第百二十三話目~落語と寿司弁当 浅草演芸ホールにて~
文化祭の翌日、ディシディアと良二は電車に揺られてある場所に向かっていた。そことは、浅草。歴史情緒あふれる昔ながらの町並みが残された観光名所だ。
「今日は人が少ないね」
「まぁ、月曜日ですからね」
文化祭は土、日にわたって開催された。もちろん、それ以前にも準備期間などはあったため、本日は振替休日ということにされているのだ。そのため、ディシディアたちは小旅行に繰り出している。
「それにしても、私に見せたいものがあると言っていたが、なんだい?」
「ふっふっふ……ほら、昨日一昨日で色々芸能に興味を持ったって言っていたじゃないですか。ですから、ちょっと芸能の本場とも言える浅草に連れてこようと思いまして」
「芸能の本場か。ずいぶんと大きく出たね」
実際、その言葉はあながち間違いではないだろう。
浅草はかつて文化の中心地だった。日本初の遊園地である『花やしき』が設置されたり、はたまた昭和の時代には映画館や劇場がこれでもかという程建設されたりと、それだけの歴史と実績がある。
だからこそ、良二は自信を持ってここを勧めることができたのだ。
「おっと。もう到着か」
ぷしゅ~っという音を立てて電車の扉が開く。二人は転ばないよう細心の注意を払いながら外に歩み出て、改札へと向かっていく。その間、良二は腕時計を眺めて今日の予定を脳裏に浮かべていた。
昨日帰った後――というか、元々彼自身も浅草には一度赴きたかったのだ。そんな折、ディシディアが芸能に興味を持ってくれたため、このような結果になったのである。
「リョージ。足元に気をつけたまえ」
「あ、はい」
つまずかぬよう足元を眺めながらエスカレーターを降りる。そうして改札を潜るなり、ディシディアは驚愕に目を見開いた。
だが、それも当然だろう。なにせ、月曜だというのに駅周辺は外国人観光客で賑わっていたのだから。電車にはいなかったところを見るに、おそらくはバスツアーか近所に宿を取っているのだろう。中々の熱気だった。
「こっちですよ、ディシディアさん」
良二はディシディアの手を引いて歩いていく。彼女はされるがままになりながらも、周囲に気を配るのを忘れない。
かんざしを売っている店や、下駄などを専門に取り扱っているお店など、少なくとも普通に生活している中では見当たらない店が見えてくる。着物屋などもあり、中には外国人観光客へのレンタルを行っている店もあった。
「へぇ……ここはちょっと異質な感じがするね」
「たぶん、その認識は間違っていないと思いますよ。浅草は昔の日本をモチーフにしていますから」
浅草はかつての街並みを残している。いや、正確に言うならば、作っている。雰囲気を作り、観光客を誘致するためだ。
駅周辺は平成らしく車が激しく行き来し、排気ガスに満ちている。かと思えば浅草寺の周辺には昭和風な雰囲気を醸し出すレトロな建物などが用意されている。そうして中に入っていき仲見世付近に到着すると、江戸時代風な街並みが作られているのだ。
宅急便を取り扱っている店の看板には『飛脚』の文字。どうやら、現在の職業との互換性を考えて街づくりを行っているらしい。芸の細かさはディシディアにも伝わったらしく、彼女は興味深げに辺りをきょろきょろと眺めていた。
が、そうすると自然と移りこんでくるものがある。
お土産と、食べ歩きできそうな軽食だ。
揚げ饅頭、きび団子、雷おこしなどなど。気を抜けば、すぐさまそちらに走り去ってしまいそうだが、ディシディアはグッと堪えてみせる。ここでわがままを言って良二が立ててきた綿密な計画を崩すわけにはいかないからだ。
二人はゆっくりと仲見世を素通りし、商店街の方を進んでいく。その途中で、良二が申し訳なさ気に頭を下げた。
「仲見世には後で寄りますんで、まだ我慢してください」
「わかっているとも。それにしても、ここは面白いな。見たことないものがたくさんある」
