第三十七話目~モーニング・シカゴ・ホットドッグ~
翌日。ディシディアと良二はホテルで身支度を整えていた。先に準備を整えたディシディアは服の裾を手で伸ばしながらソックスを履こうとしている良二に問いかける。
「リョージ。今日はどこに行こうか?」
「まずは、ここですね」
彼が示すパンフレットには『ミレニアムパーク』という文字がある。見た感じ、かなり有名な観光地であるようだ。
ディシディアは首肯し、耳にかかる髪の毛を手で払ってみせる。
「よし。もう私は大丈夫だよ。そっちはどうだい?」
「俺もいいですよ。行きましょうか」
良二はポケットに鍵を入れ、それから部屋を後にする。続いたディシディアもポーチを肩にかけて廊下へと躍り出た。良二は彼女のワンピースの裾がひらりと翻るのを視界の端に納めてから、静かに鍵を閉めて再度荷物があることを確認する。
なにせ、慣れぬ海外旅行だ。用心するに越したことはない。パスポートなどの身分を証明するものはキチンと持っているし、財布だってある。これなら大丈夫だろう。良二はひとり頷いてからエレベーターの方へと向かっていった。
「ほら、リョージ。君の分だ」
ディシディアが手渡すのは、ペットボトルに入れられたミネラルウォーターだ。昨日、ブリトーが食べられずにコンビニで買った夕飯の残りである。良二は受け取ったそれでのどを潤してから、エレベーターのボタンを押した。
「今日は美味しいものが食べられるといいですね」
「いや、昨日のブリトーも美味しかったのだが……やはり、辛いものは苦手だ」
エレベーターに乗り込みながら、ディシディアがバツが悪そうに頬を掻く。それを見ていた良二は顎に手を置き、難しそうな顔になって首を捻った。
「でも、ピリ辛クラスなら食べられるんですよね……」
以前、親子丼などに七味や一味をかけているのは見たし、辛いもの全てが無理というわけではなさそうだ。だが、わさびやサルサソースのように辛さが主体になってしまうとどうしても食べられないらしい。
ディシディアは昨日のサルサソースの刺激を思い出してしまったのかブルリと身震いし、それからごほんと咳払いをしてみせた。
「まぁ、徐々に慣れていくさ。それに、他にも食べるものはたくさんあるんだからね」
その言葉に良二は大きく頷いて見せる。苦手と分かっているものを、無理して食べる必要はない。しかも、今回の旅の目的は観光だ。仮に無理をして何か不調が出ればそれこそ本末転倒である。
「さて、それでは行こうか」
やがて、チーンッというチープな音と共にエレベータのドアが開かれ、二人はロビーを通って外へと歩み出た。
アメリカの朝は予想以上にひんやりとしている。ディシディアは自分の肩を抱くようにしながら、道路へと目をやった。昨日運転手に言われたとおり、タクシーを使うことに決めたようだ。
「よし、あれでいいか」
ディシディアはちょうど反対の道路に止まっているタクシーに目をつけ、そこへと歩いてく。と、中にいた黒人男性は頬張っていたハンバーガーを助手席に置いてドアを開けてくれた。
「どちらまで?」
「ミレニアム・パークまでお願いします」
《自動通訳》の保護を受け、コミュニケーションが十分に取れるようになった良二がどこか自慢げに言う。運転手はそれに頷きエンジンをかけ、タクシーをゆっくりと発進させた。
「それにしても、お早い出発で」
運転手がそう言うのも無理はない。なにせ、今の時刻は午前八時。まだ人通りも少なく、車だってほとんど見えない。だが、これこそが二人の狙いだった。
「えぇ。早めに起きた方が色々と楽しめるかと思いまして」
実際、観光地というのは中々に混む。そのため、その場所に近づいていくにつれ交通量は増えていき最悪渋滞に巻き込まれてしまうのだ。が、早めに出ておけば多少は違うし、浮いた時間で別の場所を回ることもできる。それを計算しての早起きだ。
