分からなくなったのはですね、あの、時期的に今回、各所の治安が悪くなる少し前なんです。で、その、少し言い難いことではあるのですが……」


「何? もったいぶらないでお言いよ」


「はい。実は……彼は……頭はその、誰からも一目を置かれるほど、大変聡明なのですが、それ以上に、その、野心家でして、それでいて独善的で、なんと言いますか……」


「あまり人格的には尊敬できる人物ではないってことね」


「そそそ、そうです、そ、そ、その通りです。それで、ですね、彼が姿を消してからこんな事になっているのが、どうしても、その、気になってまして……」


「なるほど、事情は分かったわ。確かに貴方の言うとおりその彼が関わっている可能性はあるわね。でもそれで貴方が旅に同行するってのはどういう事? 今話はすでに聞いたし、一緒にいて他に何かの役にたつの? とてもそうは思えないけど?」


 当たり前の疑問をぶつけると、助けを出すようにして隣にいた文官が間に入ってきた。


「メテム様。こう見えてデュラックはなかなか博識でして、ご覧のとおり戦闘力は全く無いのですが、その知識は道中お役に立つ時もあるかと思います。そしてもしエドマンドが原因ならば、おそらくデュラックがいないと解決できない時もあるかと……」


「ふーん、そうなの。オツムの良い学者さんねぇ……」


 そう呟きながら改めてデュラックを見る。

 三角帽子にガウンというお決まりの恰好で、これまた学者の定番である黒縁メガネをかけている。

 少しだけ露出している肌は太陽を知らないんじゃ無いかと思うほど白く、ガウン越しに見る体格的はどう見ても外での調査は向いてなさそうだ。


「メテム様、ぼ、ぼ、僕は……あの、その、確かに実戦の経験は、一切ありませんし、そもそも、争いごととは無縁の世界に、生きております、はい。で、でも、調査に必要とされる知識は、要所要所でお役に立てられるかと、思います」


「随分自信ありげに言うのね」


「あ、いえ、すいません、そうではないです、すいません。で、で、ですね、例えば物質の成分の研究を私は担当しているのですが、アイナトリーで取れるクリスタル一つにしても、特徴は違いまして、道中もしそういうのを見つけられた、ら、適切な、助言が、できると思います。それに、他にも例えば小麦の成分とかでも、思いの寄らない、使い方が出来まして、空中に粉塵を適切に撒けば爆発させ……」


「ああ、もう、五月蝿いな。分かったよ、んじゃついておいで」


 いつ終わるか分からない彼の言葉を遮って、私は声をあげた。

 まあ足手まといならば、適当に放置しておけば良いだけだ。

 どうなろうと知ったこっちゃない。


「それではメテム様。こちらのデュラック、よろしくお願いします」


「はいはい、分かったよ。んじゃそろそろ行くよ。広場に部下を待たせてるんでね。ほら、デュラック、ついといで」


 そう言いながら私は踵を返して城を後にした。


 --


「メテムさーん、話って一体なんでした~?」


 広場に着くなり、人懐こい笑顔を浮かべて近づいてきたのは部下のミストだ。

 いつものように薄いピンクの魔法帽子にファンシードレスとマントを着て、手にはピンクの魔法書を持っている。

 その後ろにいるのは部下のレモンだ。

 こちらも白い魔法帽子に白いサーコート、黒いズボンと見慣れた服装だ。


「いやさ、最近何だか様子がおかしいから調査してくれって話よ」


「様子がおかしい?」


「そう、ほら、街でたまに聞くでしょ。モンスターが増えてきて、普段はこないような人通りのあるところにまで現れるようになったって」


「あー、そう言えばたまに耳にしますね」


「メテムー、それの調査ってこと? もしや僕も行くの? それ……」


 レモンが口を挟む。


「当たり前でしょ。他に何があってあんたらを待機させてたのよ」


「えー、明らかにダルそうな内容じゃん……」


「そう言わんと。今回はなんと助っ人がいるのよ。……ほら、挨拶して」


 私は背中でビクビクしているデュラックの背中を押した。


「み、み、皆さん、は、はじめまして。デュラックと申します……。普段は、し、城で物質の成分を研究している、が、学者です」


 そう言うとデュラックは頭をペコリと下げた。


「デュラックさん、はじめましてー。メテムさんの部下のミストですー」


「同じく部下のレモンですー」


「さ、自己紹介はとりあえず手短にして、デュラック、あんたさっき気になる話をしてたけど、そこ教えてよ。エドマンドが原因だとどうしてあんたがいる必要があるわけ?」


「エドマンド? メテム、悪いんだけどさ、僕達にも分かるように一から説明してくれない?」


「ああ、ごめんごめん。いやほら、今モンスターの様子がおかしいじゃん? で、このデュラックの同僚で頭は良いけど性格が悪いっていうエドマンドってのがいるのよ」


「頭は良いけど性格が悪い……ってエドマンドはメテムという説があるんだけど?」


「レモン、次ふざけたこと言ったら、その白いサーコートが赤いサーコートになるよ?」


「ひぃ」


「で、そのエドマンドってやつが失踪したのよ。理由は分からないし、自分から姿を消したのか、事件に合ったのかは分からないけどね。で、それからしばらくしてモンスターの様子がおかしくなった、と」


