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第百三十話目~スープカレー・カムイ~

 電車を降りて駅の構内を歩いていく。平日だというのに、かなりの人だかりだ。良二たちはその間を縫うようにしながら、先へと進んでいく。


「大丈夫ですか、ディシディアさん」


「あぁ、大丈夫だよ。心配するな」


 後ろを振り返ってキチンとついてきているか確認するとキュッと手を握られ、ニコリと笑いかけられた。過保護すぎる、とでも思われているのだろう。けれど、万が一はぐれたら大問題だ。多少過保護でも、大事に至らないならそれが一番だ。

 二人は改札口を抜け、地上への階段を歩いていく。その途中で、ディシディアが隣に並んできて興奮気味に手を握りしめながら問いかけてきた。


「今から行く場所はどんなところなんだい?」


「日本でも有数の観光地ですよ。まぁ、浅草とはちょっとベクトルが違いますが」


 その言い方にどこか引っかかりを覚えたが、彼女はフルフルと首を振って考えを打ち消しチラリと上を見やる。すでに出口は見えており、日の光が差し込んでいた。

 彼女はトントンとリズミカルに階段を二段飛ばしで駆けあがるや否やハッと息を呑む。

 良二も遅れて彼女の隣に並び、眼前に広がる人の群れを見て頬をひくつかせた。

 今、彼らがいる場所は秋葉原。オタクの聖地であり、大勢の観光客でにぎわう名所である。

 一応昼間とはいえ、今日は平日だ。だと言うのに、かなり多くの人たちがやってきている。大学が終わった後すぐに来ていると思わしき男性たちや、はたまた観光で来ているらしき人たちまで様々だ。やはり、それだけ人気があることが伺える。


「おぉ……すごい賑わいだね」


「まだまだですよ。中心街の方に行けばもっとすごいです」


 言いながらディシディアと一緒に歩いていく。彼女は見慣れぬ置き物や店などを見ては目を輝かせていた。時間さえあればすぐにでも入りたいに違いない。そんな顔をしていた。


「今日無理して回る必要はありませんからね。のんびり行きましょう」


「あぁ。ところで、今日はどうしてここに来たんだい?」


「ちょっと携帯の充電器が壊れたので、新しいものを調達に」


「ふむ。なら、別に近場でもよかったんじゃないかい?」


 確かにその通りだ。携帯の充電器はどこで買ってもほとんど同じである。店員たちのサービスには違いがあるかもしれないが、だからと言ってここ――秋葉原までやってくる必要はこれっぽっちもないのだ。

 が、良二は照れ臭そうに頬を掻き、ふいと視線を彼女から逸らした。


「だって、せっかくならディシディアさんとお出かけしたいじゃないですか……」


 それは小さく蚊の鳴くような声だったが、ディシディアの耳にはちゃんと届いていた。彼女はしばし唖然とした様子で立ちすくんでいたが、ややあってにやぁ~っと顔を緩ませる。


「なるほどね……うふふ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。君は女性を喜ばせる術を知っているね。いいことだ」


 ディシディアは腕組みをしてニヤニヤと良二の顔を見つめていた。一方の彼は本心を引き出されたことが恥ずかしかったのか、まだ目を合わせようとしない。たまにチラチラとこちらを見てきて、目が合いそうになるとハッとして逸らすのだ。

 それが面白くてディシディアがコロコロと楽しげに笑いをこぼしていると、信号機を渡ったあたりで突然良二が後ろに回り込んできて彼女の目を覆い隠した。予想外の彼の行動に、ディシディアは戸惑いを隠せない。


「りょ、リョージ? や、やめないか」


 突然視界が暗闇に包まれた恐怖からか、はたまた彼を怒らせてしまったのかという不安からか、彼女は上ずった声を漏らした。けれど当の良二は怒ったような素振りはなく、ただただ真剣な声音で告げる。


「絶対に目を開けちゃダメです。たぶんディシディアさんには刺激が強いですから」


 などと言いつつ彼はディシディアを誘導していく。が、今の一言は完全に余計だった。

 見るな、と言われれば見たくなるのが普通の感覚だ。ディシディアは何とか良二の手を払おうとし始めるが、彼がそれを許さない。


「ダメです。見ちゃダメです!」


「いいじゃないか、見せてくれ。それに、前が見えないと危ないじゃないか。離し……」


 と、言いかけた直後、彼女の体がガクンとつんのめった。彼女は悲鳴すら漏らすことができず、前のめりに倒れていく。


「ディシディアさん!」


 良二は咄嗟に彼女の体を抱きとめようとする――が、


「っと、危ない」


 ディシディアはするりと彼の手から逃れ、十分な距離を取ったあたりでいたずらっぽく舌をぺろりと出してきた。ハメられたことに良二が気づくよりも早く、彼女は前方を向き直り――キョトンと目を丸くした。