まぁ、二人は元々早起きをする性質である、というのも関係しているのかもしれない。
「あ~……そうだ。悪いけど、音楽かけていいかい?」
「どうぞ」
「ありがとよ」
運転手はポケットからスマホを取り出して音楽をかけ始め、それは付属のスピーカー越しに良二たちにも届いてくる。アップテンポで、かなりノリのいいナンバーだ。体を目覚めさせ、高揚感を与えてくれる。
膝でリズムを取りながら、運転手は食べかけのハンバーガーをむしゃむしゃと食べ始めた。日本ではまず考えられない光景に、良二は唖然としている。
が、そこでディシディアがふっと口元を緩めた。
「リョージ。カルチャーショックこそが旅の醍醐味だよ」
「わかってますよ。まぁ、俺も嫌いではないです……いや、むしろ好きですけどね」
クスクスと顔を見合わせている二人を見て、運転手がカラッと快活な笑みを浮かべた。
「ずいぶん仲がいいんだな。今日はこれから観光かい?」
「あぁ。色々と回ろうと思っているんだ。あまり遅くならない範囲で、ね」
「なるほど。んじゃ、任せときな」
運転手はビッと親指を突き立てたかと思うと、ガゴンと勢いよくギアを入れた。
さらに次の瞬間にはハンドルを右に切り、さらに人通りの少ない路地へと入っていく。道端にはゴミが散乱し、壁にはギャングたちが描いたと思われるグラフィティ・アートが散見される。
「だ、大丈夫でしょうか……」
声を震わせるのは良二だ。平和極まりない日本での生活になれた彼からすれば、ここはさぞ異質に映ることだろう。が、そんな彼とは対照的にディシディアは腕組みをして堂々と構えている。
「そう焦るな。見たところ、悪い御仁じゃなさそうだ。それに、ほら」
彼女が前方をスッと指さす。良二がそちらを見るころには、すでにタクシーは無事大通りへと出ていた。
タクシーはその後も順調に進んでいき、やがてある場所でピタリと動きを止める。右の方にはすでにミレニアム・パークが見えている。道いっぱいに木々が植えられ、まるでアーチのようになっていた。
運転手はハンバーガーの包み紙をくしゃくしゃと丸めた後で、クルリと後方を振り返ってきてニッコリと人当たりのいい笑みを浮かべた。
「ほい、着いたぜ」
「どうも。では、これを」
ディシディアは代金とチップを渡す。流石に今回は金貨を直接渡すことはなく、代金の一割だ。
「じゃあ、行こうか」
「あ、はい……」
良二はディシディアに手を引かれるまま車外に出て、去っていくタクシーを見つめる。
(近道してくれていたのか……てっきり、怖い場所に連れていかれるのかと思った)
良二がそう考えてしまうのも無理はないことだろう。実際、タクシーに乗ったら見知らぬ場所に連れていかれて法外な額の品物を買わされたり、最悪身売りされたりするという事例もあるのだから。
だが、それはあくまでも何万とある旅行者の体験談の中でも一部であるし、悪いものばかりが取り上げられがちなのも仕方のないことだ。今回に限っては、そんなことは全くない。運転手は善意で、近道をしてくれたのだ。
(少し、悪いことしてしまったな……)
最後に運転手が見せてくれた人当たりのいい笑みを思い出すたび、胸の辺りがズキリと痛む。良二は唇の端を噛み締め、険しい表情になっていた。
「リョージ。そう気に病むことはない。たぶん、あちらも気にはしていないよ」
その様子をいち早く察したディシディアがフォローに回る。彼女は年相応の落ち着きを見せながら、ゆっくりと息を吸った。
「見知らぬ場所では誰しも不安になるものさ。疑心暗鬼になってしまうのも致し方ない。それに、もう過ぎたことだ。後悔するよりも、次に活かしなさい。いい勉強になったと思って……さ」
「……ですね。ありがとうございます」
「それに、せっかくの旅行だ。楽しもうじゃないか」
ディシディアはパァッと花の咲くような笑みを浮かべながらそう答え、先をトコトコと歩いていく。木々のアーチをくぐる風は心地よく、こちらの心までも優しく解いてくれるようだ。