「昔の日本っていうのも中々面白いですからね。下手すると、外国の品よりも貴重なものがありますよ」
「ほぅ。それは是非見てみたいものだ」
ディシディアは期待に胸を膨らませる。こちらの世界は、本当に飽きることがない。
生きているだけで毎日違う発見がある。特に旅行に来た時はまるで異界に来たような錯覚を覚えるのだ。自分たちの生活圏から遠いものはやはり『異質』である。だからこそ、面白いのだ。
「ところで、ディシディアさん。今日は面白いものをたっぷり堪能させてあげますよ」
「大きく出たね。なら、楽しみにしておくよ」
「えぇ、そうしてください。見たことない芸能や食べ物がいっぱいあるんですから」
それはディシディアも何となく感じていた。芸能に関してはよくわからないが、食べ物に関しては仲見世を見る限り嘘は言っていないようである。
ディシディアは一人ごちていたが、視界の端に移るある乗り物をしてハッと顔を上げた。
「リョージ。あれは何だい?」
「あぁ、人力車ですよ。浅草では結構見るらしいです」
そう。彼女が見ていたのは人力車だった。カップルらしき二人組を乗せて、筋骨隆々の美青年が人力車を引いていく。その見慣れぬ光景に、ディシディアは心底驚いているようだった。
「まさか、人が引いているとはね。驚いたよ」
「あっちではどうだったんです?」
「む? あぁ、地龍を捕まえて移動手段にしていたことの方が多かったよ。案外、彼らの乗り心地は悪くなかったからね。もちろん、こちらの車や電車などには及ばないが、あれならではのよさがあったから」
懐かしげに目を細めるディシディア。あちらでは人力車というものは存在しなかったのだ。
人間よりもはるかに力の強い幻獣などを飼い慣らした方がより多方向に活用が効く。それに、ごく少数ではあったが魔法を使って移動する者たちもいた。
《魔車》と呼ばれるものはあちらでメジャーな乗り物だった。魔車と言っているが、別に車を示す言葉ではない。ここでの車は魔法で動くもの、という意味合いで用いられている。
そのため、魔車のカテゴリにはシンプルなソリのようなものもあれば、絨毯の様なものもあったし、レアなものだとボールのようなものまであった。
その種類は多岐に及ぶのだが、利用にはとても金が要るのだ。なにせ、魔車は魔力での身動き、それを供給するのは御者の役割だ。魔力は有限であり、使いすぎれば最悪の場合命に係わる。
そのため、魔車というものは概して高額でとてもじゃないが庶民が利用できるものではなかったのだ。その点でもやはり、こちらの車には大きく劣る。
改めて、ディシディアは感嘆のため息を漏らす。こちらの世界はあちらとはまるで違う。ごく一部のものだけでなく、大衆たちも技術の恩恵を受けられているのだ。
(勉強になるな。私たちの世界でも取り入れたい制度が山のようにあるじゃないか)
ディシディアは顎に手を置いて考え込んでいる様子だった。が、ちょいちょいと良二に手を引かれハッとする。慌てて見上げると、彼は前方を指さしていた。
「もう着きますよ。お財布の準備をお願いします」
「あぁ、わかったよ」
言われて、ディシディアはがま口に手をかけつつ前方を見やった。そこでは珍妙な格好をした男性が声を張り上げて客寄せをやっている。そして、彼の後ろにある建物にはズラリと写真が並べられ、その下には名前が書きこまれていた。
それを見た瞬間、ディシディアの脳内で電球が光った。
「なるほど。演劇を見るのかい?」
「半分、正解です。あそこは浅草演芸ホールって言って……まぁ、見たらわかりますよ」
良二は意味深な笑いを向けてから入口の方へと向かい、受付――木戸と呼ばれている木星の囲いの向かいに座っている女性の元へと向かう。どうやら、ここでチケットを買うようだ。
「すいません。学生一人と小学生で」
