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閑話 結婚式

一週間に一回投稿……したかった。

 空は晴天、昼真っ盛り。

 にも関わらず、俺は酒の匂いのきついギルドに居た。



「頼むよ、リョーガ!」



 俺の目の前で手を合わせている美形少年。俺の数少ない友人であり、また、新婚ホヤホヤで幸せ真っ只中にある男。



「そうは言ってもシン君よ。俺にだって用事があったり無かったり……」


「嘘だろう?」


「バレたか」


「基本的に君の嘘はわかりやすいからね。まぁいいよ、取り敢えずアリスちゃん達にも訊いておいてよ」


「まっ、善処するよ」


 ………………

 …………

 ……



「……ってことなんだが、どうする?」



 アリス、ユキ、ソフィアさん、リヴィ。

 食卓を囲む夕飯の場で、昼あった出来事を話す。



「シンさんとエリーさんの結婚式ですか? 私は参加したいですが……」


「アリスも!アリスも行く!!」



 そう、シン君の頼みは自分達の結婚式に参加してくれ、というもの。

 リア充のお披露目なんか行きたくねぇ、という腐ったことを考えていたのは、俺だけだったようだ。アリスとユキの二人は参加したい、と即答した。


 実際、二人にとってシンくんはともかくエリーさんはいい友人である。この答えは最もなものだろう。



「ソフィアさんとリヴィも参加でいいか?」


「主に従うのがメイドですから」


「マスターに任せますよ」



 どうやら、全員一致で参加の方針が決定したようだ。


 まぁ、せっかくだから俺もシン君をのろってやることにしよう。




 ******




 二週間後の同日。

 俺達一行は、シン君たちの故郷の村へと馬車を走らせていた。

 前に作った、馬車のようなものを初めて実際に走行させている。悪路をものともしない快適な走りである。



「かなり遠くまできたな。辺境にあるリベラに上って(・・・)きただけあって、酷い田舎みたいだな」



 街路すら舗装されていない道。馬車の轍が踏んだ跡すら掠れて見えない。

 その時、前方に小さな木製の柵があらわれた。

 どうやら、漸く目的地に到達したようだ。



「やあ、リョーガ。久し振りだね」


「ああ、今日は楽しませてもらうよ。だが、それにしても……」


「あはは……まぁ、二つ名持ちの冒険者が来るって言っちゃったからね」



 村に入ると直ぐにシン君が応対してくれたのだが、周囲からの視線が非常に多い。何故かと思ったが、シン君の言葉に納得した、

 二つ名はかなり高名な冒険者しか手に入れることが出来ないらしいし、それを持つ俺達が来ることを喧伝したのなら、この状況も当然かもしれない。



「取り敢えず、村長に挨拶してくれないかい?」


「分かった。案内してくれ」



 シン君に連れられてやって来たのは、村の最奥。一際大きな……とまではならないが、ほかの建物より一回り大きい住宅がある。

 そこで村長が待っているとのことだ。

 ひとまず全員で向かうが……



「流石に狭いな……」


「人数が人数ですからね」



 子供が多いとはいえ、俺、アリス、ユキ、ソフィア、リヴィ、そしてシン君。そこまで大きくない家の一室に集まるには多少人員過剰のようだ。



「すみません、遅れてしまいましたな」



 と、どうやら村長がやって来たようだ。小さな村での結婚式となると、人手が足りず、村長までも準備に駆り出されるらしいが……なるほどそれも納得だ。


 三十後半くらいのおっさんだが、傍から見ても簡単に分かるくらいには引き締まった体をしている。俺やシン君より、よっぽど冒険者らしい見た目である。



「この度は、私の愚息の結婚式にご参加ください、ありがとうございます」



 そう言って、村長は深く頭を下げる。



「いえいえ、そんな畏まらなくても……って、息子?」


「はい、そこのシンは私の一人息子でして。おい、シン!」


「ふぁい!?」



 唐突に名前を呼ばれ、シン君は情けない声を出す。



「テメェ、この人たちに迷惑かけてねぇだろぅなぁ!?」


「はいぃ、もちろん!!」



 ん?迷惑を掛けてない……?