良二はため息交じりに空を見上げてから口の端を歪め、ディシディアの後を追っていく。彼女は右の方を見やりながら、耳を千切れんばかりに上下させていた。
「リョージ。あれが、例の奴かい?」
彼女が指さす先にあったのは――巨大な銀色のオブジェ。ともすれば、豆のようにも見えるものだが、その認識は間違っていないだろう。
正式名『クラウドゲート』――通称『ザ・ビーン』。市民たちからは『豆』という愛称で親しまれている前衛芸術のオブジェだ。
観光客の姿は見られるが、朝早く来たことがよかったのかまだそこまで多くはない。二人はすぐさまビーンへと歩み寄っていく。
だが、ビーンはこちらの遠近感を狂わせるほどの大きさを持っている。ディシディアたちは近づくにつれますます威圧感を放つそれを見て、感嘆のため息を漏らした。
「素晴らしい……ッ! なんて美しいんだ……ッ!」
全面が銀色のビーンは空の模様までも如実に映し出す。青く広々とした空、ふわふわと空を揺蕩う白い雲、そして日本と同じように万人を優しく照らす太陽――それらが映し出される様はまさしく人工物と自然物の共演とでも呼ぶべきものだ。
「あぁ、これだけでも見に来た甲斐があったよ。すごく綺麗だ」
近くに寄り、そっとビーンに触れるディシディア。ひんやりとしていて、とても心地よい。
「む?」
と、そこでディシディアは弧を描いたビーンの下――トンネルのようになっている部分に人だかりができているのに気付いた。どうやら、そこで写真を取っているようである。
「リョージ。私たちも写真を撮ってみないかい?」
「いいですね。やりましょう」
それを断る理由もない。良二は即答し、彼女と共にビーンの下部分へと歩み寄った。
天井部分は高く、ディシディアではとてもじゃないが届きそうにない。それを見上げる形になりながら、ディシディアはちょいちょいと良二を手招きした。
「さて、それじゃ撮りましょうか」
良二はポケットからスマホを取り出し、それから周囲の人々の様子を伺う。撮り方は人それぞれだ。天井にスマホを向けている人もいれば、横の壁に近づいて平行にスマホを構えている人だっている。だが、特に目を引くのはスマホを下に構えている人たちだ。
自分たちと、その上に映るビーンを映せる撮り方らしい。とりあえず、良二はそれを真似することにした。スマホのカメラをインにし、自撮りができる体制を整える。それからディシディアの腰のあたりに手を置いてグイッと引き寄せ、自分の身体と密着させた。
「ふふ、情熱的なお誘いだね。もしパーティーで今みたいにリードされていたら、ときめいていたかもしれないよ」
「ハハ、それはどうも。ほら、撮りますよ。笑ってください」
良二が語りかけるとディシディアはスマホの方に目をやり、ニパッと笑ってみせた。良二もつられて笑い、シャッターを押す。数秒遅れて、パシャリという音。
「よし、ちゃんと撮れていますね」
スマホの画面には満面の笑みを浮かべている良二とディシディアの顔がある。どちらも幸せそうな顔だ。ディシディアもやや背伸びをしてスマホを見やり、ほぅっとため息をついてみせる。
「いいじゃないか。では、次は……リョージ。ちょっといいかい?」
彼女はアーチ状になったビーンの付け根にゴロンと寝転がってみせる。するとビーンに彼女の姿が映し出され、まるでディシディアが二人いるように見えた。
「ほら、撮ってくれないか? 頼むよ」
地面に横わたるディシディアがピースを作るとビーンに映し出されているディシディアもピースを送ってくる。良二はスマホをサッと構え、シャッターを押した。先ほどと同じくシャッター音が鳴り響き、彼女の姿がスマホに納められる。
「どうだい? ちゃんと撮れたかい?」
服に付いた汚れを手で払いながらディシディアが歩み寄ってくる。と言っても、流石は観光地。清掃はキチンとされているらしく不潔な感じはまるでしなかった。実際、ディシディアのワンピースはほんの少ししか汚れていない。手で払えば、簡単に綺麗になるレベルである。