サラッと言い放った良二をじろりと睨むが、彼は曖昧な笑みを返すだけで特に訂正はしない。ディシディアとて自分が成人済みだと言っても信じてもらえないことはわかっていたが、それでも少しは躊躇ってほしいと思ってしまう。
が、とりあえずここで立ち止まっていても仕方ない。まだ何か言いたそうにしながらも財布を取り出し、代金を受け付けの女性へと渡した。すると、彼女は代わりと言わんばかりに二枚のチケットを差し出してきた。
「どうぞ、楽しんでいってください。夜の部からは入れ替えになりますので、その際は追加料金を頂きます」
「はい。わかりました」
彼女に頭を下げて、中へと足を踏み入れる。その瞬間、ディシディアは空気が感じるのを肌で感じた。
入り口をくぐると、まず迎えてくれたのは一人の女性スタッフだ。彼女はぺこりと一礼し、
「こんにちは。こちらでチケットの半券を頂きます」
そっと手を差し出してきた。良二たちは彼女に一礼し、チケットを渡す。と、彼女は丁寧にチケットを切り取り、良二たちから見て右側を指さした。
「あちらでは売店もありますので、よければご利用くださいませ」
「売店? ここでは何かを食べてもいいのかい?」
思わず、口が開いてしまった。ディシディアはハッと口を塞いだが、受付の女性は朗らかに答える。
「えぇ、そうですよ。公演中でも飲食は自由です。ただし、あまりまわりのお客様のご迷惑にならないよう、お気を付け下さい」
「なるほど。では、ちょっと買い物をしようか」
「ですね。まだやっているみたいですし、次の奴に切り替わる時にでも入りましょう」
耳を傾けると、やや古びた建物ドアの向こうからは笑い声が聞こえてくる。ここで入るよりも、次の準備をしている時に入った方がいいだろうと判断した二人はひとまず売店を眺め始める。
売っているのは酒のつまみやお菓子など。もちろんアルコール類や炭酸飲料などもあり、かなり充実した品ぞろえだ。こういうところに置いてあるものは市販のものでも特別なものに思えてしまって、ついつい目移りしてしまう。
「どれにするか、決めましたか?」
「あぁ。とりあえず、私は弁当とお茶を頼むよ」
「じゃあ、俺もそれで」
「はい。毎度ありがとうございます」
売店のところに控えていた妙齢の女性は備え付けの冷蔵庫からお茶を二つ取り、続けてどこからか弁当を取り出してみせる。そうして鮮やかな手際でビニール袋に入れ、彼女たちに手渡してくれる。
「はい、どうぞ。楽しんでいってくださいね」
「あぁ、ありがとう。楽しませてもらうよ」
「たぶん、一階は一杯だろうから、二階に行って御覧なさいな。そこで空席があるか見てから、一階に来てもいいですからね」
女性は丁寧に教えてくれる。二人は彼女に会釈し、二階へとつながる階段を上っていった。その間にも、緊張感が伝わってくる。やはり、こういった場所の空気は独特だ。
ねっとりと絡みつくような緊張感があるのに、心の奥からは興奮と期待が湧き上がってくる。実に……心地いい。
二人は二階のドアのところに立ち、そっと耳をそばだてた。すると、ちょうど演目が終わったところらしく、パチパチと拍手がドア越しに聞こえてきた。
「じゃあ、入りましょうか」
「そうだね。なるべく、音を立てないように」
二人は顔を見合わせて唇に人差し指を当てて『し~っ』と言い合ってからそっとドアを開けた。そうして完全に扉が開かれるなり、奥の様子が一気に明らかになる。
平日なのに、二階席にはそれなりに多くの人が座っていた。二人は一瞬その空気に呑まれそうになるも、グッと堪えて姿勢を低くしながら中央の席へと移動。そうして、その中でも真ん中の位置に座り込んで改めて高座の方を見下ろした。
そこでは見習いと思わしき男性が準備を行っているところである。しかしその所作は非常に丁寧で、こなれていることが伺えた。
「おぉ……これは素晴らしい。見たことがないもののオンパレードだ」