「あぁ……やっぱり……」


 良二はガシガシと髪を掻き毟る。彼女の視線の先にあるのは――大型アダルトショップ。いわゆる、大人のおもちゃが置いてある場所だ。店頭には際どい水着を着た女性のポスターが貼られているなど、かなり過激な様相をしている。

 ――しかしディシディアはと言うと……。


「これを見せたくなかったのかい? 別に隠すものでもないだろう」


 と、腰に手を当てながらあっけらかんと告げた。思わぬ反応に、良二は目を見開く。

 それを見たディシディアはやれやれ、と言わんばかりに肩を竦め、


「私だって大人だよ? これくらいどうってことないさ。まぁ、少々驚いたがね」


「……なんだか、いらない労力を使ったような気がしますよ」


「そういうこともあるさ。ほら、次はどこに行くんだい?」


 ディシディアは項垂れる良二の手を握り、先へ移動するよう促す。彼はしばし黙り込んでいたが、ややあって歩きはじめた。ただ、その足取りはおぼつかない。今のやり取りで元気をいくらか失ってしまったようだった。

 ディシディアはそんな彼の顔を見上げ、


「ところで、リョージ。君はあそこに入ったことがあるのかい?」


「なっ!? な、ないですよ!?」


「ふふふ、だろうね。君が入りそうな店ではなかったからな」


 ディシディアは首まで真っ赤にしている良二を見ながらそっと目を細めた。

 良二はかなり初心だ。正直、あまり女性に耐性がないように思える。ただ、これには彼の家庭環境が少なからず影響していることをディシディアはよく知っている。だから、軽口は言っても深く踏み込むことはしない。彼にとって家族の話題はかなりデリケートなものだと知っているからだ。

 ただ、いつかは彼も、そして自分もその問題に目を向けなければならない。おそらく、自分たちはこれからもずっと共に生活することになるだろう。だからこそ、お互いに前を向かねばならないのだ。

 ディシディアも前を向いたつもりにはなっているが、正直なところ微妙だ。彼女の時間は、大賢者となって祠に軟禁された時から止まっている。たまに友や恩師の死を思い出して辛い思いをしてしまうのも、まだ完全に思い出と決別することができていないからだ。

 心のどこかで、彼女もそれは理解している。ただ、その一歩が踏み出せないのだ。

 けれど、こうも考えている。自分はもう独りではない。隣には彼がいる。

 ディシディアはうっすらと目を開けて流し目で彼を見やる。顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている彼は頼りなく思えるが、いざという時はやる子だというのはよく知っているのだ。

 そんな彼ははたと足を止め、自分の服の裾を引っ張ってきた。


「行きすぎるところでした。ここですよ」


「ここ……かい?」


 ディシディアは眼前にそびえる天にも届かんばかりの大きな建物を見上げた。珍しい家電などが大量に店先に並べられ、アジア系の観光客たちが重そうな荷物を抱えながら降りてくる。


「ここは家電量販店、かな?」


「ご名答。あ、俺はちょっと店員さん探してきますんで、待っててください」


 言うが早いか、良二は素早く駆けだして手の空いている店員のところへと直行した。二人は何やら話し込んでいるようであり、まだまだ時間はかかりそうである。


「仕方ない。少々待つか」


 彼女ははぁっとため息をつき、一旦店の外に出てきょろきょろと辺りを見渡した。電気街口からはこれまた大勢の人が流れてきており、その人たちは思い思いの場所へと散っていく。

 飯屋へと駆けこむもの、近くにある大型の本屋へ友人たちとともに乗り込むもの、はたまた全身に缶バッヂをつけた状態で家電量販店の隣にあるゲームセンターへと入るものなど、見ているだけで楽しめるものである。


「それにしても、ここには奇抜な姿をした者たちが多いな」


 店の売り子と思わしき女性たちはセーラー服やら巫女服など日常生活ではなかなかお目にかかれないようなものを身に着けている。彼女たちは可愛らしくしなを作りながら客たちにチラシを渡していた。