ディシディアは良二のスマホを覗き込んで、ニッコリと笑みを作ってみせた。
「うん。いい感じだね。リョージはどうする?」
「じゃあ、俺もお願いします」
良二はディシディアにスマホを渡し、自分も地面に横わたる。日陰になっているからか、地面はひんやりとしていて心地よい。良二はその感覚に身を委ねながらもピースサインと笑みを浮かべてみせる。
「では……」
ディシディアは少しもたついたものの無事にシャッターを切り、安堵のため息を漏らす。画面には楽しげに笑っている良二の姿が映し出されていた。
「じゃあ、次はどうします?」
「そうだね。水族館に行ってみないかい? 昨日、オススメしてもらったんだ。行ってみるに越したことはないだろう」
「それもそうですね。じゃあ、またタクシーを拾いますか」
「あぁ。だが、まだまだ時間はある。もっとこれを見ていこうじゃないか」
ディシディアは近くにあるビーンをぺちぺちと手で叩いてみせる。良二もそれに頷きを返し、一度アーチの下から抜け出して再び全貌を見つめた。
銀色のオブジェは日光に照らされ、神々しく輝いている。そこには大勢の人が集まっており、みんなスマホを構えて写真を撮っていた。
こういったものにありがちな『接触禁止』の札もない。観光客が積極的に楽しんでくれるのを望んでいるのだろう。なんにせよ、ありがたいことだ。
「ふぅむ……それにしても、これを作るのは相当手間だったろう」
ビーンの外周を歩きながら、ディシディアがそんなことを呟く。金属を加工するだけでも大変だっただろうし、これほど大きなオブジェにするのも一苦労だっただろう。だが、だからこそ人々は惹かれるのだ。
ディシディアはビーンを一瞥した後で後方を見やった。そちらには階段があり、そこを下りれば広場がある。パラソルがいくつも張られ、その下には机と椅子がセッティングされている。周りにはいくつかの飲食店がある。
どうやら、ここはビアガーデン、もしくはフードコート的な場所なのだろう。だが、まだ開店していないらしく人の姿はない。それを見たディシディアはガックリと肩を落とした。
「まぁ、こんなこともありますよ……って、ほら。あそこ、屋台みたいなのあるじゃないですか」
良二が指差す先は、先ほどディシディアたちがやってきた方――出入り口付近だ。そこに、小さな屋台がある。ディシディアはそれを見るなり目を輝かせ、良二の方を見やった。
当然、返す言葉は決まっている。
「行きましょうか?」
「あぁ!」
ディシディアはそう答え、一目散に屋台へと駆け寄っていく。どうやら、そこでは軽食を販売しているようだ。若い店員は近寄ってくるディシディアに気づくなり、愛想のいい笑みを浮かべる。
「いらっしゃい。美味しいから食べていってよ」
「もちろん! オススメは?」
店主はディシディアとその隣にいる良二を見た後でポンと手を打ちあわせた。
「あんたたち、観光客だろ? だったら、シカゴ・ホットドッグがお勧めだよ」
「では、それを頼むよ。飲み物も、何かあれば」
「りょーかい。ちょっと待ってて」
店主は非常に良い手際でホットドッグを作っていく。その鮮やかな腕前に、二人はまたしても舌を巻いた。
それを上目づかいで眺めていた店主は照れ臭そうに頬を染める。
「そう驚いてもらえると嬉しいなぁ。じゃ、ちょっとだけサービスを」
そう言って店主が取り出したのは、パンからはみ出してしまいそうなほど大きなピクルスだ。それを豪快にパンにはさみ、サーブしてくれる。
「これが……シカゴ・ホットドッグかい?」
見た目は日本でよく知られているホットドッグとはまるで違う。ポピーシード――芥子の実がまぶされたパンに太いソーセージが一本丸々入っている。さらに、みじん切りにされた玉ねぎとスライストマトがたっぷりと入れられていた。