ディシディアは興味深げに辺りを眺めている。だが、それも当然だろう。年季を感じさせる場内には提灯が飾られ、高座のところにはいかにも落語家といった風体の男性がやってきている。手には扇子を持ち、凛としたたたずまいを見せる彼はある種の威圧感を讃えていた。
けれど、そんな雰囲気とは裏腹に彼は笑みを浮かべながら座り込み、大きく息を吸いぺこりと頭を下げた。それと同じくして、パチパチと拍手が鳴り響く。
「ふふ、楽しみだね。じゃあ、見させてもらおうかな?」
ディシディアは顎に手を置きつつ、前傾姿勢を取ってなるべくよく見ようとする。良二はそんな彼女を眺めつつ、座席の背に体を預けて高座を見下ろしていた。
――そうして、それから数時間後。そこにはすっかり落語に聞き入っているディシディアと良二の姿があった。
今行われている演目は『時そば』。簡単に言うと、ソバの代金を小銭で払い、それを店主が読み上げている時に時間を尋ね、代金をちょろまかすという話だ。
もちろん、台本通りにやっているわけではない。噺家というのはアドリブが物を言う職業だ。最初は客弄りから始まり、続けて自分の近況報告をしてから演目に入る。すでにその段階で客の心を惹きつける辺りは流石としか言いようがない。
実際、落語に馴染みのないディシディアですら、そこまで引き込まれていたのだ。その魅力は疑いようがない。
(このような芸能があるとは……驚きだな)
ディシディアはすっかり落語にハマっていた。最初はイマイチピンとこなかったが、聞いているうちにグイグイと引き込まれていったのだ。
それはもちろん落語本来の魅力もあるが、噺家の実力に他ならない。
間の取り方、話しのリズム、そして登場人物になりきる時の表情の変化――全てが完璧だった。それは今高座に座っているものに限った話ではない。
まだ二十代だと言っていたものでも、今の噺家に勝るとも劣らない力量を発揮していたのだ。その事実に、改めてディシディアは驚愕する。
「それでは、お後がよろしいようで」
噺家がぺこりと頭を下げると同時、割れんばかりの拍手が響き渡る。無論、その中にはディシディアと良二の姿もあった。
噺家がひらひらと手を振りながらその場を去った後で、ディシディアは放心したように呟いた。
「ついつい魅入られてしまうな……」
「みたいですね。お弁当、全然食べれていないじゃないですか」
良二は彼女の膝にある木製の箱に入れられた弁当箱を見やる。事実、ディシディアは最初こそ弁当を食べることを楽しみにしているようだったが、いつしか演者たちの迫力に呑まれていったのだ。これも無理はないことだろう。
実際、良二も弁当に箸すらつけていなかったのだから。
『それでは、ここでいったん休憩を挟みます』
そんなアナウンスが響くと同時、ディシディアは席を立つ。良二はすっと視線を伏せたが、当のディシディアは不思議そうに首を傾げる。
「なぁ、リョージ。下に行って見てみないかい? その方が、面白そうだ」
「あ、なるほど。お手洗いかと……」
「違うよ。君はどうする? ここにいるかい?」
「いや、行きますよ。お供させていただきます」
「そうこなくてはな」
ニッと口元を吊り上げ、一足先に階段を下りていく。はたと後ろを見れば、良二も扉から出てきたところだった。これならば、先に行って席を取っておくことの方が先決だろう。
そう考えた彼女はすぐさま一階の扉を開け、中へと入っていく。すると、二階とは比べ物にならないほど多い席とそれを埋め尽くさんばかりの人々が映り込んできた。
――が、おそらくこの『中入り』と呼ばれている時間で帰っていく人も多いのだろう。席はチラホラと空いている。
ディシディアはこれまで培ってきた経験から、ある一点を凝視する。そこは劇場の左端の部分。案の定、そこはぽっかりと二人分の席が空いていた。
「よし、あそこにしようか」