 また、観光客たちの服装も珍妙である。アニメのキャラと思わしきぬいぐるみを片手で抱えているものもいれば、ジャラジャラとアニメキャラのストラップをつけたものまでいる。同じ観光地だが、浅草とは一線を画していた。

 もちろん例外はいるとはいえ、秋葉にいる人のほとんどは同じ趣味を持っているように思える。浅草は統一感がなかったが、こちらには趣味嗜好の面での統一感があるような気がした。


「こうやって見ると意外に気づけるものもあるな……にしても、アニメか。あまり見ないが、面白いのだろうか……?」


 もちろん良二の住んでいる地域でも深夜アニメはやっているから見ることはできるのだが、ディシディアはいつも十二時を回る前には眠りこけてしまう。それに、良二も大学が優先なため同じかそれより早く寝るのだ。

 おまけに、二人が住んでいる家はお世辞にも広いとは言えない。もし深夜にテレビをつければ、良二の目を覚ましてしまうことになるだろう。


「だとすると、借りてから見るか、それとも……」


「ディシディアさん?」


「わっ!?」


 突如後ろから肩を叩かれ、ディシディアはピョンッとその場で飛び上がる。よほど驚いたのか、耳までピンッと上に跳ね上がったほどだ。


「び、ビックリさせないでくださいよ」


「それは私のセリフだよ。もう買い物は終わったのかい?」


 胸を撫でさすりながら良二の右手のビニール袋を見やる。いい買い物ができたのが嬉しいのか、彼は頬を綻ばせていた。


「えぇ、バッチリです。これからどうします?」


「任せるよ。君のことだ。ランチの場所も決めてあるんだろう?」


 そういうと、良二はニッと口の端を不敵に歪めた。それに対し、ディシディアも同様の笑みを返す。


「わかりました。じゃあ、こちらへどうぞ」


 良二は首肯を返してどこかへと向かっていく。彼はビニール袋を持ってきていた鞄に仕舞いこみ、それからディシディアにふと視線を戻した。


「そういえば、さっきは何か考え込んでいるみたいでしたけど、どうかしたんですか?」


「いや、何。ちょっとアニメとやらに興味が沸いただけだ。リョージは見ないのかい?」


「俺はそこまで見ないですね。たまにやっていれば見るくらいです」


 なるほど、と頷くディシディア。確かに彼はあまりアニメを見てはいないような感じがした。漫画などはあるものの、部屋にアニメ関連のグッズは一切ないのだ。


「あ、でもアニメ映画は見たりしますよ。よかったら、今度一緒に見ませんか?」


「おぉ、いいよ。後、時間があればアニメもみたいな」


「わかりました。そういえば、一乗寺さんがアニメが好きだって言っていたような……?」


「レーコか。うん。今度お店に行ったときにでも聞いてみるさ。ありがとう」


 などと軽口を躱している間に二人は橋を越え、さらに先へと進んでいく。ここまで来ると人は少なくなっていき、静かな街並みが見えてきた。ただし、車の量はやはり多い。それでも喧騒がないのは二人にとって大いに嬉しいことだった。


「それで? 今日のお昼は何かな?」


「スープカレーです。ここに美味しいお店があるみたいで」


「スープカレー? 聞かないな」


「まぁ、見ればわかりますよ。ほら」


 彼が指差す先にあるのは小さな建物。そこには確かにスープカレーという文字。ディシディアは信号が青になるなり、一目散にそちらへと駆けていった。

 良二もその後を追い、店の扉へと手をかける。


『いらっしゃい!』


 中にいた男性スタッフ二人が声をかけてくる。一人は店長、もう一人はバイトらしき風貌だ。彼らはお世辞にも広いとは言えない厨房で忙しなく調理を行っている。ちょうど次の料理ができるところらしく、ぷ~んっとスパイスの効いた香りが漂ってきた。