「そ、そ、そうです、そうです。その、彼、エドマンドは、先程メテム様には、つつ伝えましたが、八徳の研究をしておりまして……」


「八徳、つまりアイナトリーを支える八つの徳よね。それの何を研究してるの?」


「は、はい。御存知の通り、八徳はアイナトリーの根源にある概念でして、そ、それは、世界のバランスを、公平に、安全に、円滑に、保つ、とても大切な、ものです。そして、皆さんも幾度も目に、し、したことが、あると思いますが、ここ、レマート大陸にも、八徳を表す、八つの神殿が、あります、はい。で、もしエドマンドが、何かをした結果今の状況があるのならば、それは神殿に、何かしら細工をしたという、可能性が、あるんです」


「神殿に細工?」


「は、はい。神殿の神聖文字を改変するとか、ほ、他にも、アンクに対して何らかのアクションを、加えるとか、です」


「神聖文字を改変する? そんな事できるの?」


「は、はい。通常だと、も、もちろん、出来ません。そそそ、そんなことが容易に、できるのならば、神殿に護衛をつけず置いておくのは、それは、とても危険なことになるでしょう。で、でも、エドマンドならば、八徳を研究しているので、知識としては、可能だと、思うのです。他にも必要な、もも、ものがあります、が」


「必要なもの?」


「知識では分かっていても、書き換えや、細工をするには、高い魔力が、必要です。現在リテン国で最高の、魔力をもっているのは、間違いなく、貴女、メテム様であるのは、疑いようのない事ですが、そこまで出なくても、知識があれば、可能なのです」


「なるほど……そういうことね。なら私達がまずやることは……」


「は、はい。八徳の、神殿を、全て回って、チェックすること、です」


「そのようね。よし、それなら準備して皆で一からチェックしてみようか」


「了解です!」

「了解――」

「が、が、が、頑張りましょう!」


 三人の返答を確認し、私は準備のために銀行の倉庫へと向かった。


 --


 倉庫に着いて物資を用意する。

 今回は調査だけでなく、原因解決をしなければならない。

 モンスターとの戦いや、もしかしたらエドマンド絡みで対人戦も予想される。

 その為、秘薬やポーションを多めに持っていく事にした。

 食料も必要最低限はいるだろうが、足りなければ近くの街で買うなり、味気ないがクリエイトフードの魔法を使えば良い。

 物資の準備ができ、私は改めて自分の装備を確認した。

 白いマスクに、白い皮ブラ、黒い皮スカートと皮手袋、それに黒いサンダル。

 軽装でとても戦闘用には見えないが、それぞれ一級品の魔力が込められている。

 特に私のトレードマークとも言えるマスクには、見るものを威圧させる特殊な効果がある。

 総指揮官として戦争をする身にとっては最適な装備だ。

 特に綻んでいるところもなく、抜かりは無い。


「ミスト、レモン、準備は出来た?」


 隣にいる二人に目を向けると、すでに準備はできているようだ。


「大丈夫です。私たちはメテムさんが城にいる間に支度をある程度してたので、もう準備できてるんですよー」


「おっ、それはなかなか殊勝な心がけね。助かるわ。デュラック、あんたはどう?」


 今度はデュラックに目を向ける。


「は、はい。ぼぼ、僕も大丈夫です。と言っても、見て分かる通り、戦闘は、全く、出来ません。準備といっても、水と食料ぐらいなもんです」


「上等上等。戦いは私たちに任すのでいいわ。よし、んじゃ行きましょうかね。最初の神殿は、どこを当たる予定なの?」


「は、はい。ここからなら、南西の方角に霊性の神殿があります。他に北東に慈悲、です。どちらも距離は似たようなものですが、慈悲の、近くには、ほほほ、他にカオスと正義が、あ、あります。な、なので……」


「慈悲を巡って、カオス、正義、ね?」


「そ、そうです」


「了解よ。よし、んじゃ皆、とりあえず慈悲の神殿へ出発行こう」


「おー!」

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