もちろん、先ほど入れてくれたピクルスの存在感は半端ではない。キュウリなども入っており、全体的にヘルシーな感じだ。
「さぁ、食べてみてよ。はい、飲み物ね」
店主はこれまたアメリカサイズの巨大な紙コップに入れたコーラを寄越してくれる。ディシディアはやや戸惑っていたようだったが、おそるおそるホットドッグを口に入れた。
パンはしっかりとした風味と歯ごたえを残しつつ、中に挟んだ具材の旨みを一片たりとも逃しはしない。断面に塗られたマスタードはまろやかで、辛さは強くないからディシディアでも美味しく食べられる。しかし風味は抜群で、他の素材を引き立てる名わき役としての側面は失われていない。
ソーセージはパリッとした感触ではなく、歯を入れるとすぅっと切れる感じだ。が、肉の旨みは確かに感じられる。
ただ、シカゴ・ホットドッグにおいてはソーセージよりも野菜たちの方に重きが置かれている。野菜はどれも瑞々しく、それでいてすべて違った食感が楽しめる。
玉ねぎはシャキシャキとしていて舌に心地よく、キュウリはコリコリとしていていいアクセントになってくれる。トマトはジューシーで、皮には張りがあった。
これらの野菜の甘みが濃厚な肉汁とまろやかなマスタードによく合う。さらに、そこで力を発揮するのが先ほどのピクルスだ。
日本では名わき役として知られるピクルスだが、今回に限っては主役級の役割を与えられている。長さもソーセージ以上で、強い酸味が味をキュッと引き締めてくれる。上にかけられたセロリシードがスパイシーさを倍増させ、ピクルス本来が持つ食欲増進作用をグンと高めていた。
しかもこのホットドッグがコーラと非常にマッチするからたまらない。ごくごくとコーラを飲み、続けてホットドッグにかぶりつけばとてつもない満足感だ。ディシディアは目を細めながら静かに息を吐く。
「どうだい? 美味しいだろう?」
店主はニコニコとしながら語りかけてくる。ディシディアは口の中のものを嚥下してから、こくこくと何度も頷いた。
「あぁ。正直、驚いたよ。何というか、すごく食べやすい一品だな」
「だろう? シカゴのホットドッグはヘルシーさが売りなんだ。朝でも食べやすいし、ダイエットにももってこいだからね」
店主は一息ついた後で、腰に手を当てて辺りを見渡した。彼はしばらくした後で、満足げに鼻を鳴らす。
「うん。今日は晴れそうだからいい旅行日和だと思うよ。二人は、これからまたどこかに行くんだろう? なら、いっぱい楽しんでくるといい。シカゴは楽しいところがいっぱいだからね」
「ありがとう。では、リョージ。行こうか」
「あ、待って。ドリンクを補充してあげるよ」
彼は良二たちが持っていた紙コップを受け取り、そこに再びドリンクを淹れてくれる。だが、ディシディアは少しだけ申し訳なさそうにしていた。
「いいのかい? なんだか悪いな……」
だが、店主は肩を竦めてふふっと笑う。
「いいんだよ。ここまで大きなリアクションをしてくれるお客さんは滅多にいないからね。やっぱり、自分の料理を美味しく食べてくれる人は嬉しいんだ……はい、これ」
「ありがとうございます。大事に飲みますね」
良二は彼から紙コップを受け取り、それからぺこりと頭を下げた。店主はひらひらと手を振り、それからパチリとウインクを寄越す。
「それじゃあ、楽しんで。よい旅を」
「ありがとう。それでは」
ディシディアたちは彼に別れを告げ、まだ残っていたホットドッグをむしゃむしゃと食べつつ歩いていく。
「うん。やはり、食べ歩きというのはどこの国でもいいものだね」
コーラでのどを潤したディシディアの言葉に良二は首肯し、ホットドッグを嚥下した。
朝の日差しが木々の隙間を抜けて差し込んでくる。その中をホットドッグとコーラを飲みながら悠々と歩く――これほどの幸せな時間はそうあるまい。
二人は辺りの様子を眺めながら、仲良く肩を並べて歩いていった。