「こちらでお召し上がりですか?」


 青年の言葉に、二人は首肯する。と、額に手拭いを巻いた彼はにこやかに微笑みながらカウンターにあるメニュー表を指さした。


「まず、こちらで注文してください。その後、二階の方へと料理をお持ちしますので」


「了解した。では……私はチキン野菜カレーを一つ」


「俺も同じものをお願いします」


「かしこまりました。ご飯の量やルーの辛さはどうしますか?」


 言われて、二人はまたメニューに視線を戻す。どうやら、こちらではご飯の量やルーの辛さもある段階まで調節できるらしい。

 辛さは三辛までなら無料。ご飯は大盛りまでなら無料だ。

 なら、答えは決まっている。


「私は三辛のご飯大盛りで。リョージも同じだろう?」


「はい。大丈夫ですよ」


「かしこまりました! では、先に代金の方をお願いします」


 ここは代金を先に払うシステムのようだ。良二が先に払ってくれている間に、ディシディアは店内をぐるりと見渡す。

 おそらく、一階はテイクアウトの客のためにあるものなのだろう。カウンターの向こうには厨房があり、スタッフたちと客の距離がとても近く感じられる。二階へとつながる階段は人が一人がようやく通れそうなくらいだ。

 だが、店の大きさよりも目を引かれるのが壁に貼られたポップなイラストたちだ。アニメや漫画のキャラたちが描かれたイラストが壁一面に貼られている。この店ではコラボを行っているのか、いくつかコラボメニューも出しているようだった。


「じゃあ、お会計終わったんで行きましょうか」


「む、わかった」


 そう答え、先に階段を上っていく。イラストは入り口だけでなく、壁前面に貼られていた。その様相に、ディシディアも思わず息を呑んでしまう。

 が、驚くのはまだ早かった。二階に上がっても、まだイラストたちが飾られていたのだ。しかも、今度はイラストのみならず漫画家先生が書いたと思わしきサインも額に入れられた状態で並べられている。

 かなり有名な漫画家たちのサインもあり、それだけこの店が人気であることが伺えた。

 二階席にはすでに二名ほどの客がいて、スープカレーをバクバクと食べ進めている。良二たちはコの字型に配置された椅子の端の方へと腰かける。


「面白いお店だね。色々と楽しみだ」


 椅子に腰かけ、お冷を二人分注ぎながらディシディアがポツリと感想を漏らす。良二も同意を示しながら、サインやイラストを眺めていた。


「ですね。俺もうわさで聞いただけでしたが、こうだとは知りませんでしたよ」


「人づてに来るのもいいものだね。意外な発見があるから」


「確かに、そうですね。俺たちで選ぶとなると好みが偏っちゃいますもんね」


「まぁ、それでもいいんだけどね。君の好みは私とよく似ているから」


 こくこくとお冷を煽るディシディア。外はまだまだ寒かったが、中は十分暖房が来ているので厚着をしていると暑いくらいだ。彼女は上着を脱ぎ捨て、クルリと丸めてから膝の上に乗せる。

 そうこうしている間に、下の階からまたしてもスパイスのいい匂いが昇ってきた。それだけで口の中に唾が溢れ、腹の虫が騒ぎ出す。


「あ、そうだ。ディシディアさんってひょっとしてカレーを食べるの初めてじゃないですか?」


「いや、カレーパンで経験したことがあるから、どういうものかはわかっているつもりだよ。ただ、スープカレーはね……全くの未知だ」


 ごくりと喉を鳴らすディシディア。未知のものに挑戦することは彼女にとって何よりの至福だ。彼女は口元をニィッと不気味に歪めながらお冷をグイッと煽った。

 それと同時、トントンと階段を上ってくる音が二つ。どうやら、料理が完成したらしい。振り返ると、店主と青年が二人して両手に皿を抱えて二人の方にやってきていた。


「お待たせしました。チキン野菜カレーです。熱いので、お気をつけて」


「おぉ、これがスープカレーか!」


 目の前に置かれた二つの皿を交互に見渡す。一つはこんもりとご飯が盛られたお皿だ。ご飯にも何やらスパイスがかけられているなど、普段見るようなものとは一線を画している。

 もう片方に入れられているのは具だくさんのルーだ。ゴロゴロとした野菜と鶏肉がたっぷりと入れられており、見るからに食べごたえ抜群である。

 すぅっと息を吸い込めばスパイスが混じり合って生み出される芳香が鼻孔をくすぐった。

 すでに二人は我慢の限界である。サッとスプーンを手に取り、手を合わせる。


『いただきます』


 良二はまずご飯をスプーンで掬い、一度ルーに浸してから食べる。そのやり方を見たディシディアも見様見真似でやってみて、ほぼ同時に口に運んだ。

 直後、二人の口の中を鮮烈な旨みが駆け抜けた。ルーは辛いが野菜によって緩和され、よりコクのある味わいになっている。

 ルーはサラリとしているが、インパクトは十分。ガツンと舌に響き、気づけばまた口に運んでいる自分がいる。


「美味しいですね、ディシディアさん」


「あぁ。初めて食べるが、悪くない。体にもよさそうだしね」


 スパイスの中には妙薬として知られているものもある。医食同源という言葉があるが、まさしくそれだ。スパイスによって体の機能が整えられていく感じ……これが中々癖になる。