先に歩いていき、自分の着ていた上着を良二が座るであろう席にかける。と、しばらくして良二がやってきて笑みを向けた。
「席取ってくれたんですね。ありがとうございます」
「どういたしまして。それにしても、よく私の場所がわかったね」
「まぁ、ディシディアさんは目立ちますから」
「この髪だからね。仕方ないだろう」
彼女はサラリと白い髪を掻き上げてみせるが、そこで良二はちょいちょいと近くにいる人たちを指さした。それを見て、ディシディアは「あぁ」と頷く。
何せ、ここにいる者たちのほとんどはお年寄り。普段は目立つディシディアの美しい白い髪もここでは平凡なものに成り下がってしまっていた。
「はは……失礼。では、どうやって私だとわかったんだい?」
「そりゃわかりますよ。だって、数か月一緒にいるんですから」
「ふふふふ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
ディシディアは心底嬉しそうに笑い、膝の上に置いてある弁当を見やる。すでに時刻は三時を回っているのに、まだ昼は食べていない。普段からしたら絶対に考えられない状況だ。
が、誰しも熱中すると空腹を忘れてしまうものである。ようやく思い出したように鳴り響く腹の虫の声を聴きながら、ディシディアは照れ臭そうに箸を割った。
「さてさて、遅めの昼食といこうか。では、いただきます」
「俺も。いただきます」
二人は弁当のふたを開け、同時にごくりと喉を鳴らす。
その中に入っていたのは大きめの稲荷ずしとかんぴょうの細巻。どちらも非常に美味しそうだ。それが空腹時ならなおさらである。
ディシディアは口の端から溢れる涎を服の袖で拭いつつ、稲荷ずしを箸で持ち上げた。
見た目に違わず、相当の重量だ。ずっしりとしていて、一瞬でも箸を緩めれば落としてしまいそうである。けれど、劇場の照明に照らされてキラキラと輝く様はどことなく幻想的だ。
「あ~~んっ」
ディシディアは大口を開け、一口で稲荷ずしを頬張った。
刹那、噛み締めたお揚げからじゅわっと甘い汁が溢れてくる。これが固めに炊き上げ得られたご飯と意外にも合うのだ。
固めといってもそれは最初だけで、次第に口の中でほろりとほぐれる塩梅である。しっかりとした噛みごたえのあるお揚げとのハーモニーは筆舌に値する。
油揚げは甘く仕上げられているが、酢飯の方は酢によってシャキッとした味わいに整えられている。単体で食べると少々舌が疲れてしまうが、同時に食べると頬が落ちそうなほどの味わいが口に広がった。
「ディシディアさん。細巻も美味しいですよ」
「これかい? 可愛らしい大きさだね」
どっしりとした大きさの稲荷ずしとは対照的に、細巻は一口サイズで非常に可愛らしい姿をしている。ディシディアはそれをそっと持ち上げ、ひょいっと口に放った。
「うん。美味しい。海苔の風味がいいね」
「かんぴょうもコリコリしていて面白い食感ですよね。なんだか、お味噌汁が欲しくなります」
「確かにね。それにしても、やはりこういった場所で食べると普段よりおいしく感じるね」
劇場の独特の雰囲気の中で食べるのも中々に乙なものだ。もちろん稲荷ずしもかんぴょう巻も素晴らしい出来なのだが、食事というのは周囲の環境も大きく関わってくる。
それによって味が数倍にも、数十倍にも引き上げられているのだ。ましてや、空腹の時ならなおさら。二人はあっという間に弁当を食べ終え、近くを通りがかったスタッフが持っている大きめのゴミ袋に空箱を入れる。
すると、またしても場内アナウンスが響き渡った。どうやら、そろそろ始まるらしい。
「じゃあ、また楽しみましょうか」
「あぁ。まだ時間はあるからね。たっぷりと満喫するさ」
腹も膨れ、気合は十分だ。ディシディアは満足げなため息を漏らしつつ、前方に視線を寄越す。そうして、次の演目が始まるのを今か今かと待つのだった。