「おい、シン君よ」


「ばっ!リョーガっ!!」



 見たこともないような速さで口元に人差し指を当てていた。

 だが、その行動がすぐ側で目を光らせている父親に気づかれない筈が無い。



「さて、シン。ちょっと話をしようかぁ?」


「待って、待ってよ! 誤解だって、誤解なんだよ!」


「うるせぇ! ああ、この近くにエリーちゃんの生家があるので、是非そちらも伺ってみてください」



 そう言い残して、二人は奥の部屋に去っていった。ご愁傷さま。



「……じゃあ、エリーさんの家に行ってみるか」


「はーい!」



 元気よく手を挙げたアリス以外は、みな苦笑いをしていた。




 ******




「こんにちはー!」


「あら? アリスちゃんに、ユキちゃん。リョーガ君もいるじゃない。後ろの二人は初めましてね。私はエリー、よろしくね。

 それで、どうしてこんな所に?」



 着付けの文化がないのか、それともまだなのか。ラフな格好で出迎えてくれたエリーさんが、そんな疑問を口にする。

 シン君、俺達が行くことを伝えてなかったのか。


 俺がその事を伝えると、エリーさんの顔が曇っていく。

 最終的には、「彼にはお仕置きが必要ね……」と呟いている。

 親父さんからのお説教が終わっても、エリーさんからのお仕置きが続くのか。シン君に救いは無いようだ。



「そ、それは置いといて、二人の紹介をしますね!」



 俺は話の流れを切って、ソフィアさんとリヴィに目を向ける。

 二人は頭がいい。俺の目線の意味を瞬時に理解して、話し始めた。



「では、私から。私はソフィア、マスターの従者のような事をしております。気軽にソフィア、とお呼びください」


「わたくしはリヴィエラ=ドラグニル。『久遠』と呼ばれ……」


「ストップ、リヴィ。それは言わなくていいから!」


「そうですの? まぁいいですわ。わたくしはそこのご主人様のメイドをしておりますの。以後お見知りおきを」



 華麗に礼をするリヴィに、メイドが板に付いてきたな、なんて思った。



「私はこれから着替えなきゃだから、夕方に式が始まるまで村の中で待っていてね。それじゃ、来てくれてありがとね」




 ******



 外も日が落ちかけ、茜色に染まる頃合。

 この村では、こういった遅い時間から式を始めるのが慣例らしい。

 村の中央にある広場に全ての村人が集まり、新しい夫婦の誕生を祝うのだ。最も、衆目監視の中、二人は平然としていられないだろうが。


 司会を務めるのは、村の神官らしい男性。彼が式の予定を読み上げる。

 まず、誓いの言葉。次に、関係者からの祝いの言葉。そして、各々が贈り物をし、その後、立食会。シンプルだが、その方がわかりやすくていいのかもしれない。



「それでは、新郎新婦の入場です!」



 神官の声に合わせて、手を組んで歩いてくる二人。

 なんというか、それっぽさがある。

 まさしく、お似合いの夫婦だろう。まあ、夫の立場は弱いけどね。でも、そんなのはどこでも同じな気がする。





 式は恙無く進み、祝の言葉が終わる。

 漸く、俺の出番である。


 贈り物をするのは、この村以外でも一般的なことらしい。

 それを訊いて、俺は殆ど全力でプレゼントを作ってきた。その結果、かなりやばいものが出来た。



『祝福のネックレス』・・・装着者に魔導機神の祝福を与える。


『神装(狩衣)』・・・亜神の加護を持つ法衣。身につけた者は戦闘に敗北しない。


『神剣(簡易型)』・・・亜神の加護を持つ剣。万物を切り裂く。



 ネックレスはエリーさんに、神装―――見た目は布の服にしか見えないが―――と神剣はシン君に渡すためのものだ。

 俺はデザインが苦手なため、そこら辺は全てのヴィオラに任せたのだが、性能は一級品である。


 これを渡すと、シン君は大口を開けて絶句した。心ここにあらずといった様子である。

 一秒だったか、一分だったか。漸く我を取り戻し、何故か俺に文句を言い始めた。解せぬ。



「なんてものを渡すんだ……。全て魔導具……いや、それ以上? どちらにせよ、買うには金貨がいくらぶっ飛ぶ事か!」


「いや、作っただけだから、そんなに掛かってねぇよ? あぁ、デザイン料はちゃんとヴィオラに払ったけどね」


「ヴィオラって、あの最近話題の? 知り合いなのかい?!」


「知り合いってか、俺の弟子だよ。……一応」



 最近は、彼女も忙しいらしく、なかなか会うことがない。そのため、師としての役割を果たせているかと言えば、誰からも疑問が上がるだろう。



「はぁああ?!」



 とはいえ、そんな俺の心情など伝わる訳もなく。ただ、悲しき男の絶叫だけが鳴り響いたのだった。




 全ての日程が終わり、これでお開きになるかと思いきや、最後に一つイベントが残されていたらしい。


 内容は、俺とシン君によるエキシビションマッチ。

 だが、これはまずい。勝てばいいのか、負ければいいのか分からないのだ。

 流石にまだシン君に負けることは無い。驕りのように聞こえるが、客観的事実として間違いない。


 しかし、これはあくまで彼の結婚式のイベントである。ここで新郎を打ち倒すことが正しいとは思えない。悩んでいたところ、エリーさんから天啓(俺が言うのはどうかと思うが)が下った。



「是非、あの人を倒してやってください。それがあの人のためですから」



 なるほど、ならそうさせてもらおう。




 ******




「これより、『新郎』シンと『一人軍隊ワンマンアーミー』リョーガの試合を始める」



 神官の声に従い、俺とシン君の試合は始まった。

 まずは互いに様子見。剣を使った近接戦闘だ。


 だが、俺はシン君を甘く見ていたのかもしれない。なんの補助もなく戦うだけでは、少し押されてしまう。

 自力が違うのだ。俺だって奴隷生活の一環で剣の腕も磨いた。だが、それを上回るのはおそらく圧倒的な才能。

 シン君は少なくとも剣を使うなら、天才と呼ばれる人種だろう。



「全く、羨ましいこった……!」


「君こそ、何でも出来るじゃないか!」



 だめだ、このままではジリ貧になって負ける。少し本気を出すとしよう。



「耐えて見せろよ……」



 魔力を剣に注ぐ。剣の限界を感じる。そのまま即改造する。


『擬似霊剣(薙刀)』・・・魔導機神によって作られた薙刀。



「それは狡い!」



 リーチが急激に伸び、シン君の剣の届かない場所から攻撃を仕掛ける俺に避難が飛ぶ。



「これも戦術だよ」



 勝った!そう確信した時、不意にシン君の気配が消えた。


 ……いや、これは!!




 ******




「勝負がつきましたね」


「お兄ちゃんもシン君もとってもかっこよかったの」



 ユキとアリスの声が聞こえる。結局、最後まで立っていたのは俺だった。

 しかし、



「随分な成長っぷりだなぁ」



 最後、俺は魔法を使った。本来なら使う予定では無かったが、そうしなければ負けていた。


 当然、俺は制限でガチガチに縛られていたものの、俺に勝ちかけるとは。



 果てしない彼の成長に少し恐怖すら感じた戦いだった。

 ……俺もちゃんと鍛えなきゃなぁ。





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