 それに、ルーに入っている野菜たちも秀逸だ。トマト、ナス、ニンジン、ブロッコリー、ピーマン。栄養面でも完璧な上に、味も抜群。トマトは酸味があり、噛むとじゅわっと汁が溢れだす。それをルーやご飯と絡めるだけで天にも昇りそうな心地になってしまう。

 薄くスライスされたナスとゴロゴロとしたブロッコリーはスープカレーの中で食感と言うアクセントを与えてくれる。ナスはもぎゅもぎゅ、ブロッコリーはゴリュゴリュとした快音を口の中で響かせた。

 にんじんは一本を半分カットした形だ。厚みはかなりのものであるが、スプーンを入れると驚くほど簡単に切れる。まるで豆腐のようにすぅっと切れる様を見て、ディシディアはふんふんと興味深げに鼻を鳴らした。

 ピーマンは苦味が抑えられており、噛むとむしろ甘い。けれど微かに感じる苦味があるためにいつまで経っても飽きが来ない。


「これ、結構お腹に溜まりそうですね」


「たぶん、具が多いからかもね。まさかチキンもこんなに入っているとは思わなかったよ」


 ディシディアはスプーンでチキンを掬って彼に見せつける。大ぶりの鶏肉はこれでもか、と言わんばかりにルーの旨みを吸っている。スパイスによって数倍以上に増強された鶏肉の美味さたるや、もはや筆舌に値する。

 最初はおっかなびっくりだったディシディアも今ではすっかりハマってしまったようで、ガツガツとスープカレーを口に運ぶ。その度に額からは汗が噴き出てきて、彼女は机の上にあるティッシュで汗を拭った。

 スパイスによる発汗作用と辛いものを食べた時に起こる反射だが、案外心地よい。先ほどまで外の寒さが残っているような気がしたが、そんなものは一瞬で飛んでいってしまった。


「ふぅ……もうお腹いっぱいですよ」


 ルーを最後の一滴すら残さずに飲み干した良二は満足げに腹を撫で擦る。辛いものを食べたせいか鼻水が出ており、額には汗の玉が浮かんでいる。見かねてか、ディシディアはティッシュを彼の方に差し出し、自分も最後の一滴を飲み干す。


「ご馳走様。うん、大満足だ。できれば、次はトッピングにも挑戦したいものだ」


「えぇ。あ、そうだ。カレーが気に入ったなら、色々食べ比べしてみませんか? 確か、駅の近くにカレー屋さんがあったんですよね」


「おぉ! いいね、もうお腹が空いて……冗談だ。そんな目で私を見るな」


 ディシディアはジト目で良二を睨む。彼は呆れたような目つきをしており、小さなため息をついている。けれど、むくれるディシディアを宥めるようにひらひらと手を振り、


「今日は食べに行けませんけど、今度行きましょう。後、今度暇があれば俺がカレーを作ってあげますからね」


「それはいい。君の作る料理は大好きだからね。プロ並み……とまではいかないが、食べていると安心するような味なんだ。何なら、毎日でも食べたいくらいだよ」


 潤んだ瞳を向けてくれる彼女についドキリとしてしまう。が、良二はぷいっと目を逸らし、


「あ、ありがとうございます。俺でよければ、いつでも作りますよ」


 頬をほんのりと赤く染めながら呟く。一方ディシディアは照れている彼をからかうようにニヤニヤと腕組みをしながらその顔を見上げていた。


さて、今回もまた実在するお店です。スープカレー・カムイさんにお邪魔してきました。もちろん、店長さんに許可は頂いております。

実は私はまともなスープカレーを食べたことがなかったのですが、正直ここに行って考えが変わりました。リピーターになってしまいそうです。また、お値段もリーズナブルでしたので、是非行ってみてください。

それでは最後に、スープカレー・カムイ様。そして店長さん。掲載許可を下さってありがとうございました。本当に美味しい料理と時間を楽しめてよかったです。また行くことがあるかと思いますので、その時はまたよろしくお願いいたします

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