四季
春なんて、やってこなければいい。
君と出会いたくなどなかったから。
のびのびと芽吹く木々、ゆっくりと開く花弁。春の鮮やかな香りに誘導され、僕たちは出会ってしまった。
空に舞う桜の白も、地を彩るたんぽぽの黄も、僕の目を落ち着かなくさせるだけ。迷惑でしかない。
夏なんて、やってこなければいい。
君と過ごしたくなどなかったから。
いつまでも高い空、うだるような外気。夏の底なしの明るさに浮かれ、僕たちは二人だけの祭を楽しんでしまった。
空に咲く太陽の白も、地から伸びる向日葵の黄も、僕の目をじりじりと焦がすだけ。迷惑でしかない。
秋なんて、やってこなければいい。
君と過ごしたくなどなかったから。
闇に響く虫たちの歌声、机に積み重なる分厚い本。秋の心地良い夜に癒され、僕たちは未来を夢見てしまった。
空を覆う薄雲の白も、木々を飾る紅葉の赤も、僕の気持ちを物悲しくするだけ。不快でしかない。
冬なんて、やってこなければいい。
君と過ごしたくなどなかったから。
寒さに眠る土、冷え切った手と手。冬の静けさに侵され、僕たちはわずかな温もりを確かめ合ってしまった。
空に散る雪の白も、冷たい空気にさらされ染まる頬の赤も、僕の気持ちを凍えさせるだけ。不快でしかない。
君と過ごしたこの季節を、仮説ばかりで振り返る。出会わなければ、共に過ごさなければ……。よぎるのは後悔の念か、否か。
春なんて、こなくていい。
夏なんて、こなくていい。
秋なんて、冬なんて――。
季節を巡り、春に回帰する。
春なんて、やってこなければよかったのに。
僕は君と――愛しい君と離れたくなどなかったのだから。
君と過ごした季節があまりにつらすぎて、幸せすぎて。その紙一重の感情が僕の心を惑わし、瞳を熱くする。
ああ、どうかまた巡り会えますように。
君と。僕と。春に――。